第86話 吸血鬼

「ボンボレスはあの酒場にいるわ」

「リリーっていう女の子が運ばれなかったか」


 ショウがプリシラに詰め寄る。


「来なかったわね」

「リリーの居場所を指針剣で探して欲しいが、リリーという名前は多いんだろうな」

「ええ、たぶん無理ね」

「そんな」

「ショウ、どうする。ここはお前の決断に従う」

「ボンボレスを締め上げよう。手伝ってくれるよな」

「まあな」


 俺達が酒場に乗り込むと、ボンボレスは逃げ出した。

 手下は俺達を食い止めようと必死だ。

 ボンボレスは人望はあるのか。


「あれを使うぞ」

「おう」


 男達は赤黒い錠剤を取り出してかみ砕いた。

 男達から赤黒い魔力が立ち昇る。

 吸血鬼の正体はこいつらか。


 ショウを見ると震えている。

 いやこのぐらいの魔力はたいしたことないだろう。


 ショウの目撃談では全身から赤黒いもやを立ち昇らせていたらしいが、こいつらは呼気から漏れるだけだ。

 だが、魔力増幅薬の話が本当だったと分かる。


「あっ、失敬。ぷぅ」


 毒魔法を使った。

 おお、倒れていない奴が数人いるな。

 そいつらは呼気からだけでなく、目や鼻や耳からも赤黒い魔力を立ち昇らせていた。

 まあ俺にとっては大した奴らじゃないけどな。


「リリーを返せ」


 ショウが突っ込んだ。


「ぶべらっちょ」


 ショウが殴り飛ばされて飛んで来る。

 一撃かよ。

 ショウは人間とやるのは慣れてないのかもな。


 だが、ショウは生まれたての小鹿のような足取りで立ち上がった。


「負けられねぇんだ。【火魔法、毒魔法、毒を気化して凝縮させろ】」


 毒火魔法かな。

 だが、ボンボレスの幹部らしき奴らは倒れない。

 俺はぽんぽんとショウの肩を叩いた。


「任せておけ。サクラの力見せてやる」


 俺は素早く動き、幹部達に一撃を加えた。

 幹部達はおねんね。

 まあ、レベルマックスが殴ればこんなもの。

 ショウが安心したかのように崩れ落ちる。

 感動的だがボンボレスが逃げたんだよ。

 そいつを捕まえないうちにダウンは早い。


 幹部の懐を探ると、魔力増幅薬が出て来た。

 これでショウをシャキっとさせるか。

 蟲毒にも耐えたんだから、薬ぐらいでは死なないよな。

 もっとも副作用があるかは知らないが。


 ショウの口をこじ開け、錠剤を放り込む。

 そして顎を動かし強制的にかみ砕かせた。


 ショウの呼気から魔力が立ち昇る。


「くー、生き返ったぜ」

「よし、まだ頑張れるな」

「おう」


「プリシラ、ボンボレスの行先は分かるか?」

「ええ、いまの指針剣の方角だとあそこね。つぶれた劇場なのだけど、ボンボレスファミリーが悪さをするのに使っているわ」


 俺達はそこに向かって駆けた。

 おどろくほどショウの足が速い。

 もっとも俺とプリシラは平気でついていっているが。


 薬が切れたらショウは寝込んだりするのかな。

 廃人になったりはしないだろうな。

 死んだら俺のゾンビ軍団に加えてやるよ。

 もし、神力の使い方が分かって、生き返らせることができるとしたらショウを真っ先に生き返らせてやる。

 まあ、骨は拾ってやるという奴だ。


 潰れた劇場は、屋根が落ちて、見るからに廃墟だった。

 扉は健在だったので蹴破る。

 中は、ボロボロの幕が掛かっており、舞台の真ん中にはリリーが寝ていた。

 天井の穴から差し込んだ光で、座席の中央はあたかもスポットライトが当たっているよう。

 その、スポットライトの真ん中にボンボレスだろう存在が立っていた。

 なぜなら、全身の毛穴から赤黒い魔力が噴き出て、判別が不可能だったからだ。


「ボンボレスよ」


 プリシラが断言する。


「リリー!!」


 ショウが舞台に向かって走る。

 ボンボレスが動き、ショウを跳ね飛ばした。

 ショウは壁に叩きつけられた。

 ショウよ、ヒーローならここで立ち上がり切り札だ。


「ハックション」


 ボンボレスがくしゃみをする。

 ボンボレスのくしゃみは止まらない。

 ショウが立ち上がった。


「疾病魔法だよ。恐れ入ったか」

「笑止」


 ボンボレスはそう言うと激しく魔力を吹き出した。

 ボンボレスのくしゃみが止まる。

 疾病魔法を魔力で強引にレジストされたな。

 完全にショウの手に余るといった展開か。

 しょうがないな。


「ボンボレスは引き受けよう。ショウはリリーを」

「おう」


 さて、どう片付けようか。

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