第85話 誘拐事件

「遅い。リリーが来ない」


 ショウがそんなことを言い始めた。


「この前みたいに遅刻しているんじゃないか」

「悪い予感がするんだ」

「落ち着けよ。まずは情報収集だ」


 店の女の子から事情を聴いた。


「リリーちゃんなら、後から行くって言ってたわ」


 一緒に魔法戦を観ようとしたらしいが、リリーは準備に少し手間取ったようだ。

 朝、店の寮にはいたらしい。

 そこまでは生存確認が取れている。

 それから後だな。

 猛毒ネズミはショウにはつけていたが、リリーにはつけてない。

 隙を突かれた格好だ。


 下水道の出入り口の猛毒ネズミからの報告はない。

 下水道は使ってないようだ。

 どこかで道草食っているのかな。

 プリシラがいれば指針剣で場所が分かるのに。

 プリシラはいまボンボレスの監視で忙しい。


 どこかで道草くっている可能性もあるが、ショウの女ということでさらわれたという可能性もある。

 エキシビジョンまであと3時間はある。

 いま石舞台では、踊り子によるダンスと演奏が行われていた。

 このあと劇もやるみたいだから、時間は十分ある。


「ショウ、彼女が住んでいる寮からここまでの足取りを調べよう」

「ああ、それしかないかもな」


 ショウと二人、道を辿る。

 ショウは屋台の人にリリーが通らなかったか聞いている。

 屋台で聞くたびに何か買うものだから、アイテム鞄の中に食い物や小物が入ることとなった。


 いくつかの屋台の人はリリーらしき人を見かけていた。

 手がかりは得られたという感じか。

 どこで目撃が途絶えたかを絞り込む。


「消えたのはここら辺りだな」

「路地が怪しい」


 ショウは路地を疑っている。

 路地を入ればまた分岐する。

 全てを捜査するのは容易ではない。

 猛毒ネズミの出番だな。

 俺は猛毒ネズミにリリーの持ち物を嗅がせた。


「前に使った奴だな。頼むぞ。って、おい、そっちじゃない」


 猛毒ネズミが路地ではなくて大通りを辿る。


「どうやら路地という推理は間違っていたようだ」

「ネズミが信用できるか」

「お前の勘よりはな」


 猛毒ネズミは服屋の扉の前で止まった。

 この店に入ったのか。

 店の鍵は閉まっている。

 閉店しているようだ。

 店の裏手に回る。

 あるのは馬車の車輪の跡。


「どうやら馬車を使われたようだ」

「くっ、リリー、どこにいるんだ。馬車に乗せられたのか。誰か教えてくれ」

「ネズミにはもう追えない」


 さてどうするか。

 俺は店の裏口を壊した。


「おい、犯罪だぞ」

「誘拐事件にこの店が関与してなければ、あとで謝るさ。手掛かりはここしかない」

「それもそうだな」


 ショウと二人、店に入る。

 一階が店舗なんだな。

 木の人形に服が着せてある。

 店の服は女性物だった。


 大きな鏡もある。

 リリーが入りそうだ。


 ここにはヒントはないようだ。

 2階に上がる。

 2階の部屋は寝室と作業部屋と事務所になっていた。

 寝室をぱっと見て、人がいないのを確認する。

 作業部屋は大きい机と、型紙やハサミなどの裁縫道具がある。

 ここは関係ないな。


 残すは事務所のみだ。

 何かあると期待する。


 事務所はいろいろな帳面がある。

 全部チェックするのは骨だな。

 注文した客の場所にリリーの名前はない。


 過去の履歴を全部辿るほどの時間はないので、諦める。

 金庫があるぞ。


 扉を強引にねじ切った。


「凄い力だな。カラクリがあるのか?」

「昔、鉄棒を飴のように曲げる芸をやってた。コツがあるんだよ。金属の塊でも弱点みたいな物がある」


 嘘だがな。


「そうか。鉄棒使いが現れたら、お前に任すよ」

「おう」


 中には服の台紙やお金が大切に保存してあった。

 そこに上客の顧客名簿を発見。


 ざっと見たがリリーのはない。

 だが、ボンボレスの名前があった。

 きっとボンボレスが女に服をプレゼントしたのだろう。

 とりあえず、この店はボンボレスとつながりがあることが分かった。


「どうやら犯人はボンボレスらしい。だがリリーの監禁場所は分からない。でもボンボレスの居場所なら分かる。そっちから辿るしかないな」

「それが間違っていたら?」

「ならお前が決めろよ。恋人の生死が掛かってる。お前が決断するなら俺は従おう」

「分かった。ボンボレスを追おう」


 念話でプリシラに呼び掛ける。

 応答がありボンボレスの居場所が分かった。

 その場所に向かって俺達は駆け出した。

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