第112話 逃げ癖

 ウェイをとうとう追い詰めた。

 リリムから念話を貰ったので駆け付ける。


「ここまでか。いや終わらん。ステータスオープン。ははは、力は奪われたが、新たな力を得た。【逃亡】。あばよ」


 ウェイが目にも止まらぬ速さで逃げて行く。

 逃亡スキルか厄介な。

 いまウェイから賠償は取れない。

 瑕疵がないからだ。


 逃亡スキルが芽生えるとはどんだけ逃げたかったんだ。

 逃げ癖もここまで来ると笑いしかない。


「逃げられたけどいいの?」


 リリムが失敗して咎められると思ったのか探るような口調。


「良くないが、逃亡スキルって、ほとんど絶対、逃げられるスキルなんだろう」

「そうね」


「ここは私に任せて。絶対に指針剣で追い詰める」

「それしかないか」


 戦場はいま戦っているのは教会軍だけだ。

 聖遺物が無効化されたいま恐れるに足らん存在だ。


 死亡フラグ3人衆を探すか。

 3人は、捕虜となっていた。


「プフラも捕まったのか」

「すまんな。ウメオは俺なんだ」

「何だってー!」

「だってー!」

「てー!」


「そんなわけだ。釈放してやるよ。そうだこれ、娼婦に使ったお金だ」

「何で?」


「あれな幻影魔法だったから」

「幻を抱いてたのか。詐欺だ。でも気持ちよかったから許す」

「娼婦を抱いて、裏切りじゃなくってほっとしたよ。これで迷いなく告白できる」


 教会軍が全滅して、王都から軍使がきた。


「降伏の条件を話し合いたい」


 ぶっちゃけ、賠償スキルで金は貰ったんだよな。

 この国が滅びてもいいことはない。

 さすがに無責任に知らんぷりを決め込むのはどうかと思う。

 いくらか金を返してもいいぐらいだ。


「条件はない。いや、リリン家の再興をしてほしい」

「それぐらいなら。本当にそれでよろしいのか」

「べつに良いよ」


 話はまとまった。

 アイテム鞄にアンデッドを収納。

 城塞を片付けて、元通りだ。

 戦場は邪気や怨念で汚染されたが、それは俺のせいではない。

 戦いを挑んだウェイが悪い。

 そうだウェイを捕まえたら、殺して後始末をさせよう。


「リリム、別にここで別れても良いんだぞ」

「最後まで付き合うわ。見届けたいの」


 さて、馬車を用意して、商人に戻るか。


「プリシラ、ウェイはどっちだ」

「【指針剣、元勇者ウェイを示せ】。こっちよ」


「プフラ、いや、ウメオ、行くのか。なあ、復讐は虚しいぜ。結婚して子供でも作れよ」

「ミタイナー、方を付けないと先に進めない」


「女、抱いているのより良いことなんてないのにな」

「恋しようよ。その幸せは金貨より何万倍もずっと素敵だ」


「決意したんだよ」

「そのうち、俺の子供を見に、住んでる街へ寄ってくれ」

「俺も婚約者を紹介したい」

「俺も告白した恋人を紹介させてよ」


「分かった、方がついたら、尋ねるよ。みんな達者でな」

「小隊長に敬礼」


 敬礼で三人に見送られた。

 街道には、娼婦役をやっていた女の子達が列をなしている。

 そして、黄色い声援と、手を振ってくれた。


 さて、何の商人になろう。

 ウェイの大まかな行先は、プリシラの指針剣で分かる。

 だが、そこからは情報収集が必要だ。

 口が軽くなると言えば酒だ。

 お誂えに発酵スキルを持っている。

 酒が造れるはずだ。


 なんの酒を造ろうかな。

 蜂蜜酒とか良いかもな。

 そうと決まれば、村で樽と蜂蜜を用意しよう。

 酒造りに必要なのは水。

 美味い水だ。


 美味い水なんて分からない。


「プリシラ、酒造りに適した美味い水を探してくれ。近場で良い」

「うん、指針剣は一番近い所を指すから。【指針剣、酒に凄い適した水】。こっちよ」


 美味い水の湧き出る泉に辿り着くまで、大変だった。

 山の上にあるんだものな。

 まあ、プリシラと二人して取りにいったけど。

 リリム達は蜂蜜を仕入れてる。


 発酵スキルで、蜂蜜酒が出来上がった。

 試飲して、みる。


「ねえねえ、エメオは、ちょっと良いなと思った娘はいなかったのら」


 リリムが酔って絡んできた。


「いないな。復讐を忘れさせるほどの娘はいなかった」

「へぇ、わたちも」

「リリムもだ」

「しょっく、しょくが喉を通らない」


 リリムがケラケラ笑った。


「シャランラ、リリムを寝かしつけてやれ」

「仕方ないなぁ。リム姉がこんなになるなんて罪な奴」

「俺のせいだっていうのか」


 商品には手を付けない派だ。

 もう、リリムには酒を飲ませない。

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