第113話 貴族の館

 商材の酒の準備オッケー。

 プリシラの指針剣の方角も動いてはいないようだ。


 俺達は酒を商いながら進んだ。

 ある街に到着。

 酒を売って、反対側の門から街を出たら、プリシラの指針剣が180度向きを変えた。

 ということは、この街にウェイがいる。


「どこかな?」

「指針剣ではこの館ね」


「ちょっと聞きたい。ここは誰の屋敷だ」

「領主様が所有する屋敷のひとつだよ」


 押し入るのは上手くない。

 リリムが貴族に復帰しているからな。

 俺とは関係ないとか言い張ることもできるが、波風を立てない方が良いだろう。


 ここは酒の商人として中に入るか。

 商業ギルドに行き、あの屋敷に酒を卸したいと言ったら。


「どこでその噂を聞きました?」

「噂?」

「またまた惚けて。あの屋敷にいるやんごとなきお方が、酒浸りだって聞いたのでしょう」

「まあそんなところ」

「紹介状を書きますね」


 紹介状を書いてもらって屋敷の裏口にいく。

 扉をノックすると使用人らしき人が現れた。


「酒を買って欲しいので、商談したい」

「サンプルは?」

「これだ」


 小さい樽を渡した。


「ちょっと待て」


 待たされて、またさっきの使用人が現れた。


「全部買う」


 ここで中に入れて貰えないと困る。


「ええと商談は?」

「言い値で全部買う。文句があるのか」

「ありがとうございます」


 ここは引き下がるしかないな。

 酒はまだ造れるが、納入した量は多い。

 ウェイが酒浸りでも、消費には何十日も掛かるだろう。


 待てん。

 夜、顔を隠して忍び込むか。

 だが、ガードは硬そうだ。

 貴族としては、落ちぶれたとはいえ、王様候補。

 助けて恩を売ることに意味がある。

 暗殺には気をつけているに違いない。

 警報の魔道具がある可能性もある。


 使用人を洗脳して、扉を開けさせるのが良いかな。

 となると昼間か。

 白昼堂々とくるとはウェイも思わないだろう。


 俺は覆面すると裏口をノックした。

 あの使用人が出た。


「【洗脳魔法】」

「曲者だ」


 くっ、精神魔法系の防御手段を持っていたらしい。

 こうなったら押し通るまで。


 扉を強引にこじ開けて中に入る。

 ウェイはどこだ。


 馬屋で馬のいななきが聞こえる。

 くそっ、馬に乗ったな。


 屋敷の正面に回ると、ウェイと同じ背格好の男が5人、馬に乗って色々な方向に去っていく所だっだ。

 どいつがウェイか。


 逃げられた。

 某金属スライム並みに逃げ足が速いな。

 プリシラを伴わなかったのが敗因か。


「駄目だったみたいね」


 宿でリリムが俺を迎えてくれた。


「相手の逃げ足は速い。なかなか捕まらないかもな」


 プリシラに指針剣を使ってもらって、追跡を開始する。

 途中潰れた馬があった。

 むごいことをする。

 ここからは徒歩かな。

 さらに進んで行くと、2頭立ての馬車がいて、繋がれた馬は1頭だった。


「馬を誰かに売ったか?」


 2頭立ての馬車の商人に聞くと。


「貴族風の男に売ったよ。儲かったのなんのって」


 こちらの馬はゴーレム馬なので疲れない。

 このまま飛ばせば追いつくはずだ。

 ゴーレム馬を飛ばす。

 だが、道で立ち往生してる荷馬車を見つけた。


「トラブルか?」


 聞いてみる。


「へばった馬と交換して、馬の休憩中だよ。気にせず先に行ってくれ」


 おかしい、こんな都合のいいことってあるか。

 まるで逃げ道を案内されているみたいだ。

 逃亡スキルだな。

 最善の逃げ道を指示されているに違いない。


 となると追い詰めるには何か策を練らないと駄目か。

 それ以外だと、根負けしてウェイが投降するのを待つ。

 あれが大人しく投降するような玉じゃないのは分かってる。


 こういう奴をやるには餌だな。

 餌でおびき寄せる。

 ウェイが欲しがっている物。


 それは王位だな。

 王様と交渉するか。

 だが、現れないと王位は継がせんと言っても、たぶん現れないんじゃないかな。

 そんな気がする。


 となると人質か。

 王女は流石に不味いな。

 それにウェイの親兄弟を人質にしても出て来ない可能性がある。

 奴ならあり得る。


 奴が命と同じだと思っていることは何だ。

 落ちぶれた今となってはそんな物はないのかもな。

 推測が当たっている気がする。


 追いかけながら、アイデアを練ろう。

 どうやらそれしかないようだ。

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