第9話 滅殺の時

Side:リリム


 リベンジよ。

 待ってなさいツボメイク。

 媚薬が使えなくなったあんたなんて敵じゃないわ。

 前回の分とカモネギアの分を合わせて敵討ちよ。

 ツボメイクの工房はやはり悪趣味。

 女の喘ぎ声が外まで聞こえてきた。


 顔を赤くして判断が鈍る程ウブじゃないわ。

 扉を蹴破ると、ツボメイクが笑ってた。


「ひょひょひょ、蜜壺になりにきたらしい。【媚薬生成】」

「だから効かないわ。一騎打ち所望つかまつる」

「ひょひょひょ。お前ら、この女を拘束しろ」


 工房にいた女性が動き始める。

 くっ、彼女達は犠牲者。

 斬り殺すことはできない。


「ひょひょひょ、手も足もでないか」


 女性達が一斉に踵を返し、ツボメイクの手足を拘束した。


「なんのつもりだ」

「女性達に非道な行いをするから裏切られるのよ。【鋭刃】【斬撃】」

「ぐはぁ」


「殺して」

「楽にさせて」

「地獄を終わらせて」


「媚薬生成のスキルは解毒スキルで解けるはずよ。我慢して」


 今にも自殺しそうね。

 私は剣の柄で殴って意識を失わせた。

 ポーションを飲ませたから、いくらかはましなはず。

 待ってて、治療してあげるから。


Side:ウメオ


 俺は客を装ってゼニエロの娼館に入った。


「いらっしゃい。あら、初めて」

「そんな気分じゃなくなった。ちょっと風に当たって来る」

「ちょっと、冷やかしはお断り」

「これで良いだろう」


 金貨1枚を投げ渡した。


「ごゆっくり」


 さて、ゼニエロは帳場だな。

 俺は帳場の入口で人がいなくなるまで待った。


「お客さん、どうかされましたか」

「いえね。酔って起たなくなっちゃったんだよ。ここで酔い覚ましさ」

「帳場には入らないで下さいよ。なんせ金がありますから」

「分かってるって」


 ゼニエロ一人になった。

 帳場にするりと入る。


「お前、誰だ。強盗だな」

「死んでもらう。所詮この世はうたかたの夢」

「ふん、伊達に修羅場は潜ってない【身体強化、投擲】」


 ゼニエロは文鎮を投げてきた。

 だがレベル1のスキル無しのヘロヘロなのは喰らわない。

 軽く避けて、首を掴んで力を込める。


 ゼニエロの力が抜けた。

 心臓に耳を当てる。

 死んだな。


「カモネギア、遅くなったな。許せよ」


 カモネギアの霊に、手を合わせて祈った。

 人がこないうちにずらかろう。


Side:シャランラ


「マルガリータ好きだ」


 デビアクタが舞台で独り芝居している。

 台詞棒読みで全然なってないわ。

 笑ったら悪いわね。

 下手な横好きは嫌いじゃない。

 だけど、自分の存在意義である芝居を女を騙すために使うのはどうなのよ。

 芝居が穢れるわ。

 だから、そんなに大根なのね。

 人の心が分からない役者なんて存在している価値がない。


「誰?」

「悪いわね。蜘蛛ちゃんお願い」


 デビアクタの首に蜘蛛の糸が絡みつく。


「【演技】やめて、お願いだよ、綺麗なお姉さん」


 ほんと、スキルがないと大根ね。


「次は蛭にでも生まれ変わるのね。そうしたら首を絞められても平気かも知れない。糸を絡めて、運命の糸を切る」

「ぐぐぅ」


 デビアクタの声は小さくなっていく。

 やがて抵抗が止まった。

 近寄って、脈をとる。

 止まってる。


「悪いわね。仕事なのよ。芝居が好きなんだったら、糸で死の芝居して満足でしょう。カモネギア、仇は討ったわ」


 私はそっとその場を離れた。


Side:ウメオ


「女領主、賠償で得た金を、媚薬漬けになった女達の治療に使ってくれ。それとゼニエロの娼館の女達の支度金な」

「ええ、分かってる。行く場所のない女達は、私の領地で働かせるつもり。あそこなら客だった人も来ないでしょうから、嫌な思いをしなくて済むわ」


 あの少女がいたので呼び止めた。


「カモネギア姉さんのことありがとう」

「良いんだよ」

「カモネギア姉さん天国で元気にしてるかなぁ」

「見せてやろうか」


 経験値を代償にカモネギアの様子を見る。

 カモネギアは復讐者の園で花畑に埋もれて眠ってた。

 狼系のモンスターのゾンビが近寄ってきて鼻づらで頬っぺたを突いてから舐めた。


「くーん」

「あら、遊びたいの。じゃ、追いかけっこしましょうか【身体強化】」

「わふぅ」

「ほらほら、遅い遅い」

「わんわん」

「きゃ、捕まっちゃった」


 覆いかぶさるゾンビに顔を舐められるカモネギア。


「今度は取ってこーい【投擲】」


 カモネギアが骨を投げて、それをゾンビが追いかける。

 空中で見事キャッチ。

 ゾンビは駆け足でカモネギアの所に戻って来て骨を落とした。

 スケルトンが一体、キョロキョロしてる。


「ごめん、これあなたの骨?」


「カモネギア姉さん、楽しそう」

「来世もきっと幸せさ」


 何となくすっきりした。


「くんくん、女の匂いがする」


 マリーが鼻にしわ寄せて俺の胸の辺りを嗅ぎまわる。


「しないよ」

「いやしますわ」

「あらあら、稼ぎは一丁前ではないのに、女遊びとは。性根を叩き直してあげます。座りなさい」


 ゴルダが目を吊り上げて怒る。


「いやだな。働いてたんですよ。その証拠に金貨が1枚」

「まあ、マリー、これで芝居見物でも致しましょう」

「ええ、お母さま。きっとプフラは女といちゃいちゃしたのに決まってます。敵討ちです。役者に黄色い声援を盛大に送ってあげましょう」

「俺のご飯は?」

「そこに昨日の残りがあります」


 はいはい、温めて食べれば良いんですよね。

 分かってますよ。

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