第8話 復讐の鐘が鳴る

Side:ウメオ

「銀貨1枚前金の娼婦のカモネギアが死んだわ。復讐の相手はデビアクタ、ゼニエロ、ツボメイク」


 そう言ってギルド職員が薄暗い醤油蔵のテーブルに金貨を6枚置いた。

 テーブルの上のロウソクの炎に照らされて金貨が妖しく輝いた。

 まるで命の煌めきのようだ。


「待たせたな。今こそ復讐の時だ」


 俺はそう言って金貨2枚を取った。


「失敗してごめんね。あの時失敗してなければ」


 女領主が金貨2枚を手に取る。


「女領主、あれがあの時は最善だった。仕方なかったんだよ」

「醤油屋、私達が復讐の方法を常に探らなかったら、彼女達が浮かばれないわ」


「理想論を言っても世界は良くならない」

「機織り、あんた冷たいのね」

「女領主、没落貴族だった時に救われたのは運が良かっただけ。ウメオ以外誰も助けてくれなかった」

「そうだけど、今度は私達が救う側になっても良いんじゃない」

「私はお金のために殺す」


 そう言って機織りが金貨2枚を手に取った。


「とにかく、やるぞ」


 3人で頷き合った。

 ゼニエロの娼館はけばけばしい色の看板、ひびの入った壁、いかにも場末という風体だった。

 客引きが男達を呼び止めている。


「ちょっと聞きたい?」


 俺は娼館から出てきた少女を呼び止めた。


「何?」


 かなり警戒されている。

 それもそうか。

 世間の膿みたいな場所に流れてきたんだもんな。


「カモネギアを弔ってやりたい」

「カモネギア姉さんを。絶対に助けて。カモネギア姉さんは防腐処理されて、ううっ」

「つらかったら泣いて良いんだぞ」

「うわーん」


 少女が泣きじゃくる。

 しばらく泣きじゃくるのを抱きしめてやった。


「落ち着いたか」


 泣き止んだ所でぽんぽんと頭を軽く叩く。


「私達は死んでも男達の慰み物にならなくちゃいけないの」

「そんなことはないさ」


 どういうことか分かった。

 くそったれが。

 戦場でも死姦が好きという奴はいた。

 糞ったれだと思う。

 吐き気がする。

 遺体を穏やかに葬ってやりたいと思わないのか。


「デビアクタはねぇ、お金にならない女は抱かないの。趣味は演技の勉強。演技スキルを使わないと大根役者だから。一日の舞台を勤められるほど魔力がないって言ってた」

「なるほどね」

「娼館にたまに飲みに来るわ。ただの酒が飲めるから」

「そうか」


「ゼニエロは、用心深いからスキルがなんなのか言わないのよ。趣味はもっぱら金勘定」

「ふんふん」

「娼館からほとんど出ないの」

「となると」

「ツボメイクは、媚薬生成ね。男だろうが女だろうが、無敵だわ。趣味は女を堕落させること。いつも工房にいるって」

「よく分かったよ。これで何か食いな」


 銀貨1枚を握らせた。


「ゾンビ娼婦を抱きたい」


 娼館の入口でそう言ってみた。


「うちは色々と揃ってますぜ」

「カモネギアが良いんだが、新しいんだろ」

「ええ、それはもう」


 案内されて部屋に入ると薬品の匂いがした。

 ベッドにはカモネギアと思われる全裸の遺体。

 俺はベッドのシーツを剥がして遺体に掛けてやった。


 俺は遺体に手を合わせた。

 そして手を握る。


「賠償スキルを使わせてやる」

『本当? 【賠償】』


――――――――――――――――――――――――

名前:カモネギア

レベル:22

魔力:752/752

スキル:

  演技

  投擲

  身体強化

  媚薬生成

――――――――――――――――――――――――


 カモネギアのステータスが頭の中に浮かぶ。

 うん、無事に取れたようで何より。


「つらかったな。経験値貰うぞ」

『好きに使って』


 カモネギアの遺体が塵になっていく。

 再び手を合わせてカモネギアの幸せを願った。

 媚薬生成は要らないスキルかも知れないが、健全に使う分には役に立つだろう。

 来世で良い彼氏が出来たら十二分にいちゃいちゃすると良い。


『ありがとう』

「ステータスオープン」


――――――――――――――――――――――――

名前:ウメオ・カネダ

レベル:22

魔力:0/0

スキル:

  賠償

――――――――――――――――――――――――


 足元には金貨の山。

 アイテム鞄にそれを詰め込んだ。

 何食わぬ顔で娼館を出た。


 醤油蔵に行くと、リリムとシャランラは揃ってた。

 3人とも無言で頷く。


 滅殺の始まりだ。

 夜中、3人が闇に溶けていく。

 教会の鐘が鳴り、カラスが物悲しそうに鳴いた。

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