第2話 異世界転移

 2年前、会社の仕事帰りに、めまいがしたと思ったら、白い空間だった。

 やばい、目の病気か。

 そう思って自分の手を見ると、自分の手と体と服は色がついて見えている。

 目の病気ではなさそうだ。

 となると白い空間はなんなのか。


「すまんな。次元の裂け目を修復するのが遅れた」


 いつの間にか目の前に人が立っている。

 若い男だが雰囲気は年寄りだ。

 不思議な人だ。


「どちら様?」

「神と呼ばれることもあるが、実際は管理者だ。全知全能などではないからな」

「俺は元の世界に戻れるの?」

「それが地球は10万年の時が進んで、もはや人類は一人もいない」

「滅びちゃったのか。温暖化は止まらないと思っていたからな」

「どうして欲しい? 時を戻したりは出来ないぞ」

「謝罪と賠償を要求する」

「すまんかった。これでいいか」


 神に頭を下げられた人間は俺ぐらいだろう。

 俺は神に対しては別に怒ってない。

 自然災害みたいな物だったんだろう。

 だけどミスを認めているのだから、謝ってもらった。

 これですっきりだ。


「謝罪はそれで良い」

「ではな。ステータスオープンと唱えるといい。達者で過ごせよ」


 視界が街に切り替わった。


 ちょっと待て。

 賠償がどこかに転移することだなんて聞いてない。

 白い空間で暮らそうとも思わないが。


「魔王が現れたってよ」

「そいつは物騒だな」


 道行く人の会話が分かる。

 日本語とは別の言語だとの認識もあるし、なぜか意味も分かる。

 賠償のひとつかな。

 考えてはくれてたんだな。


「ええと、ステータスオープン」


――――――――――――――――――――――――

名前:ウメオ・カネダ

レベル:1

魔力:0/0

スキル:

  賠償

――――――――――――――――――――――――


 賠償スキルの使い方が分かった。


「【賠償】。神よ賠償を寄越せ」

『次元の裂け目関連の賠償はそれで全てだ』


 さいですか。

 賠償スキルは何か不利益を被った時に、責任がある人間に賠償を請求できるスキルだ。

 もちろん賠償は不利益と釣り合ってないといけない。

 使えるスキルなんだとは思う。


 それにしてもしょぼいステータス。

 レベル1の魔力0かよ。

 この世界で最弱なんじゃないか。


 持ち物をチェック。

 ボールペンに、ハンカチ、カードサイズのソーラー電卓、財布、腕時計。

 これだけだな。

 鞄は地球にあるらしい。


 まずは金だな。

 腹がぐぅと鳴った。

 露店の肉の串焼きがやけに美味そうだ。


「おっちゃん、串肉一つな」

「はいよ」

「これで良い?」


 俺は500円玉を出した。


「それでいいぜ」


 串肉をほおばっていたら、子供が来てこんなことを言った。


「やーい、騙されてやがんの。串肉に銀貨1枚出すなんてお貴族様か。おいらにも金を恵んでくれ」


 それは良いことを聞いた。


「【賠償】」


 俺の手の中には銀貨1枚と銅貨8枚があった。


「ほら、教えてくれたお駄賃だ」


 銅貨を一枚子供に投げる。

 子供は器用に銅貨をキャッチした。


「ありがと」

「仕事を斡旋してくれるような所はないか」

「冒険者ギルドに行くと良いよ。あそこなら騙したりしないから。ただし喧嘩っぱやいのがいるから腕に自信がないとたかられるだけだ」

「教えてくれて、ありがとよ」


 冒険者ギルドの場所を聞いてさらに銅貨1枚を子供に与えた。

 詐欺、たかり行為、ウェルカム。

 賠償スキルで身ぐるみ剥いでやるよ。


 冒険者ギルドに入ると、冒険者が俺に目をやり、そして興味を失った顔をする。

 俺はカウンターに近寄った。


「何かご依頼ですか」

「いや仕事を請ける方」

「そうですか。見たところ初めてですよね」

「そうだ」

「用紙に記入をお願いします」


 そう言って鉛筆みたいなのと紙を出された。

 書いてある字も分かる。

 あの神様、ちゃんとやってくれたのだな。


 名前、レベル、スキル、特技の欄がある。

 ステータスを見たから特技以外は分かる。

 特技はどうしよう。

 そうだ調達係なんていいかもな。

 不良品つかまされても、騙されても関係ない。


 返って儲かるぐらいだ。

 特技は調達。


 そう言って用紙を出したところ、後ろから肩に腕を回された。


「登録したな。冒険者の世界へようこそ。くくくっ、カモの到来ってね。痛い目に遭いたくなかったら酒代を出しな」

「出さなかったらどうなるんだ」

「そりゃ出すまで殴るに決まっているだろ。骨折するまではやらないがな。これに懲りたら武器を身に着けないでギルドに来ないことだな。いい勉強になっただろう」

「そうか」


 俺は財布からありったけの硬貨を出した。


「見慣れないやつが混ざっているが、まあいいか。ありがとよ。おいみんな新人様のおごりだ」


 ギルドが爆笑の渦に包まれる。

 精神的苦痛も頂き。

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