第55話 後片付け

 聖騎士で逃げた奴がいたのか、聖女殺しがばれて、ダンジョンの出入り口は大軍で埋まってた。


 まったく。


「プリシラ、こういう時も正当防衛って適用されるのか?」

「されるんじゃない。聖女は横領犯だったわけだし、嘘をついていたのだから、尊敬する必要もないのにね」

「それを言ってこいつらが止まるかな」

「止まらないから、力ずくでしょう」


 俺はアイテム袋からありったけのアンデッドを出した。

 聖騎士の大軍からどよめきが起きる。


「死霊魔法使いを殺せ!!」

「殺せる物なら殺してみろ」


 オーガゾンビが前面に出て、聖騎士の軍を押し始めた。

 『邪なる者の香炉』が邪気を吐き出し、邪気が戦場に満ちる。


「うぎゃあ」

「オーガをなんとしても止めるんだ」

「邪気を吸うと弱体化するぞ」

「光魔法を使うんだ」


 聖騎士達は光魔法を使って光輝いた。

 はた目から見ると、光と闇の戦いだな。


「くそっ、なんで数が減らない」


 殺された聖騎士が俺の所に運ばれる。

 俺はせっせとそれをゾンビに変えて戦闘に送り出した。


「お前が死霊魔法使いかぁ!」


 俺は聖剣で掛かってきた聖騎士を切り裂いた。

 聖剣で死ぬんだから本望だろう。


「【死霊魔法】。戦え」


 斬ってはゾンビに変えるの繰り返し。


 戦況は時間が経つほど俺が有利になる。

 隊長級の聖騎士もいたが、カーカス、リギッド、リベンジャーには敵わない。

 次々に討ち取られていった。


 聖騎士から援軍の要請が出されたのだろう。

 教国軍が加わった。

 教国軍は兵士なので、聖騎士より劣る者が多い。


「うわー、神よお助けを」

「こんなの間違っている」

「相手の術師の魔力は必ず尽きるはずだ」


 邪復活魔法ならともかくゾンビにするぐらいの魔力なら使ったそばから回復する。

 無限にゾンビを作れる。


「撤退だ」

「教国軍に撤退の文字はない」

「聖女様の弔い合戦だ」


 いや、言いたい事は分かるけど、どうなんだこれ。


「死神だ」

「神が神官の贅沢を許さず死神を遣わした」

「神の怒りに触れた神官を血祭に上げろ」


 教国軍が同士討ちを始めた。

 えっ、そんなことになるの。

 意外だな。


「まあ、教国も一枚岩じゃないですから」

「贅沢してた神官に思うところがあったのだな」

「どこにでも腐敗はありますから」

「プリシラが信奉する冒険者ギルドにも?」

「もちろん。見つけたら証拠を押さえて狩りますけどね」


 もはや戦場は混乱というよりはない。

 だが、俺の軍のアンデッドはゆるぎない。

 俺達とアンデッド以外は全て敵。

 命乞いされても関係ない。

 死も恐れない。


「神の罰だ。この世は滅びるんだ」

「戦え。神の敵であるアンデッドを滅ぼすんだ」

「お前がやれ。もううんざりだ」


 うん、混乱してる暇があったら逃げたらいいのに。

 実際、何人かは逃げたようだ。

 逃げるなという声もあちらこちらから聞こえる。

 戦いは決したな。


 大地は血に染まり、教国の軍はほぼ全滅した。


『だからうかつに触るべからずと言ったのに』


 謎というか神の誰かであろう声。


 この神は教国軍が殺されるのが気に入らなかったらしい。


「派手に殺したわね」


 呆れた様子のリリム。


「譲り合いの精神て大事だよな」

「この大惨事を道端の出来事みたいに言える精神が信じられない」

「俺って神みたいだからこんなの気にしない」

「そうだった」


 今回の戦いで1万人ぐらいのゾンビを作ったな。

 この軍勢でイヤミィのいる魔法学園を襲うか。

 いや関係ない人に迷惑かけちゃ申し訳ないよな。

 あっちが軍隊を出してくるならともかく、そうでなければ当事者だけでやり合いたいものだ。


「うん、野良のアンデッドが生れているな」

「邪気が満ちるとそういうこともあるのね」

「後片付けが大変だ」

「そういう所は気にするのね」

「他人に迷惑掛けたらだめだろう」


 後片付けは大変だった。

 一週間も掛かってしまった。

 まあ、破損したアンデッドも全て回復したから、それだけ掛ったんだが。


 腐臭がきつく、リリム達は少し離れた所で野営して、戦場跡には近寄らなかった。

 俺が野営地に立ち寄ると鼻を摘ままれた。

 何気に傷つく。

 まあ臭いから仕方ないんだが。

 消臭スキルを誰か持ってないのか。

 ゾンビ全部を調べるのも手間だ。

 香水で我慢しておこう。


 教国は、後片付けの間にちょっかいは出してこなかった。

 懲りたらしい。

 斥候は報告しているんだろうな。

 来るなら来いっていう感じだ。

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