第56話 芸人

 俺達は変装して教国を進んでる。

 なんと旅芸人。


 俺は手品師。

 ガラス瓶の中の銅貨を斬る。

 種も仕掛けもない。

 次元斬の応用。


 リリムは投げナイフ。

 それぐらいしかできなかったともいう。

 潰しの利かない奴め。


 メッサは重量上げ。

 ゴリラ女という芸名だ。

 本人は嬉しそう。

 ゴリラがなんなのか分かっているのかな。


 シャランラは植物を躍らせるのと子蜘蛛の芸。

 何気に芸達者だ。

 シャランラは芸人でも食っていける。


 プリシラは剣による占い。

 スキルだから100発100中。

 浮気男なんか剣で示して拍手喝采を浴びてた。


 アルチは浮く魔道具による玉の芸。

 魔道具ありきの芸だ。

 だが見ていると面白い。

 ドローンで文字や絵を描いたりするのがあっただろうあんな感じだ。


 もちろん俺達の変装は教国にはばれている。

 だが、1万の大軍でも敵わないのにどうやって討ち取ったらいいのか分からないのだろう。

 殺し屋さえ送ってこない。

 死霊魔法使いを殺すとアンデッドが野良になる。

 1万の大軍をゾンビにしたという報告は上がっているから、国内では手が出せないと考えているかもな。

 ただ単に上層部の混乱が収まってないのかも知れないが。


 まあそんな思惑など関係ない。

 守備兵はウメオを指名手配してる。


 俺は芸人のプラムマン。

 関係ない人間だ。

 一般市民にはそれで通る。


「ねえ、ばれているのなら、強行突破しましょうよ」


 ピエロの化粧したリリムがそう言ってきた。


「建前を通してやれよ。教国の兵士を全部アンデッドにしたら罪のない国民が困る。俺は関係ないひとには優しい男だ」

「兵士をさんざん殺しておいて、その言い草。教国の幹部が聞いたら怒りで卒倒するんじゃない」

「奴らが先に仕掛けてきたんだ。俺は悪くない。神様だって触るべからずと警告したのに、無視するからだ」

「あんたが神様だって分かってないんじゃないの」

「ウザリだって最後には分かっていたようだぞ。修行が足りない。きっと欲で汚れているからだろう」

「そうかもね」


 芸を見に来た村人が噂してる。


「魔王との戦いで裏切ったウメオという男が聖女様を殺したらしいな」

「魔王が討伐されたのを根に持っているのか」

「きっと邪神に魂を奉げたに違いない。それで魔王の敵討ちに燃えてるのさ」


「他の勇者パーティは大丈夫だろうか」

「国が守っているんだぜ」

「国に守られてた聖女様は殺されたぜ」

「真の勇者様、神人のウェイ様がいるさ」

「あの神のお言葉にはちょっとな。あの言葉では真の勇者で魔王らしいぞ。ウェイ様が魔王なら邪神に飲み込まれたりしないのかな」

「おう、俺も不思議に思ってた。勇者で魔王という言葉は分からん」

「神の仰ることなど誰も分からないさ」


 あの神託に関しては分からんという声が多数あるな。

 村人も馬鹿じゃない。

 ウェイに対して疑っている奴もいる。


「次に狙われるのなら、イヤミィ様だな」

「そうだろうな。ウェイ様は神だから最後だろう」

「どうなってしまうのかな」

「あれからウメオの消息は聞かないのだろう」

「それさ。不気味でならない。アンデッドの大軍がどこに消えたのか」

「魔法で召喚できるようにしてるんだろ」

「それならどこにアンデッドが現れても不思議じゃないな」

「逃げた方がいいんじゃないか」

「どこに逃げるんだよ」


 村人はかなり不安に思っているらしい。

 だが実際にどうしたらいいのか分からない。

 そんな感じだ。


「ウェイ様には動いてもらって、ウメオを討伐してもらいたいものだ」

「きっと動けない事情があるのさ」

「俺はウェイ様は王女様との結婚が忙しいって聞いたぜ」

「まさか色恋より世界のことを優先するさ」

「邪神に魂を半分取られたのさ。呪いって奴だ」


 良いことを思いついた。

 あることないこと噂をばら撒いてやれ。

 もっとも俺がばら撒かなくても、村人は色々と言っているがな。


「俺の聞いた話だと、ウェイ様は魔王と取引したらしいぜ」


 俺は本当のことを言ってみた。


「それは信じられないな。勇者様だぜ」

「それがさ世界の半分をやると言われて、そうなったらしい」


 ここからは嘘だ。


「じゃあ魔王は誰が討伐したんだ」

「それがな。魔王と取引して安心させて後ろからばっさりよ。ところがよ魔王との取引は魂の契約だったんだ」

「ふんふん」

「で呪われて、魂の半分を邪神に取られた」

「俺の読みが当たったわけか」

「それで、ウェイ様を殺すと神になれる」

「えっ、そうなん」


「ウェイ様は神人だ、神じゃない。人なんだよ。で神になろうとウメオが狙っている」

「へぇ、そんなことになっているんだ」


 あることないこと言ってやった。

 こんな感じで噂を広めれば神になろうとウェイを殺そうとする奴が出てきてもおかしくない。

 神経的にやられたら、良いと思う。

 誰も信じられないで孤独のまま死んでいく。

 そんな筋書きはどうかな。

 このたくらみが失敗しても痛くも痒くもない。

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