第54話 俺が神

「ギルドの法ではあなたは死刑よ」

「プリシラ、そいつを縛ってくれ」

「ええ」


「やめて、私は神に選ばれ愛された人間なのよ」

「じゃあ、神の供物になれ」

「まさか生贄にするつもりじゃあ」

「良く分ったな」


「神よ助けたまえ」

「どうやら神の助けは来ないようだな」

「お願い。あれっ、何であなたが神の力を」


 ウザリが俺を見て驚いている。


「もう終わりだ。【生贄】」


『何を望む』

「魔王の役割を」

『魔王は人間を間引くためのシステムだ。それと人間の進化を促すための触媒でもある』

「そんなことだと思ったよ」

『目的は達成された』

「何だって?」


 応えはない。

 目的は達成されただと。

 それはおいといて。


「プリシラの依頼は何だ? まあ大体分かるけど」

「魔王討伐は金貨1万枚。とうぜん達成されたか調査が入る。今回の討伐は疑問が残ったのでギルドのグランドマスターが調査依頼を出したの。で真相が明らかになったというわけ」


 達成されたってことは、進化した人間が生まれたって事だよね。


「そうだ、指針剣で進化した人間を指し示してくれないか」

「【指針剣】」


 プリシラの剣は俺を指し示している。

 この直線上のどこかにいるのか。

 プリシラが動くが、剣は俺を指し示している。


「はははっ」


 乾いた笑いが出てきた。

 俺が進化した人間だって。

 何の冗談だ。


 レベルはカンストしたけど、それだけじゃないような気がする。


「プリシラ、神の居場所を指し示してくれ」


 ウザリの最後の言葉が気になったのだ。


「いいわよ。【指針剣】」


 剣は俺をピタリと指し示した。

 ええっ、何が起こっている。


 待てよ。

 魔王からの賠償がおかしかったんだよな。

 魔王のレベルじゃどう賠償を取ってもカンストはしない。

 もしかして、邪神から賠償を取ったのか。

 で神の力を授かった。


『魔王が倒され、新たな魔王が生まれました。その者は魔王であり勇者であり神人です。彼こそが真の勇者です。この者にうかつに触るべからず』


 俺が神だと認識したから、アナウンスされたのか。

 神は俺が神人だと知って欲しくなかったのだな。

 そして、今は広く知らしめている。

 人間に俺に対して備えろと言っているのか。


「今の聞こえた?」

「プリシラにも聞こえたのか?」

「ええ」


 どこの神か知らないが、そんなことを触れ回るなよ。

 俺は神になったのだな。

 ウェイはたぶん自分が神だとか言いだしそうだ。


 脳内にウェイとニックとイヤミィの映像が浮かんだ。


『この者らは神を騙りました。やがて、煉獄の炎に焼かれ続けるでしょう』


「プリシラ聞こえたか?」

「何が?」


 今のは俺だけに聞こえたらしい。

 復讐のために世界を壊してくれるなよと言わんばかりだな。


 リリム達が扉を開けて入ってきた。


「ドラゴンが死んでる」

「凄い」

「これを一人でやったの」

「ぐひひ、Sランク魔石で魔道具が作れる」


 アルチの欲望がだだ洩れだ。


「壁に投げつけてから一撃だ。でかいだけの奴には負けない」

「いや硬いでしょ」

「俺のスキルは空間ごと斬り裂く」

「そうだった。心配した私達が馬鹿みたい。劣勢なら助太刀しなくちゃと決意を固めたのに」

「心配してくれて、ありがとよ」


「あの神の声聞いた? 新しい魔王で真の勇者だって、おまけに神様みたい」

「あれは俺」

「えっ、オレさんというのその人は」

「オレオレ詐欺じゃない。ウメオが魔王で勇者で神」

「へっ、嘘だぁ。じゃあ奇跡起こしてよ」

「神の力の使い方が分からん。意識したら力があることは分かるが、使えん」

「宝の持ち腐れね」


「まあ過ぎた力なんだろうな。要らないといえば要らない」

「それよりこれからどうするの」

「そんなの復讐の旅を続けるのに決まってる。プリシラは横領の罪で成敗したいらしいしな」

「聖女が横領してたの?」

「まあな。俺にとっては、はした金だが」


「金貨10枚以上の盗みは死刑。ギルドの法は絶対」

「そんなわけで、次は魔法学園の学園長が標的だ。その次は騎士団長。そして王女と結婚する予定の偽勇者だ」


 ドラゴンをアイテム鞄に収納したが、ドラゴンを売りさばくのが大変だな。

 アイテム鞄の肥やしは勿体ない。


 つんつんとアルチが脇腹を突く。


「なんだ?」

「ドラゴンの素材を頂戴」

「魔道具を作りたいのか?」

「うん。作らせてくれるのなら何でもしちゃう。いけないことでも何でも」

「色仕掛けは通用しない。ドラゴンの素材は必要な時に必要な物に作り変える」

「ちぇっ。どうしても?」

「上目遣いしても駄目だ」

「けち」


 俺に色仕掛けするにはアルチは圧倒的に色気が足りない。

 もっとも、仕事仲間と恋愛するつもりは微塵もない。

 好きに魔道具を作りたいなら、他のパトロンをあたれ。

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