第6話 滅殺

Side:リリム


 罪のない子供を殺すなんて許せない。

 とくに毒殺なんて。

 貴族の間では毒殺はありふれている。

 でもタブーなの。


 毒で殺すと犯人探しが始まり、大抵の場合、黒幕の犯人は処刑される。

 もっとも忌むべき殺し方だわ。


 殺すのなら決闘にすべき。

 それがもっとも貴族らしい。


 私は料理人のドクイタを殺せばいいのね。

 厨房の裏口に黒装束を着て立つ。

 もちろん剣は抜いてある。

 剣が月明かりをキラリと反射した。

 ノック。


「食材を持ってきました」


 ドアが開けられた。


「お前は誰だ。剣を抜いているということは、おおかたシャイネが雇った刺客だな。【毒生成】」

「それは効かないんだよ」

「なんでスキルが発動しない」


 ドクイタは包丁を構えた。

 これはもはや決闘ね。

 遠慮は要らない。


「一騎打ち所望つかまつる。【鋭刃】【斬撃】」


 ドクイタの剣と包丁が当たって火花が散る。

 私はドクイタを包丁ごと斬り裂いた。


「ぐばぁ」

「毒を使う料理人なんて、料理人じゃないわ。だから、包丁に裏切られるのよ。シャイネ、恨みは晴らしたから、静かに眠ってね」


 私は急いでその場を離れた。


Side:ウメオ


 俺は復讐神としてどう生きるべきか。

 待つ間考える。

 滅殺復讐ギルドは正しいのか。

 多くの人を救うのなら、神として世界に関わるべきではないのか。

 復讐スキルでもばら撒いて。

 答えは出ない。


 天界の神も人間界にはほとんどノータッチだ。

 人間の欲望には限がない。

 滅殺復讐ギルドは枷を嵌めて、ごっこ遊びをしているだけかもな。

 所詮この世はうたかたの夢。

 ああ、割り切りたらどんなにいいか。


 鼻歌を歌いながら、アクテダイが路地を行く。

 俺は鉄の櫂棒を持って、その前に立ちふさがった。


「ふふふ、これで店は実質俺の物」

「ふはははっ」

「むっ、誰だ?! 【計算】、何で答えが出ない。お前は何者でもなく、倒す方法などないというのか」

「死んでもらう。所詮この世はうたかたの夢。せいやっ」


 鉄の櫂棒でアクテダイを強打した。

 一撃で死んだ

 相手がレベル1であればこんなもんだ。


「世の中、計算だけでは回らないんだよ。シャイネ、悪かったな。だが仕方ないんだ。神に祈る民全ての要求には答えられない。これで許せ」


 手を合わせて祈った。

 人がこないうちにずらかろう。


Side:シャランラ


 オニゴサイという人には恨みの感情を抱けない。

 魅了スキルを使って男をたぶらかして貢がせるのは別にいい。

 だけど、殺しはいけない。

 一線だと思う。

 罪のない人を殺したら、モンスターと変わりない。

 いやモンスターにも食べていくという理由がある。

 殺す必要のない人を殺すのはモンスター以下だ。

 だから、討伐します。


 私は服屋で客のふりをして待った。

 オニゴサイが来た。

 試着室の陰に潜む。

 オニゴサイが入るのを待つ。

 入った。

 今よ。


「蜘蛛ちゃんお願い」


 蜘蛛が糸を吐いて、オニゴサイの首に掛けた。

 私はそれを全力で引っ張った。


「次はカマキリにでも生まれ変わるのね。そうしたら糸が切れたかも知れない。糸を絡めて、運命の糸を切る」

「ぐぐぅ」


 試着室の中の声は小さくなっていく。

 やがて抵抗が止まった。

 足の方のカーテンの隙間から手を入れて脈をとる。

 止まってる。


「悪いわね。仕事なのよ。服が好きなんだったら、試着室の棺桶で満足でしょう。シャイネ、仇は討ったわ」


 私は買い物客を装ってその場を離れた。


Side:ウメオ



「坊ちゃんのイチャケンな。領主の紹介で孤児院に入れてやれ」

「言われなくてもそうするわ」


 金は賠償スキルで山と貰ったからな、その一部を孤児院に寄付する。

 残りはリリムに預けた。

 イチャケンが大人になったら、渡すつもりだ。


 孤児院に行くと、イチャケンは元気に走り回っていた。


「おじさん誰?」

「おじさんはシャイネの知り合いだ」

「そう、シャイネは天国に行けたかな」

「行けたさ」


 イチャケンの頭を優しくポンポンと叩いた。

 光り輝く地面に一面の花畑。

 そこにシャイネが佇んでいるのが見えた。

 経験値を代償に奇跡を起こしたのだ。


「こらっ」


 シャイネの花冠をゾンビが盗った。

 シャイネが笑いながら追いかける。

 転がるゾンビ。

 大笑いするシャイネ。

 ゾンビの分の花冠を作り始めるシャイネ。

 ゾンビに新しい花冠を被せてやったようだ。


 アンデッドと仲良くやっているらしい。

 次に生まれ変わる時は3つスキルを持っているから、間違わなきゃ裕福な生活を送れるさ。


「僕にも見えた。シャイネ、笑ってた」


 神力を使えば、シャイネを生き返らせることもできる。

 だがそれは俺が肉体を捨てて神になるってことだ。

 そうしないと本体の神力は使えない。

 許してくれ。

 肉体を捨てるということは霊魂だけになるってことだ。

 死ぬと同じだ。


 それに、復活はあまりやらない方が良いような気がする。

 自然の摂理に逆らうことだからな。

 神である俺はそれが何となく分かっている。


 リリム達が死んだら俺はどうするべきかな。

 神になってでも生き返らせるべきか。

 難しい問題だ。

 でも人間は限りある命を生きるから美しいような気がする。

 決めた。

 この肉体の寿命が来たら、魂だけの存在になって、神として生きよう。

 摂理に従って生きる。


「まあ、お母さま、金貨があります」


 やべっ、財布に依頼金の金貨を入れてたのを忘れてた。

 帰った下宿でマリーが俺の財布を手にしてる。


「マリー、倉庫の貸賃が入りますね。どこか美味しい物でも食べに行きましょう」

「俺は?」

「昨日のおかずの残りがあります。温めてお食べなさい」


 ええ、俺の金貨がぁ。

 まあいいけど。

 所詮この世はうたかたの夢。

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