第5話 滅殺始動

Side:ウメオ


「金貨3枚の女、シャイネさんという方だけど、死んだわよ。復讐する相手はオニゴサイ、アクテダイ、ドクイタ」


 プリシラが会合でそう言って金貨6枚をテーブルの上に置いた。


「悲しいわね」


 リリムがすっと手を伸ばして、金貨2枚を手に取った。


「機織りは何かと初期投資がかかるので、私も参加するわ」


 シャランラが金貨2枚を手に取った。


「償いの意味もあるので俺にもやらせてくれ」


 俺は残った金貨2枚を手に取った。

 3人は無言で頷いた。


 さて、弱体化している俺達では返り討ちになる可能性もある。

 計画を練らないと。


 醤油の仕込みに入る。

 何か考えごとをするのに単純作業は持ってこいだ。


「豆の袋を持ってきたぜ」


 商業ギルドで紹介してもらった商人が豆を持ってきた。


「品質は大丈夫だろうな」

「ああ、最高品質だ」

「いくらだ?」

「一袋銀貨3枚だ」


 金を渡してから、袋の口を開ける。

 中はクズ豆だった。

 ほとんどが虫食いだ。


 商業ギルドの質も落ちたな。

 いいや、紹介料をけちったせいだろう。


 だが問題ない。


「【賠償】、銀貨6枚か。儲かったな」


 俺のスキル賠償は理不尽なことがあると賠償を取れる。

 裁判を簡略化しているといってもいい。

 被害をこうむったら、なんらかの見返りを貰えるというわけだ。

 機能が変わったと言ったが前のままだな。

 まあいいか、そのうち分かるだろう。


 クズ豆で実験するか。

 味は落ちるだろうけど、麹カビの試験には使える。

 麹カビはそれらしいのをいくつか採取して来た。


 豆をコトコト煮る。

 麹ってどうするんだ。

 パラパラと煮た豆の上から振り掛けりゃいいのか。

 塩も使うよな。

 誰か教えてくれ。

 うん、異世界で醤油作りを知っていたら驚きだ。


 だが、似たような調味料はあるかもな。

 気長にいくさ。

 作業していて考えた。

 3人の悪人の私生活と、シャイネの最後を誰かから聞き出すか。


 シャイネが勤めていた商会は大通りにあった。

 商っているのは穀物。

 なんか覚えがあると思ったら、豆の袋を持ってきた所じやないか。

 店に入ると、丁稚が飛んできた。


「いらっしゃい。うちは良い品ばかりです」

「この商会から豆を仕入れたら酷かったぞ」

「文句を言いにきたのか。用心棒を呼ぶぞ」

「いや違う、商売だから、悪い品を売りつけられても確認しない俺が悪い。ただね、昔はこうじゃなかったよな」


 当てずっぽうだ。

 最近、旦那が死んでいるからカマを掛けた。


「ここだけの話にしてくれます。後妻の今の会頭が酷くて、番頭もアクテダイさんに変わってから、それはもう。唯一の楽しみの食事も料理人の腕の悪いのが入って」

「へぇ。シャイネっていうよく働く娘がいたはずだが」

「どこでそれを聞いたんです。表向きはシャイネは金貨10枚を盗んで、毒を呷って死んだとなってますけど。坊ちゃんが言うには僕の代わりに料理を食って死んだと」


 ペラペラとよく喋るな。

 まあ、自分もいつ消されるか分からないと思っているのかもな。

 それとうっぷんが溜まっているのかも。


「ここで聞いたことは俺も忘れる。これで美味い物でも食って忘れるんだな」


 そう言って俺は銀貨1枚を握らせた。


「ありがとうございます」

「効率の良いアルバイトに興味はないか。仕事が終わったらこの店に来てくれ」


 酒場の地図を渡した。

 夕方まで酒場で待つ。

 丁稚がキョロキョロ後ろを振り返り現れた


 これから、どんなアルバイトをするのか知っているらしい。


「こっちだ」

「俺に何をして欲しいんだ」


 椅子に座って早々、丁稚は尋ねた。


「会頭のオニゴサイと、番頭のアクテダイ、料理人のドクイタの行動を喋れ。金貨1枚でどうだ」

「喜んで」


 3人の行動が分かった。

 オニゴサイは服とアクセサリーに目がない。

 毎日のように店を回って買い物するのだそうだ。


 アクテダイは店が終わると、娼婦が給仕する酒場に行く。

 ここで豪遊しているらしい。


 ドクイタは料理の研究で夜遅くまで厨房にこもっているらしい。

 料理が好きなのか。

 案外、毒の入った料理の研究かもな。


「助かったよ」


 丁稚と別れて一人帰る。

 さて、滅殺しに行くか。

 だが、滅殺その前に。


 嘆きの炎は相変わらず黒い炎で燃え盛っていた。

 これだな。

 俺は炎の中から骨を取り出した。

 神である俺にどうしたらいいのか神力が囁いた。


「シャイネ、賠償スキルを使わせてやる。存分に復讐しろ」

『【賠償】どうか坊ちゃまを』


――――――――――――――――――――――――

名前:シャイネ

レベル:18

魔力:587/587

スキル:

  魅了

  計算

  毒生成

――――――――――――――――――――――――


 シャイネのステータスが頭に浮かぶ。

 無事賠償が取れたようだ。

 魅了と計算と毒生成はきっと奴らのスキルだ。


 レベルも格段に上がったようだ。

 賠償スキルは経験値も取れる。


 足元には金貨の山ができていた。

 これも賠償スキルの効果。

 今頃、商会の金庫は空になっているに違いない。


 シャイネの骨が塵になって飛んで行く。

 シャイネ、経験値を貰うぞ。


「ステータスオープン」


――――――――――――――――――――――――

名前:ウメオ・カネダ

レベル:18

魔力:0/0

スキル:

  賠償

――――――――――――――――――――――――


 会合場所の醤油屋の倉には既にリリムとシャランラの2人が待っていた。

 俺が無言で頷くと二人も頷き返した。

 そして3人は王都に散らばり、夕日に溶けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る