第2章 商会乗っ取り

第4話 この恨みを誰か……

Side:シャイネ


 坊ちゃんが泣いている。

 可哀想に。

 先妻の奥様に私は返しきれない恩がある。

 騙されて売られそうになったのを救ってもらったの。


「イチャケン坊ちゃま、泣かないで」


 イチャケン坊ちゃまは6歳。

 まだ、ひとり立ちするにはだいぶ時間が掛かる。

 この状況を打破するには年齢が足りない。


「シャイネ、なんでオニゴサイは僕を虐めるんだろう」

「坊ちゃまお母さまとお呼びしないと。どこで聞いているか分かりません」

「あんなのあの女で十分だ」


 困ったわね。

 坊ちゃんを庇いたいけど、やり過ぎると首になってしまう。

 私がいなくなったら、坊ちゃんの味方は誰もいない。


「今しばらくの辛抱です」


 坊ちゃんを抱き寄せる。

 そして、私は聞いてしまった。


「あのガキを……」

「ふっふっふ、となれば商会は奥様の物……」

「料理に毒……」


 なんて相談を。

 話は全部聞き取れなかったけど、坊ちゃんを毒殺する計画のようね。

 実行犯は主犯の後妻のオニゴサイ。

 旦那様が最近亡くなったので、坊ちゃんを殺そうというのね。

 旦那様の死にも疑問がある。

 馬車に乗っている時に盗賊に襲われるなんて。


 計画を練っているのは参謀役の番頭のアクテダイ。

 実行犯は料理人のドクイタ。

 坊ちゃまを逃がさないと。


「そこにいるのは誰?」

「シャイネです。奥様」

「何か聞いたかい?」

「いいえ、奥様」

「そう、お前は今後店の方に回ってもらうよ。寮に住むと良い」

「分かりました」


 くっ、屋敷から出されてしまった。

 このままでは坊ちゃまが。


 お屋敷を出されたので街の定食屋でご飯を食べる。


「滅殺復讐ギルドって知っている?」

「なになに?」

「依頼を出すと人を殺してくれるらしいわよ」

「まあ怖い」


 これよ。

 噂に耳を傾ける。

 やり方は分かった。


 冒険者ギルドの依頼受付窓口の前に立つ。


「銅貨6枚の依頼を」

「じゃあ、依頼票を渡すから書き込んで」


 つり目の女性から依頼票を貰った。

 聞いた通りに裏に果汁で、奴らの悪だくみと殺してほしいと書く。


「お願い。前金で金貨3枚払う」


 今まで貯めてきた全財産。

 受付の女の人の目が細まった。


「承りました」


 次の日、本当に依頼を受けてくれたのか不安になって、冒険者ギルドの受付にいく。


「あの依頼、受けられないから」


 衝撃の一言。


「何で? お金が足りないから?」

「前金は返すわ」


 こうなったら、坊ちゃまの料理を私が毒見するしかない。

 毒を食べたら生きてはいられないでしょう。

 覚悟が決まった。

 私の命は先妻の奥様に助けられた。

 今度はお返しする番。


「ちょっと待って、残りの金貨3枚を取ってくるから」


 私は店に戻ると、金貨3枚を盗み出した。

 そして再び受付に。


「合わせて金貨6枚で、何かあった時は始末を」


 そう言って、3枚の金貨を押し付けるように渡し、お屋敷にこっそり戻った。


 ちょうど坊ちゃんが食事するところだった。


「シャイネ、来てくれたの? 寂しかった」

「美味しそうね」


 そう言って坊ちゃんの料理を口に運んだ。

 体が苦しい。

 喉をかきむしる。


「シャイネ!!」


 坊ちゃまの声が聞こえた。

 どうか悲しまないで。

 これで調べが入ってあの3人は捕まるはずよ。


 空中を漂う。

 死んだのね。

 死ぬとこうなるの。


「馬鹿な女。アクテダイ、ドクイタ、死体を嘆きの炎で焼いてしまいなさい」


 オニゴサイが私の死体を前に命令する。

 アクテダイ達が私の死体を荷車に載せて、門の所に行く。


「その死体はどうした?」


 門番さん、この悪人を懲らしめて。


「盗みを働いたんでさぁ、金貨10枚もね。でそれを追求されたら毒を飲みやがった」


 私が盗んだのは3枚よ。

 10枚盗むと確かに死罪だけど。

 それに毒を飲んだのではなくて、毒料理を食ったのよ。


「そうか。それは手間を掛けたな」


 えっ、それだけ。

 死体は神に逆らったウェイとニックが永遠に火あぶりにされている嘆きの炎に持ってこられてくべられた。

 肉が灰になっていく。

 空に明るい太陽みたいな物が見えた。

 あそこにいくのね。

 ああ、暖かい。

 待って、坊ちゃまはどうなるの。

 まだあそこには行けない。

 この恨みを誰か……。

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