第27話 死霊魔法使い

 ウソツキー領に入った途端ゾンビのお出迎え。

 もちろん俺のゾンビじゃない。

 敵の殺し屋は死霊魔法使い。

 禁忌スキルだから、大っぴらに使うと教会から追っ手が掛かる。

 ウソツキー侯爵の手駒だから、領内ならもみ消しが容易いと考えたのだろう。


「さて、【魔力吸収魔法】」


 ゾンビが電池の切れたように動かなくなる。

 魔力吸収魔法は暗黒魔法に含まれる魔法で、どんなものでも魔力を吸い取って自分の物にする。

 吸血スキルと並んで恐れられている攻防一体の魔法。

 魔族が使うことで有名だ。


 ゾンビ全てを動かなくして、これからが本番だ。


「【賠償】。ステータスオープン」


 おお、死霊魔法と、生贄と、邪気展開と、魔力増加と、生命力吸収と、影魔法と、邪回復魔法が手に入った。

 どれもやばそうなスキルだな。


「生贄スキルってどんなスキル?」

「生き物の魂を邪神に奉げると、奉げた物に準じて、奇跡を起こしてくれるそうです」


 プリシラがそう言って顔をしかめた。

 便利そうなスキルだな。

 生き物がなんでもいいなら、邪神の眷属と呼ばれているモンスターを生贄に奉げよう。

 それで、けち臭い奇跡しか起こしてくれなかったら封印だな。


「【気配察知】。近場に死霊魔法使いはいないな」

「待って【指針剣】。あっちよ」


 プリシラの魔法剣スキル便利だな。

 さすがソロでCランク。


 死霊魔法使いはすぐに見つかった。

 ロープで縛った子供達を前にして何か唱えている。


「【生贄】。邪神様、なんで応えてくれないのです」


「お前の悪行もここまでだ。そうだ良いことを考えついた。リリム、こいつを縛り上げろ」

「なんとなく結末が分かったけど自業自得ね」

「やめろ何をする」


 ロープで縛り上げられた死霊魔法使いを前にして。


「【生贄】」

『何を望む』

「そうだなスキルが良い」

『死霊魔法を与えてやろう』

「それは持っている」


 応えはない。


「おいおい、キャンセルもチェンジも利かないのか」


 とりあえず死霊魔法使いの死体で実験だ。


「【死霊魔法】。魂がないはずの奴がゾンビになったな。やはり教会の教えは嘘っぱちだ。生贄スキルも魂を邪神が受け取っているのか怪しいな」


「子供どうするのよ。禁忌スキルを使った所を見られてしまったわ」

「リリム、殺せというんじゃないだろうな」

「そんなこと言えないわ」


「良く聞け子供達。俺は生贄スキルより恐ろしいスキルを持っている。俺の秘密をばらすとそのスキルが炸裂して死より恐ろしい目に遭わせる。分かったな」


 子供達が凄い勢いでブンブン頷いている。


「リリム、縄を解いて、近隣の村まで届けてやれ。それとこれは子供達が使うとうざの金だ」


 そう言って金貨10枚が入った袋を投げた。


「あの、子供達、生き残れるかしら」

「プリシラ、同情するなら、お前が面倒を見てやればいい」

「出来ないのを分かって言っているわよね。意地悪」

「冒険者稼業をしていると、モンスターに襲われて孤児になった子供と関わりになることがある。そういう場合、わずかな金を渡してさよならだ。プリシラも知っているだろ」

「ええ、冒険者の鉄則。依頼人やモンスター被害者に感情移入するな。情けを持てば刃は鈍る」


 3時間ほどして、リリムが帰ってきた。


「随分掛ったな」

「親がいない子は村人の養子にしたわ。どこかの街に親がいる子は、手紙を出すように手配した」

「まあ、それが最善だな」


「リリムさん、優しいのね。その優しさがあなたの首を締めなきゃいいけど」


 プリシラが予言めいたことを言う。


「優しくなんかないわよ。子供にひとつ貸したのよ。私が貴族になったら返してもらうつもり」

「それでいい。使える物は全て使わないとな。何がリリムを助けるかは分からない」


 俺は害を与えた者から賠償を取る。

 リリムは恩を与えて貸しとして後で返してもらう。

 似ているようだが、俺のなんと醜いことか。

 だがそれでいい。

 奇麗な復讐なんてものはないんだ。


「私はあんたにしてもらった恩をおすそ分けしただけ」

「そうか。俺も復讐だけで生きているとはいいがたいな。綺麗な部分が残っていたか」

「それを捨てたいような顔ね。それを捨てたらモンスターになるんじゃないの」

「そうかモンスターになるのか」


 復讐心で人は鬼になるという台詞を読んだ事がある。

 復讐に人を思いやる心は必要ではないが、なくしたらいけないものなのだな。

 そうか、盗賊にも家族がいたかも知れない。

 彼らを殺した償いとして、善行は続けよう。

 それで人の心を保てるのなら。

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