第28話 とこしえの闇

 俺は突然、暗闇に囚われた。

 おいおい、馬車の中だぞ。

 魔法か魔道具か分からないが、まずは原因より対策だ。


「【次元斬】」

「ふふふ、無駄だ。孤独の暗闇で狂うが良い」


 敵と思われる声が遠ざかった。

 何も見えないし聞こえない。

 死んで魂だけになって囚われたら、こんな感じなのかな。

 腰のアイテム鞄の感触はある。


 俺は試しにゾンビのカーカスを出してみた。


「うー」


 少なくても孤独ではないな。

 ゾンビの声が癒しになるか分からないが。


「【賠償】、ステータスオープン。賠償は関係ないスキルか」


 増えたスキルは、念話と身体強化だった。

 そして、突然、闇が晴れた。

 場所は馬車の中で、リリム達も座っていて、身じろぎも瞬きもしない。

 カーカスは跪いている。


「あれっ、賠償スキルが効いたのかな」

「うー、わたしのせいだと思います」


 驚いたことにカーカスが喋っている。


「説明しろ」

「うー、あれは闇の力でした。それを吸い取ったのです」

「リリム達も助けられるか?」

「うー、お任せを」


 カーカスがリリム達に触る。

 彼女らは動き始めた。


「暗闇って怖いのね。あのままだったら気が狂っていたと思う」

「何も出来なかった」

「光って素晴らしい」


「カーカス、メッサも助けてやれ」

「うー、お任せを」


 カーカスが馬車の扉を開けて戻ってきた。

 停まっていた馬車が動き始める。


「少し狭いな」

「うー、アイテム鞄に戻して頂いて構いません。御用の時はまたお呼び下さい」

「ちょっと待て。もしかしてカーカスは進化したんじゃないか。【鑑定】。やっぱりだ、ハイゾンビになっている」


「臭いんだけど」


 プリシラが文句を言った。

 リリムとシャランラも同意した。


「カーカスのおかげで助かったんだぞ」

「うー、自分の立場はわきまえております」


 俺は感謝しながら、カーカスをアイテム鞄に入れた。


「しかし、危ない所だったな。動けない所をざっくりやられたら死んでいた」

「あの攻撃はたぶんだけど、禁忌魔道具のとこしえの闇だと思う」


 プリシラが攻撃に対して知っているらしい。


「どんな魔道具なんだ?」

「相手の精神を闇の空間に捕えるのよ。厄介なのは、魔道具に掛かった人に触ると、その人も闇に囚われるの」

「だから、追加で攻撃出来なかったんだな」

「浄化系スキルでレジストできるらしいわ」


 何だよ、聖刃で大丈夫だったのか。

 知識が足らないな。

 魂が囚われてもアイテム鞄は作動するのだな。

 ああ、身に着けているからか。

 装備状態なら使えるのだな。

 こういう所も俺は知らない。


 俺は馬車の床の金貨を拾った。

 そして、身に覚えのない黒い砂時計が落ちているのを見つけた。

 これが、禁忌魔道具とこしえの闇か。

 カーカスがこれで進化したということは、他のゾンビも進化するかも知れない。

 カーカスがさらに闇を吸い取れば、さらにパワーアップするかも。

 パワーアップアイテムとして最適だな。


 この魔道具の代償は何だろ。

 鑑定すると寿命を吸い取るとある。

 ゾンビ達に使わせよう。

 やつらなら寿命はないだろう。


 禁忌魔道具はアンデッドに有利なように作られていると思う。

 邪神の差し金かな。

 魔族とかも寿命があってないような物だから、問題なく使えるのかも。


 そう言えば、闇の力だけど、暗黒魔法があったよな。

 もしかして、俺ってとこしえの闇と似たようなことができるかも。

 邪神に生贄を奉げて、暗黒魔法のマニュアルを頼んでみようかな。

 どれぐらいの生贄なら可能だろうか。


 聖女のウザリならその生贄に相応しいかもな。

 よし、奴を生贄にする。

 そう決めた。


「悪そうな笑顔ね」


 呆れた様子のリリム。


「とびきり良いことを思いついただけだ」

「あなた、魔王の生まれ変わりとかじゃないわよね」

「そう言えば、魔王が死んで新たな魔王とか生まれないのか?」

「生まれているわね。でも今は弱いから数十年は平和なはず」


「新たな勇者はそれに合わせて任命されるんだな」

「ええ、魔王軍が動き始めてから任命されるわ」

「ふーん、魔王が弱いうちにやっつけたらどうだ」

「魔族の子守りがいるらしくて強いと聞いたわ。全盛期の魔王ほどじゃないけどね」


 魔族は魔王しか会ったことがない。

 やつらの生態も謎だ。

 イヤミィを生贄にして邪神に魔王の役目を聞いてみようか。

 それも良いだろう。

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