第29話 リリン家の忠臣
馬車が停まった。
「お得意様だな」
「ぐわー!」
「がぁぁ!」
「俺達に何の恨みが!」
おりょ、メッサが先走りしたか。
窓から見ると、メッサは御者台にいて、盗賊30人ほどが次々にやられている。
巡回の兵士でもいたか。
どうやら違うらしい。
ブーメランパンツを穿いたスキンヘッドの男が盗賊に抱きつくと、盗賊は干からびて枯れ木のようになった。
スキンヘッドの男は斬られようが、殴られようが、一向に構わない。
「あれは禁忌スキルの生命力吸収ね」
たぶんスキンヘッドの男は、殺し屋だろう。
ウソツキー侯爵の手の者に違いない。
「生命力吸収というと、カーカスが持っている奴か」
俺はカーカスを出した。
「うー、殿、何用でございますか」
「外で暴れている。スキンヘッドの男を殺してこい」
「うー、分かりました」
カーカスは馬車から飛び降りると、まずは邪魔な盗賊から始末することにしたらしい。
カーカスに触られた盗賊はやはり干からびていく。
スキンヘッドもそれに気が付いた。
盗賊から生命力を吸収する速度が速まった。
「プリシラ、どっちが勝つと思う?」
「カーカスかしらね」
「それじゃ面白くない」
「カーカス可哀想」
リリムがそう呟いた。
盗賊は逃げるか、二人に倒されるかして、ひとりもいなくなった。
スキンヘッドとカーカスがにらみ合う。
「【生命力を生贄に、火魔法よ燃え上がれ】」
スキンヘッドが炎の竜巻を出してきた。
カーカスが燃え上がってやがて灰になった。
全く、大損だ。
賠償を取らないとな。
「【賠償】、ステータスオープン」
スキルの追加は火魔法と、生贄と、生命力吸収か。
「メッサ、殺していいぞ」
メッサが御者台から飛び降りた。
俺も馬車から出る。
スキンヘッドはメッサに触れようと、両手を広げて待ち構えている。
もうスキルはないのに滑稽なことだ。
「【邪復活魔法】」
カーカスが裸で復活した。
野郎の裸は要らない。
アイテム鞄から、服を出して投げてやる。
「うー、殿、お役に立てずに申し訳ありません」
「いいんだよ。十分役に立ったさ。ゆっくり休め」
服を着終わったカーカスを、アイテム鞄に収納する。
メッサはその時既にスキンヘッドを倒していた。
ぶっちゃけ、生贄スキルは二つも要らない。
要らないスキルを処分したいが、ただじゃ嫌だ。
せめて金に換えてほしい。
「【生贄、生贄スキルを奉げる】」
『何を望む?』
「生命力吸収スキルで」
『了解した』
生命力吸収スキルなら、ゾンビに貸与しても良い。
他のスキルも別のスキルに変えたいが、邪神の持っているスキルは、たぶんもれなく禁忌スキルだ。
よく考えてから交換すべきだろう。
枯れ木みたいな死骸をゾンビに変える。
俺は優しいから邪回復魔法で回復してやった。
そして、少し行ったところに、兵士の大軍が待ち構えていた。
ウソツキー侯爵も殺し屋が駄目なのを知って、兵士に切り換えたのだろう。
よし、兵士には選ばせてやろう。
俺は顔に布を巻き、馬車から降りた。
「我こそはリリン家の忠臣ウメオ。ここにある宝剣はリリン家から盗まれてウソツキーの下にあったのを取り返したものだ。正義は我にある。死にたくなければ道を開けよ」
そう言って俺は宝剣を掲げた。
兵士らの中にざわめきが起こる。
「ええい、相手は小数。囲んでしまえば、何も出来ん」
「【次元斬】」
指揮官と思われし者の首が飛んだ。
「死にたい奴は掛かって来い」
「うわぁ、俺は逃げる」
兵士は次々に逃げ出した。
指揮官がいなければこんなものか。
今の問題は俺がお尋ね者になることだな。
ウメオがな。
今の俺はプラムマン。
ウメオという男はどこにもいない。
それが通るかと言えば通るのだ。
布を巻いた人相書きなどでは、特定されたりしない。
もし裁判になっても、大儀はこちらにある。
嘘判別スキルがあるからだ。
宝剣をウソツキー侯爵の手から取り戻したと言って俺が嘘判別に掛かれば、問題は解決だ。
この肝なのは、盗まれた時にリリン家は貴族だったってことだ。
王国法によれば、その時の状況が裁判で働く。
俺は貴族であるリリン家の忠臣として扱って貰える。
プリシラに聞いたから、そうなのだと思う。
それに民衆は忠臣蔵みたいなストーリーが好きだ。
きっとウソツキー侯爵は悪の権化のごとく言われるに違いない。
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