第10話 殺し屋

「採用」


 会った瞬間に採用決定だ。


「私らを舐めているの。女三人だからって娼婦代わりにされたら堪らないんだけど」

「そうよ。戦闘スタイルとか、今までの討伐歴とか、色々と聞くことがあるでしょう」

「命が掛かっているのよ。それとも体目当て」


「まずモンスターとの戦闘は起こらない。俺はモンスターを寄せ付けない体質なんだ。そして戦闘用魔道具を幾つも持っている」

「屈辱だわ。お飾りなのね」

「いいや。盗賊とか寄せ付けないという役目だ。なんだ自信がないのか」

「それがお飾りっていうのよ。でも、寄せ付けない……というより……かえって……」

「威嚇も立派な役目だぞ」


「リーダーどうする?」


 3人は部屋の隅に行き、小声で相談し始めた。


「屈辱だけど受けるわ。私はCランクパーティ『ペガサスの羽』のリーダー、リリムよ」

「私は、メッサ」

「私は、シャランラ」


 ええとリリムがリーダーで、メッサが戦士、シャランラが魔法使いか。

 分かった。

 リリムは茶髪のボブカット。

 鋭い目つきをしている。


 メッサは青い髪のショートで、3人の中で背が一番高い。


 シャランラ緑色の髪でロングにしている。

 ちょっとおっとりした顔つきだ。


「俺はプラムマン。言いづらかったら、プラムでもなんでも呼んでくれ」


 受付で受注の手続きをしてから、宿を取った。

 宿代はもちろん俺が持っている。

 その代わり、道中で得たモンスターの死骸や、盗賊の賞金は俺が貰える。


 夜、警戒用魔道具が音を立てた。

 誰か部屋に侵入したな。


「【灯り魔法】」


 魔法でロウソクほどの火が灯された。


「くっ、気付かれたか。【幻影】」


 声は男だ。

 服装は黒づくめだな。


 盗賊の類ではなさそうだ。


 男は俺に斬りつけた。

 避けたと思ったが、俺の体から血しぶきが上がる。

 自己再生が働き傷が塞がった。


「【賠償】。ステータスオープン」


――――――――――――――――――――――――

名前:ウメオ・カネダ

レベル:99

魔力:9989/9999

スキル:

  賠償

  聖刃 勇心 身体強化

  堅牢 鉄皮 剛力

  空間魔法 火炎魔法 氷魔法

  治癒魔法 加護 聖域

  自己再生 暗黒魔法 次元斬 超身体強化

  隠蔽 幻影 鋭刃

――――――――――――――――――――――――


「情報になかったが、首を刎ねれば問題ないだろう。【鋭刃】」

「【次元斬】」


「そんな馬鹿な。なんで俺のいる位置が分か……」


 いや、幻影スキルは奪ったからな。

 俺は隣の部屋の『ペガサスの羽』を起こした。


「こんな夜中に何よ」


 寝入りを起こされて不機嫌そうなリリム。

 寝ている時も鎧と剣を手放さないのは戦士としては合格点だ。


「リーダー、体を求めてきたのかも」

「3人同時なんて大胆」


「殺し屋が来た。賞金首かもしれない。死骸を警備兵の詰め所まで持って行け」

「へっ、あんたが殺したの」

「そうだ。俺は別の部屋に移る」


 宿の従業員に掃除代金として金貨1枚を握らせた。

 そして別の部屋に移った。

 街に入る時にウメオのギルドカードを使ったからな。

 たぶんそれで後をつけられたのだろう。

 殺し屋は組織に連絡したかな。

 もっとも今後も来てくれるとスキルが増えて嬉しいのだがな。


 殺し屋の持ち物から、ウェイの依頼書が見つかった。

 警備兵はそれを偽物と判断したようだ。

 俺は本物だと思ったが。

 まあいい賠償スキルを誤魔化したりはできない。

 あとでまとめて取り立ててやるよ。


 腕の刺青から分かったことだが、殺し屋は幻影のカラスという二つ名付きのやつで、賞金が金貨168枚も掛かってた。

 じつに儲かった。


「夜中に起こした苦労賃だ」


 そう言って俺はリリムに金貨30枚を渡した。


「気前がいいのね」

「少なくともケチじゃない。魔王領復興のために寄付したいがどこが良いと思う」

「断然、冒険者ギルドでしょう。あそこなら誤魔化したりしないわ」


 誤魔化されてもいいんだけどな。


「明日の朝、冒険者ギルドに金貨1万枚を運んでくれ」

「うひっ、き、金貨、1万枚。それって寄付? 信じられない」

「彼らには復興してもらう権利がある」

「とんだお人好しね」


 もし、彼らだって賠償スキルを持っていたら、魔王から賠償を受け取りたかったに違いない。

 俺が代わりにやってあげてもバチはあたらない。


 もしもと、考える。

 俺が勇者より先に魔王軍を蹴散らしてたら、あの魔王領は生まれなかった。

 できるか、できないかで言ったらできた。

 俺は怠惰だったのだ。

 もちろん俺が悪いわけじゃないし。

 魔王軍撃退を誰かに頼まれたりしたわけじゃない。


 だが、生き残りを目にした時、俺が違った行動を取ればと思った。

 たらればを言っていたら仕方ないのは分かっている。

 だが、これからは後悔したくない。

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