第11話 何者か?

 リリム達は朝からお疲れモード。

 金貨1万枚も運べばそうなるか。


 馬車を買いゴーレム馬を取り付ける。

 食料を積み込んで準備は整った。

 御者台にはメッサが乗った。


 俺はリリムとシャランラと向い合せ。

 なんとなく探るようなリリムの視線。


「言いたいことがあるなら言え」

「あんた、何者?」

「ただの裕福な魔道具商人だよ」


「金貨1万枚をぽんと寄付して、凄腕の殺し屋をあっさり片付ける。これのどこがただのよ」

「リリム姉、この人に賭けたら」

「シャランラ、その呼び名は3人の時だけと言っているでしょ」


「3人は姉妹というには顔つきや雰囲気が違うな。幼馴染なのか」

「ええ。それよりさっきの問いに答えて、何者?」

「俺が何者かは俺が分かっている。それで十分だ。依頼人の詮索はしないのが冒険者じゃないのか」


「そうだけど」

「リーダー、事情を打ち明けて、協力者になってもらうべき」


「何やら事情があるようだが、話によっては協力してやらんこともない」

「ほら、リーダー。こんなチャンス滅多にないよ」

「分かってるわよ。私はリリム・ラ・リリン。まあ没落貴族というやつね。家の再興を目指している」


「俺に資金援助を頼みたいってとこだな。だが、金だけで爵位は戻るのか」

「戻らないわね。名声が必要よ。特に政敵が健在な今は厳しいわ」


 こいつらを助けるメリットはあるかな。

 貴族の味方がいればいざという時に役に立つ。

 だが手間がかかる。

 それは好みではない。

 じゃあ、こうしよう。


「俺は敵がいる。奴らに奪われた物を取り返すつもりだ。そこには名声がたぶんに含まれる。復讐のついでなら協力してやろう」

「私も、お家再興が簡単に成るとは思ってないわ。とりあえず、私の目的とあなたの目的がぶつからない限りは協力しましょう」

「よし、乗った。今からは俺達は仲間だ」

「ええ。私達の問題点を話すと、冒険者としてSランクになってお家再興といきたかったのだけど、いま頭打ちなのよ」


 まあ一朝一夕にはSランクは無理だな。

 だが、それを可能にする手段が俺にはある。

 隠蔽スキルで強さの気配を消せばモンスターも逃げないだろう。

 となれば、難しい依頼も、簡単だ。

 俺は冒険者ギルドに再登録できないから、ちょうどいい。


「盗賊だ! その数40!」


 メッサから警告が発せられた。


「少し運動してくる」


 俺は走っている馬車から飛び降りた。


「こいつが裕福な商人か。ちっ、騙された。戦闘狂の間違いだ」

「正解」


 俺は盗賊の首を刎ねた。

 このぐらいレベル差があるとスキルなんか使わなくても勝てる。

 もっとも、身体強化と超身体強化はパッシブスキルだけど。


 相手の攻撃をわざと食らって賠償を取ることも考えたが、痛いのは好きじゃない。

 マゾではないからな。


 気持ちいいぐらいに盗賊が死んでいく。

 全員倒し終り、俺はアイテム袋に死骸を入れた。

 そして走っている馬車に追いつき、扉を開けたると、リリムが剣を構えたが、俺だと分かると構えを解いた。

 すばやく馬車に乗り込む。


「金貨1万枚も寄付すればこうなるわよ。でも歯牙にもかけないのね」

「こんなのに苦戦してたら敵は倒せない」

「あなたの敵って何?」

「国かな、場合によっては世界全て」


「はったりではなさそうね。賭ける相手を間違えたかしら」

「このぐらいの人でないとお家再興は叶わない」

「そうね」


 盗賊は1組だけだったようだ。

 殺し屋も来る気配がない。

 無事、野営地に着いた。


 俺は料理を作り始めた。

 それを見て、3人は手伝いを申し出たが断った。

 好きな物を食いたいじゃないか。

 それに没落貴族のお嬢さん方の料理の腕を信用してない。


「はぅ、あなた料理人」


 俺の料理を口にしたリリムが驚きの声を上げた。


「料理には自信がある」


「結婚したい」


 嘘か冗談か分からないメッサの言葉。


「メッサ姉、料理が出来ないからって安売りしたらだめ」

「いいの。この料理が毎日食べられるなら」


「悪いが、お家再興したら、料理人でも雇うんだな」

「メッサ姉、振られた」

「くっ、屈辱だ」


「静かだと思ったら、リリム何杯目だ。太るぞ」

「これでも毎日戦闘訓練はしている。太ったりしない」


 和気あいあいと食事が進んだ。

 そして、寝る時間になった。


「君達は馬車で寝ろ。見張りは立てなくていいぞ」

「それは出来ない相談ね。まだそこまで信用してない」

「好きにしろ」


 聖域のテントを起動。

 警戒用の魔道具を設置。

 防御の結界も張って、就寝した。


 聖女様を殺害すると言ったらリリムはどんな顔をするだろうか。

 止めるかな。


 聖女殺害の一味ともなれば、お家再興は永遠に叶わない。

 彼女ら抜きで進めるべきだな。

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