第12話 洗脳魔法

 次の街で盗賊の死体を守備兵の詰め所に持って行く。

 何人か賞金首がいたようで、金貨64枚になった。

 さて、魔道具を売るか。

 というのは口実で、目的は色々だ。


 商業ギルドで露店の許可を買い。

 ある一角に絨毯を敷いた。


 要らない魔道具を並べる。

 道行く人は魔道具に興味を示さない。

 露店は粗悪品が多いからな。


 調達やってた時によく目にした。

 粗悪品でない露店は常連客が付いている。

 何日も通うとそれが分かる。


 リリムとメッサは俺の横で木剣を振っていた。

 シャランラは難しそうな本を読んでいる。


 そこの二人、営業妨害だぞ。

 シャランラを見習え。


 まあ、二人がいなくても売れたとは思わないがな。

 ふむ、魔王のスキルでひとつ気になっているのがある。

 暗黒魔法だ。

 きっと、ろくでもないスキルだと思うから、実験台は盗賊とかかな。


 暗黒魔法の文献を探してみるのも良いかも知れない。

 おっと、魔道具を盗もうとした子供の腕を俺は掴んだ。

 釣れたな。


「くっ、放せよ」


 焦る子供。


「みたところ、スラムの人間だな。暴れるな。守備兵に突き出されたいか」

「許してくれるの」

「ひと仕事してくれたらな。ウメオという人間を遠く離れた町で見かけたと噂を流せ。ほら大銅貨1枚だ」


 子供は去っていった。


「【賠償】」


 どうやらあの子供は裏切ってはいないらしい。

 賠償は取れなかった。


「リリン家の元の爵位は?」

「伯爵よ」

「何で没落した?」

「王家から賜った宝剣を紛失したの。盗まれたんだと思う。ダウト・ウソツキー侯爵の手によってね」


 結局、夕方までに魔道具は1個も売れなかった。

 盗人はたくさん釣れたがな。

 子供にやったみたいに噂を撒くように指示。

 裏切った奴は賠償スキルで金を取ったから問題ない。


「店をやるのが目的じゃなかったのね」


 片付けをしているとリリムが話し掛けてきた。


「盗人も上手く使えば手足になってくれる」

「頭がいいのね。1から100まで足すと?」

「5050」

「商人だというのは嘘じゃなさそう」


 疑っているのだろうな。

 見るからに怪しい奴だものな。

 盗賊40人近くをあっと言う間に血祭りに上げたら、俺でも商人かどうか疑う。


 ウェイに対して囮を放ちたい。

 なぜかというと楽しいからだ。

 騙されたと知ったウェイの顔が見てみたい。


 盗賊を囮に仕立てられたらな。

 鍵は暗黒魔法か。

 古本屋で魔王の本を読む。

 ええと暗黒魔法には洗脳魔法と死霊魔法というものがあるらしい。

 これは試してみないとな。

 俺はスリを捕まえて、そいつにプラムマンという商人が金を持っていると吹き込んだ。

 宿で待つ事2時間あまり。

 ドアの蝶番に油が注された。


 隙間から見えてるぞ。

 音もなく開く扉。

 待ってました。

 後頭部を叩き何人か生きている奴を確保した。

 死んだ奴もいるが構わない。


「【洗脳魔法】。お前の名前はウメオだ。いいな」

「はい、俺はウメオです」

「よしこの街から出て他の街で暮らすんだ」


 犯罪者はいくらでもほしい。

 手駒として使い勝手がいいからだ。

 死んでも心が痛まない。


「バタバタしていると思ったら、えげつないことをするのね。それって魔族が持っている洗脳魔法よね」


 リリムが開け放たれたドアから入って来てそう言った。

 洗脳魔法を見られてしまった。

 まあ、時間の問題だったな。


「文句があるのか」

「あなた魔族なの?」

「いいや。魔王の力を奪った一般人」

「そんな一般人がどこに。ああ、もうからかっているのね。話してもらうわよ。あなたの事情をね」


「難しい話じゃない。勇者パーティは俺を魔王への生贄にしたんだ。神が哀れに思ったのか魔王の力を奪って助かった。それで、勇者パーティに復讐したいと思っているところだ」

「勇者パーティがあなたの敵。魔王を倒した真の勇者はあなた。その事実さえ証明できれば、おこぼれでお家再興が叶うわね」

「まあな」

「分の悪い賭けでもなさそう」


 いや、滅茶苦茶危険で分が悪いぞ。

 リリムは焦っているんだな。


 でないとそんな結論にはならない。

 俺の寝首を掻く可能性は残っているが、その時には返り討ちにするだけだ。

 俺には適度な緊張感が必要だと思う。


 常在戦場の気持ちにならないと。


 さあ、死体を片付けて寝るか。


「【死霊魔法】」


 死体が起き上がったので、俺はそれをアイテム袋の中に入れた。

 アンデッドの大軍を作るのも良いな。

 ニックの騎士団とやるにも手勢は必要だ。

 後世できっと俺は魔王と呼ばれるのだろうな。

 人類の裏切り者と。

 復讐を誓った時からその覚悟はできている。

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