第13話 ヤシンカー男爵

 街から出発。

 しばらく行ったところで。


「盗賊よ」


 馬車が止まったので窓から顔を出して前方を見ると、街道の行く手に丸太が置かれている。


「カモが釣れたな」


 俺はウキウキしながら馬車から降りた。


「おい、話が違うぞ。男が商人で女3人が護衛だったはずだ」

「頭、男一人ならわけないですぜ」

「がははっそうだな」


「【次元斬】」


 俺は次元斬で薙ぎ払った。

 悲鳴すら上げずに盗賊が死ぬ。


「【死霊魔法】。あー、体が両断されていると戦力にならないな。【邪回復魔法】」


 ゾンビが回復したので、アイテム袋にせっせとゾンビを詰め込んだ。


「あんたよく心が痛まないわね。アンデッドになると魂が邪神に囚われるらしいわよ。まるで魔王の所業ね」

「盗賊に掛ける慈悲なんかない。冒険者の心得だろ」

「ええ。でも殺すのとアンデッドにするのは違う」

「そうか。俺は教会の教えとやらに疑問を覚えるぞ。喜捨の額が増えると天国での位階が上がるらしいが、死んだ人がそれを証明したのか。アンデッドの魂が邪神に囚われるとアンデッドが言ったのか。高位のアンデッドは喋れるらしいが、そんな話は聞かないぞ」

「まあ、そうなんだけど」


 邪神にも魔王を作り出す理由があるのだろう。

 神には信頼を置いてない。

 この世界の酷さを嫌と言うほど知ったからな。


 殺し屋が来ないな。

 追っ手は撒けたのか。

 それとも、俺の実力を計っている最中なのか。


 3日掛かって次の街に着いた。

 盗賊を狩るのはいいが、殺し屋が来ないとも限らない。

 殺し屋を警戒するのは即死させる手段を彼らが持っているからだ。

 毒に始まり、暗殺に適したスキル、禁忌指定の違法魔道具。

 そういう手段を彼らは持っている。

 用心するに越したことはない。


 この街の領主から招待状が届いた。

 なんのつもりだろう。


 俺は招待に乗ることにした。


 3人を護衛に領主の館に入る。

 案内されて、晩餐の席に着いた。


「ヤシンカー男爵邸へようこそ、プラムマン殿」

「お招きありがとうございます」


 こいつの魂胆はなんだ。


「料理長が腕に縒りをかけました。冷めないうちにどうぞ」

「では頂きます」


 料理は美味かった。


「ウソツキー侯爵を暗殺しては頂けませんか」


 いきなりだな。


「話が見えないのですが」

「リリン家の者を護衛にしておいて分からないとしたら、どうやら買いかぶっていたらしい」


 敵の敵は味方という論理なのは分かる。

 ただトカゲの尻尾切りをされたら堪らない。

 そういう可能性がある。


「話の内容は分かった。しかし、諾とは言えないな」

「もう遅い。あなた達がウソツキー侯爵の命を狙っていると噂を流してある」


 一線を超えたな。

 賠償スキルの出番のようだ。


「断る。手を組む相手は選ばせてもらう」

「後悔するぞ」


 どっちが後悔するかな。

 それにしてもヤシンカー男爵は耳が早いな。

 俺が盗賊達を退治したのを知っているらしい。


「ごちそうさま。ではな」


 男爵邸を出て賠償スキルを使ってから、ステータスを確認する。


――――――――――――――――――――――――

名前:ウメオ・カネダ

レベル:99

魔力:9989/9999

スキル:

  賠償

  聖刃 勇心 身体強化

  堅牢 鉄皮 剛力

  空間魔法 火炎魔法 氷魔法

  治癒魔法 加護 聖域

  自己再生 暗黒魔法 次元斬 超身体強化

  隠蔽 幻影 鋭刃

  乗馬

――――――――――――――――――――――――


 賠償は金貨がたくさんとスキルひとつか。

 乗馬スキル貰ってもあんまり嬉しくないが、まあいいだろう。


「ウソツキー侯爵が俺達のことを知った。たぶん殺し屋を差し向けてくると思う」


 宿への帰り道、俺はリリムにそう言った。


「いつかこうなると思っていたわ」


「守ってやるよ」

「そんなに弱くない」

「まあまあ、守られておけよ。今日から一緒の部屋で過ごせ」


 ここは前向きに考えよう。

 殺し屋の死体からは優秀なアンデッドが作れそうだ。

 殺し屋の手口も分かる。


 ウェイが差し向けてくる殺し屋の前哨戦だと思えばわけないさ。


「嫌らしいことしたら、容赦はしないから」

「ちゃんと部屋はパーティションで区切ってやるよ」


 パーティションはアイテム袋に入れておけばいいだけだからな。


「リーダー、臨時のパーティを組んだと思うしかないかも」

「そうね」


 毒対策もしないとな。

 毒感知の魔道具ならいくつか持っている。

 めんどくさいことだ。

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