第79話 見られている

「ショウ、あれから体に異変はないか?」


 学園の教室で俺はそう話し掛けた。


「おお、絶好調。とくに絶倫スキルが凄い」

「いや下の話はいいから。性格が変わったとか感じないか」

「世間一般の生徒が弱者に見える。なんとなく人の視線が気にならなくなった。これが強者の風景かと思ったよ」


 こいつ、調子に乗っているな。

 だが、今の実力者Cランク程度だろ。

 イキって行動してたら、痛い目を見る。

 まあ、頑丈さも強化されているだろうから、少しぐらいボコボコにされても死なないか。


 猛毒ネズミを増やした。

 猛毒ネズミで情報網を作るのだ。

 ただ、猛毒ネズミはあまり頭が良くない。

 追跡とか場所を覚えるのは得意なんだがな。

 迷路とかを抜ける頭を推理とかに使えたらどんなにいいか。


 ええと、蟲毒のスキルは魂を食っちまうスキルか。

 うん、第五回戦はそれでいくか。

 食っちまおう。


 第5回戦の戦略も決まったし、いいかげん隠れている刺客を始末したい。

 俺のそばを警護してる猛毒ネズミがちょくちょく死ぬのだ。

 学園にいる間にだ。


 刺客は学園に潜んでるらしい。


「プリュネ、難しい顔しているな。難題か? 友達だろ、話してみろよ」

「見られている気がするんだ」

「お前、目立つからな」

「いやそういうのじゃなくて」

「あれか、この熱い視線は、俺を好きな女の子の物に違いないとか思っちゃう奴か」

「うん、何と言うか、ちょっと難しい」


 俺を殺そうと刺客が隙を伺っているなんて、教えられない。


「視線なんかないぞ。いや、それはきっとネズミだ。最近、学園にネズミが多いんだよな。前は気にならなかっただけかも知れないが、隠れているネズミが分かるんだよ」


 そのネズミは俺が放った猛毒ネズミだ。

 なんでこいつはそういう所ばかり気づくかな。


「そのネズミはどうした」

「もちろん無視した。素手で触って病気になったら嫌だろ」

「病気耐性を得たのを忘れたのか」

「ああ、そうだった。俺、医者になろうかな。女性限定の」

「女性は下心に敏感だぞ」

「でもな。毒魔法と病気魔法の用途が思いつかない。俺って小心者だから暗殺者とか向かない」

「毒も薬だから、医者は良いかもな。痛みを毒魔法で麻痺させて、その間に傷口を縫うとかな」

「血はちょっと」


「女性限定の医者になるんだろ」

「触診のみの医者だ。病気の診断だけして、薬は薬剤師に出してもらう」

「そんな上手い訳いくかよ」

「行かないか。なんの話してたっけ。そうだ、お前が視線を感じるって話だな」

「まあな」


 ショウに解決策が出せるとは思えない。


「視線は吸血鬼騒動の犯人だ。そら、あそこから見てる」


 ショウが自信満々に窓の外を指差した。

 それらしいのは見えないぞ。


「本当か」

「疑うのか」


 疑うよ。


「話が飛躍し過ぎだ」

「お前に恨みをもってたロイヤルガーデンは壊滅しただろう」

「まあな」

「消去法でいくと、吸血鬼騒動の犯人だ。お前が情報収集してるのに感づいた」


 むっ、ショウにしては話の筋が通っている。


「窓の外のあそこの確信の理由は?」

「強者の勘だ。強者には強者が分かる」

「じゃあ、俺を見てどう思う」

「ちっとも強く見えないな」


 駄目だなこいつ。


「俺っ、次で準決勝なんだが」

「対戦相手を買収しているんだろ。そう言ってたよな」


 ああ、言った。

 サクラを使っていると。

 こいつそれを信じているのか。


「ふーん、で窓の外の強者の気配はどうなった」

「消えた」


 いまいち、信用できないな。

 ただ、学園に刺客か何かが潜んでいるのは間違いない。

 猛毒ネズミを増員しよう。

 数を増やせば、何か分かるに違いない。


 増やしたが、やられた猛毒ネズミはいなかった。

 それからぱったりと猛毒ネズミがやられることはなくなった。


 ショウが犯人ってことじゃないよな。

 犯人はヤス的な展開の、調べる側が犯人だったら、笑うに笑えない。


 それとも、蟲毒の効果でショウには俺の見えない物が見えている。

 そんなことがあるのか。

 魂が強化されたことで、どんな恩恵があるか分からない。

 だが、あり得る話ではある。


 何か見落としているのか。

 何だろ。

 そのヒントが何かあった気がする。

 考えても分からない。


 まあ地道に行くさ。

 情報は着実に集まっている。

 そのうち犯人に辿り着くヒントが手に入るに違いない。

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