第67話 吸血鬼

「大変だ」


 ショウが教室に駆け込んできた。


「何が大変なんだ」

「吸血鬼が出たらしい。血を抜き取られた遺体が発見されたんだって。行方不明事件の被害者らしいぜ」


 吸血鬼ねぇ。

 強い奴なら手駒にしたいところだ。

 だがリベンジャーより強くはないだろう。

 まあ会ってみないと分からないが。


 俺は授業をさぼり、その現場に行った。

 そこは普通の裏通りで、薄暗くもなく治安も悪そうに見えない。

 近くの酒場に入る。


「一杯奢らせてくれ」

「おう、すまないな」

「ところで吸血鬼騒ぎがあったんだって」

「おうよ。黒塗りの馬車の荷台から樽が落ちたらしいぜ。で樽の蓋が外れて中に血のない死体があったってわけだ」

「となるとどこかから運ばれたってことか」

「警備兵はそう言っている。吸血鬼の屋敷探しで街中が大騒ぎだ」


 ふん、これだけじゃ何も分からないのと一緒だ。

 墓場に行く。


「【死霊魔法、ゴースト生成】。この街にいる吸血鬼を探し出せ」


 ゴースト達が飛んでいった。

 アンデッドはアンデッドのいる場所が分かるらしい。

 負の気配とか何かがあるんだろう。


 気長に待つとするか。

 だが待てでも待てどもゴーストは帰って来ない。

 ひょっとして討伐されたか。


 ゴーストとの繋がりは感じられる。

 それを辿る。

 ゴースト達はどれも元気に飛び回っていた。


 吸血鬼がスキルか何かで気配を上手く隠しているのかな。

 そうなるとそれなりにやる奴なのかも。

 ゴーストが噂になっても困るので、アイテム鞄の中に回収する。


 こうなるとヒントがないと厳しいな。

 俺は暗黒魔法で闇を纏って死体安置所に侵入した。

 死体はひとつだけだ。

 確かに真っ白で血の気がない。

 だが、傷痕は首筋じゃないな。

 手首だ。


 まあ手首から血を吸うことも出来なくはないが、吸血鬼らしくないな。

 他は、腕と足に枷を嵌めらた跡がある。

 長い間拘束されてたんだな。

 年老いた吸血鬼なら催眠術みたいなので眠らせたりできる。

 となると若い吸血鬼か。

 実力はさほどでもない奴か。


 他は、薬品臭がするな。

 なんの薬だろう。

 薬学に詳しい奴はいないから分からない。

 警備兵も気づいているだろうから、たぶん調べているだろう。

 そのうち噂になるかもな。


 こんなところか。


 さて、プリシラに借りを作るのは余り良くないが、指針剣で吸血鬼の方向を教えてもらうか。

 プリシラは二つ返事で頷いてくれた


「【指針剣】、吸血鬼を指し示せ。こっちよ」


 プリシラのナビに従って歩く。

 だが指し示された場所は街の外だった。

 しばらく街の外も探索したが、一向に吸血鬼に出会わない。


「たぶん、だけどこの付近に吸血鬼はいないわ。もっともスキルで隠蔽しているのかもしれないけど」

「ありがと」


 指針剣でも駄目か。

 家に戻るとアルチは銀細工を作ってた。


「銀細工なんかどうするんだ」

「吸血鬼を退けるって言うのでバカ売れ」

「そんなの迷信だろう」

「そうなんだけど、何倍もになるんだったら、売らなきゃ、そんそん」


「どうせなら、プリシラの指針剣を魔道具にしろよ。吸血鬼探索の、もっとも隠蔽スキルが使われているらしいがな」

「聖域スキルの魔道具を作らせてよ」

「そりゃバカ売れするだろうが。教会に目をつけられるぞ。俺は構わないがアルチの賞金が上がるんじゃないかな」

「げっ、それは勘弁ね」

「妥協案として光魔法だな。これならスキルを持っている人はかなりいるし、アンデッドに効果があるから、嘘じゃない」

「そうしますか」


 アルチは光魔法の魔道具を作った。

 『聖なるランプ』、手の平より小さなランプの形の魔道具で、起動すると光を放つ。


 だが、同じようなことを考える人はたくさんいるようで、すぐに類似品が発売された。

 ムキー。

 何だか負けた気分。

 こうなったら。


「なあ、アルチ、ニンニクを食うと血が臭くなって吸血鬼が敬遠するらしいぜ」

「ほんと、ニンニク食べなきゃ」

「嘘だよ。だが信じただろう。でニンニクを買い占めて、噂を流すんだ」

「悪党ね」

「やらないけどな。アルチもやるなよ。こういうのはばれて、街中のひとから石を投げつけられて、火あぶりされるんだぜ」

「やらないよ」


 どうやら、俺は商売が向いてないらしい。

 ニンニクの件は商人なら上手くやるんだろうけどな。

 他の人から賠償を取られるような商売はしたくない。

 光魔法の魔道具みたいに効果がある奴はいいけど、デマは駄目だ。

 譲れない一線なんだろうな。

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