第115話 隊商

 どうやら、ウェイは常に移動しているらしい。

 プリシラの指針剣ではそうなっている。

 この方法は俺も考えた。

 だがウェイとしてはしたくなかった選択だろう。


 旅から旅へ逃亡生活を続けるのはつらい。


「この男を見なかったか」


 俺は街で人相書きを見せた。


「見ないな」

「邪魔したな」


「見たぞ。というか、俺の隊商に加わってた」

「もう別れたんだな」

「ああ、気味の悪い奴だったから、引き止めなかった。常にキョロキョロしてて落ち着きがないようだったからな。あれは賞金首の行動だ。そうなんだろ」

「賞金は懸けてないが追っている」

「やっぱりそうか」


 うん、隊商から炙り出すか。

 俺は商業ギルドのカウンターに行った。


「依頼なんだが、この男に言づてたい」

「居場所は分かっているんですか」

「それがどこかの隊商にいるとしか。だから懸賞金じゃないけど、見つけた人に金をやりたい。なに命をとったり荒事じゃないんだ。言伝してくれるだけで良い」

「言伝たと偽者が現れますよ」

「だが、伝言してから届けたい彼、ウェイに誰から伝言を受け取ったか聞けば、依頼を果たしたのが誰だか分かるだろ」

「そうですね」


 実際は賠償スキルを使うつもりだ。


「言伝が重複しても構わない。成功したら金貨10を払おう。言伝の内容はこうだ。ウメオだ、すぐにそこに行く」

「承りました。ほとんどの隊商が依頼を受けてくれると思いますよ」


 さて、後は待つだけだ。

 言伝を届けたという商人が現れた。


「約束の金貨10枚だ」

「ありがと。彼どうしたんだ。言伝を聞いたら震えあがってたぞ」

「ちょっとした貸しがあるんだよ」

「貸しか恐ろしいな。借金に追われたことがあるから分かるがあれは勘弁してほしい」


 男が去ったので賠償スキルを使う。

 うん、金は帰って来ない。

 上手くいった。


 簡単に嘘だと分かるから、依頼を受けた商人は嘘はつかない。

 まあ実際は俺はウェイには確かめないがな。

 だがスキルでは確かめる。


 商人の話を総合してウェイの居場所を割り出す。

 俺達はそこに向かった。

 隊商が見えた。

 ウェイの姿も。


 ウェイはゴーレム馬に引かれた馬車を見ると一目散に逃げ出した。


「ちょっと」


 商人に呼び止められる。


「何か?」

「あんた逃げた彼と知り合いだろう。いま乗り逃げした馬の代金を払って貰わないと」

「払うぜ」


 しめしめ、ウェイに貸しが出来た。

 賠償スキルが使える。

 だが馬の代金ではスキルは奪えないだろう。

 こういう積み重ねが大事だ。


「プリシラ、ウェイはどこに逃げた?」

「【指針剣、元勇者ウェイを示せ】。いまのところ街道を北上してる」


 このまま行くと山にぶち当たるな。

 そこは難所だ。

 ドラゴンがいるという噂もある。

 ウェイはそれに賭けたのかもな。


 ドラゴンがいるという、山に向かってウェイはひた走っているようだ。

 段々と道の坂が急になる。

 ドラゴンの気配はない。

 だが道が狭くなって通れなくなった。

 ゴレーム馬と馬車をアイテム鞄にしまう。

 アンデッドを数人出して荷物運びさせる。


 道は山の谷沿いを曲がりくねって続いてる。

 パラパラと音がした。

 見上げると大岩が落ちてきている。

 その向こうにウェイの姿が見えた。


「【次元斬】」


 俺は大岩を切り刻んだ。

 これでまた賠償パワーが溜まったな。

 そろそろスキルを奪えるか。


「【賠償】」


 馬の代金の2割増しぐらいの金が手に入っただけだった。

 何でだ。

 大岩があった場所に行くと何故だか分かった。

 怒り狂った熊のモンスターがいた。

 たぶん大岩はこいつが落としたのだろう。

 こいつから賠償を取ったような感触がある。

 ウェイは逃亡スキルを使っただけだ。


 熊のモンスターは追っている時にというわけだ。

 ウェイは悪くない判定なのだな。

 そうだなモンスターから逃げていただけだ。

 だが逃亡スキルは俺からの逃亡も計算に入れてたに違いない。


 スキルに思考があればそうだろうな。

 一石二鳥だったのだな。

 逃亡スキルのウェイはなかなかやる。


「プリシラ、ウェイはどこに?」

「【指針剣、元勇者ウェイを示せ】。分からない。反応がないってことは死んだのかも」


 いや、死ぬわけない。

 逃亡スキルの性質上危険は避けられるはずだ。


「ここの逸話とかないか」

「昔話みたいなので良ければ。ドラゴンの話と、神隠しの村よ」


 それだな。

 神隠しの村。

 たぶんその村は異次元の隙間に存在しているのだろう。

 厄介な所に逃げ込んだ。


 だが、なんとかなるはずだ。

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