第116話 ウェイ捕まる

 異次元に存在しているであろう村。

 どうやって行く。

 伝承では100年に1回しか行けないらしい。


「ちょっとお手上げ気味だな」

「神隠しというと時空魔法の領分ね」


 リリムが俺の独り言に応えた。


「時空魔法使いなんているのか」

「おとぎ話ならね」


 全員で作戦会議だ。


「意見があればどんどん言ってくれ」

「こういうのは綻びがあるものだと思います。魔法なんかたいがいがそうです」

「力技でこじ開けるのかいいかもな」

「神の力なら不可能はないと思いますよ」


 うんうん、綻びか。

 空間が揺らめいている所とかを探すのかな。

 そして綻びをどうにかして拡大する。

 まず綻びだな。

 これが見つからないとどうにもならない。


 力技は魔法を最大出力でぶつけるとかだな。

 この方法は何が起きるか予測できない。

 世界が壊れたりするかもな。

 最終手段だな。

 それにどこへ魔法を放つのかも分からない。


 神の力か。

 うーん、いまいち使い方が分からないんだよな。

 一応力の流れとかは分かるようにはなったが、奇跡を起こすまでにはいかない。

 できるようになるとしても今じゃない。


「綻びを探そう。指針剣の出番だ」

「【指針剣、次元の綻びを指せ】。あっちよ」


 半信半疑だったが、綻びがあるとはな。

 プリシラに案内されて来た場所には確かに空間が歪んで見えた。


 蜃気楼とも違う。

 歪みまくったレンズを通して見るとこんな感じか。


 さてどうする。

 綻びを手で触ってみたが、手ごたえはない。


「【指針剣、空間の歪みに干渉できるものを指せ】」

「プリシラ、ナイス。でもその方向だと俺だな」


 プリシラが俺の周りをぐるぐる回る。

 剣の切っ先は俺を指していた。


 ということは答えは俺か。

 神力を使えというのか。

 やり方が分からない。


 ああ、そうだ。

 時空魔法に近い物を俺は持っている。

 次元斬だ。

 あれは、空間を切り裂く。


「みんな、下がってろ【次元斬】」


 歪んでいた空間の向こうに村の背景が見えた。

 神隠しの村は本当にあったんだな。

 村へ踏み入れると、俺達が入ってきた方向とは逆の場所にウェイの姿が見えた。

 次元斬が貫通して、入口と出口が同時に出来たんだな。

 くそっ、出口に行くもウェイの姿はなかった。


「【指針剣、元勇者ウェイを指せ】。剣が山の中を指している」

「山の中か洞窟かな」


 ほどなくして、入口らしき場所は見つかった。


「この中に入って探索するほど暇じゃない。ウェイは逃亡スキルのナビがあるから迷わないが、俺達はそうじゃない。だから。【水魔法、水生成、水操作】」


 洞窟を水浸してやる。

 高い場所にも水は入っていく。

 魔法で操作しているからな。


 ここは行き止まりと。

 水を触手のように伸ばして、洞窟を探っていく。


 ここは別の出口と。

 地道な作業は半日も続いた。


「【指針剣、元勇者ウェイを指せ】。ウェイは下山したみたい」

「相変わらず、逃げ足が早い」


 でも確実に追い詰めている。

 山のふもとに行くと、盗賊の一団が待ち構えてた。


「ウメオ、今度こそお前は終りだ」


 ウェイがそう啖呵切った。

 こんな盗賊達で止まるかよ。


「【次元斬】、一撃じゃないか」

「ガァァァ」


 ドラゴンが現れた。

 盗賊共が集まったので餌がたくさんあると勘違いしたらしい。

 ウェイの狙いはこれか。


「くっ、放せ」


 ウェイが血を流して助からないであろう盗賊に捕まっている。


「騙しやがったな。こうなったら道連れだ」


 ウェイは盗賊に足を刺された。

 盗賊がこと切れる。


「【逃亡】。あれっ、スキルが」


 逃亡スキルは歩けることが条件なんだな。

 こういうスキルはままある。

 斬撃は刃物を持ってないといけない。

 魔法は喋れないと駄目だ。


「【次元斬】」


 ドラゴンの首を刎ねた。


「ウェイ、お前も終わりだな」

「来るな。俺は英雄神だぞ」


 逃げられないように両足の腱を切っておくか。


「ぎゃゃゃあ」


 俺はウェイの傷口に低級ポーションを掛けた。

 これで傷は治らないが、傷口は塞がった。


「プリシラ、ウェイに聴かなくて良いのか」

「ウェイ、あなたは魔王討伐を詐称しましたか」

「それがなんだ」

「有罪。ウメオ、あなたの好きにして下さい」


 次元の歪を切って何となく感覚を掴んだ。

 そして、神の力が使える手ごたえを得た。

 ならばこうしよう。


「【次元斬】」


 切り裂かれた空間の向こうは王都だ。

 ウェイを持ち上げると王都側へ放り込んだ。


「ぐべっ」


 さて、復讐劇の幕が下りるのが近い。

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