第117話 復讐神

 王都の門の所には何事かと、人が集まった。


「この元勇者ウェイは神の名前を騙った! よって神罰を下す! 王都の人間よ決行は日没だ!」


 ハチの巣を突いたような騒ぎになった。

 歩けないウェイを見物にくる人が多数。

 罵声を浴びせる人もいた。

 どうやら、この間の戦いで、死んだ兵士の家族らしい。

 こういう人の後始末もウェイにはしてもらわないとな。


「復讐神様に置かれましてご機嫌麗しく。王より書簡を預かって参りました」


 俺が神だという情報をウェイが潰してた。

 復讐神様におかれましては何卒ご容赦をと書かれている。


「別に王に思う所はない。ウェイが魔王を討伐したということを信じたのは騙されたのであって、そこまで罪に問おうとは思わない。そこに俺の復讐の心はない」

「ありがとうございます。さっそく王に伝えて参ります」


 そして、ドレスを着た偉そうな女が馬車で乗り付けた。


「ビジョレーヌ、俺を助けに来てくれたのか」


 ウェイが女を見て哀願するような顔をみせる。


「この嘘つき。魔王を討伐などしてなかったのですね。神の話もそう。愛想が尽きました。ではさようなら」

「頼む、待ってくれ。頼むぅ」


 結婚する前で良かったな。

 結婚してたら、ややこしい事態になったかも知れない。


 そろそろ日没だ。

 始めるか。


「ウェイとニックに天罰を下す。ウザリとイヤミィはアンデッドとして長い時間過ごすのが天罰だ。ウェイ、何か言う事はないか?」

「俺は悪くない。誰だって命が掛かれば嘘をつく」

「あのな。最初に生贄にしたことは許せない。だが、その後に俺を裏切り者にして名誉を貶めたよな。そんな必要はなかったのにだ。俺が魔王を足止めしてる、感謝してる、ウメオは英雄だと言えなかったのか」

「そんな事を言えるか」

「謝罪の言葉がひとつもないから、こうなった」

「謝る。済まん許してくれ。この通りだ」


 ウェイが地面に顔をこすりつけて謝る。


「いまさら遅い」


 俺はニックの死骸を出した。


「こいつは死んでる」


 俺はそう言うとニックの死骸を剣で何度も突き刺した。


「見よ。奇跡だ。復活せよ!」


 邪復活を何度もやって復活が何たるかを掴んだのだ。

 復活の奇跡は起こせる確信がある。

 ニックが起き上がった。

 少し神力が減った。


 民衆から歓声が上がる。


「はっ、俺は死んだんじゃ」

「償いをしてもらうために生き返らせた。見よ!」


 黒い炎の火柱が2本上がった。

 これは戦場にある怨嗟と怨念の炎の炎。

 邪気も含まれている。

 ほとんど神力は減らない。

 復讐に関係しているからか。

 歓声がさらに大きくなった。


 ニックの襟を掴むと、火柱に投げ込んだ。


「くっ、このおぞましさは何だ。ああ、食われていく。齧るな」

「怨念に魂を齧られているんだよ。やつらの気ばらしだ。怨念を慰めて浄化するんだ。千年ぐらいで済んだらいいかもな」

「あがが、びゃら、あばば」

「狂ったか。だが死ねないぞ。死ぬのは怨嗟と怨念が全て無くなってからだ」


「俺もああなるのか。嫌だ。【逃亡】、スキルよ、応えろ」

「終わりだ」


 ウェイを炎に入れた。


「寒い。火をくれ。皮膚の下を虫がはいずり回る。この痛みをなんとかしてくれ。あがぁ、ひゅう、あひゃ、あひゃひゃ」


 怨嗟には家族の恨みが含まれる。

 家族の恨みが少しでも晴れたら良いがな。


 終わった。

 何だか胸に穴が開いたようだ。


「終わったのね。でも終わりじゃないわ」


 リリムがそばに寄って来てそう言った。


「これからは世捨て人として暮らすよ」

「民衆が放っておかないわ。あなた復讐の神でしょ」


 恨みを晴らしてくれという声が聞こえる。

 そうか、俺は復讐の神か。

 これからは、他人の復讐の手助けをするのだな。

 時代劇の金で復讐するヒーローみたいに。


 となると、リリム、メッサ、シャランラ、プリシラ、アルチも一味となるのか。

 そんな生活も楽しいのかもな。


 滅殺復讐ギルド人か。

 俺の普段の顔は醤油屋。

 殺しの場面では、櫂棒という桶をかき混ぜる道具を使う。

 リリムは表の顔が貴族で、武器は剣かな。

 メッサは表の顔が護衛で、武器は突きに適した何か。

 シャランラの表の顔が機織りで、武器は蜘蛛の糸。

 プリシラはギルドに勤めていて、情報屋。

 アルチは表の顔が魔道具屋で、色々な魔道具で殺す。


 まあ、そんな生活もいいかな。

 王都でそんな稼業でもやるか。

 どうせ、リリムは屋敷を構えるのだろうから。


「生き返ったような顔してる」

「まだやることがあると思ってな」

「そうよ。人生は続くのよ。死ぬまで終わりじゃないわ」


 生きるか。

 そうだな。

 異世界にせっかく来たんだ。

 そして、最強になった。

 精一杯、楽しんで生きよう。


-完-

――――――――――――――――――――――――

あとがき

 これにて終わりです。

 賠償スキルはほとんど一発ネタだと思ってました。

 117話も書けたことが驚きです。


 続けるのなら領地開拓編ですが、賠償スキルは領地開拓と相性が良くなさそうです。

 滅殺復讐ギルド人は書けるけど、面白いのかな。

 少し寝せておきたいと思います。

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