第19話 嘘と本当

 野営で一悶着。

 俺は魔道具のテントの中で寝るとして、見張りが一人起きて立つ。

 残り3人。

 馬車の中に二人は寝れるが、三人は無理だ。


「そういうわけで、プラムマンと一緒に寝るわ」


 そう言ったのはプリシラ。

 色仕掛けも暗殺もごめんだ。


「断る」

「やーい、断られてやんの。慎みのない女は嫌われるよ」


 リリムがプリシラを挑発する。


「じゃあ私はどこで寝ればいいの?」


 プリシラがそう言って科を作る。


「鉄くさいが、荷台で寝ろ。嫌なら一緒に来なくていい」

「ええっ、何で冷たいの。私とあなたの仲じゃない」

「ビジネスの関係だ。リリムも同じだが」

「えー、私もなの」


「明日も早い。寝るぞ」


 プリシラの魂胆が読めない。

 馬車とうとうとした時も襲っては来なかった。

 もっとも魔道具で結界張ってたがな。

 結界が見えたので襲わなかったのか。

 謎は残る。


 夜が明けた。

 夜中、プリシラは来なかった。

 俺が襲うなら、眠ってからだが。

 もっとも見張りが一人立っているから、成功率は低いと思われる。

 隙を見てじっくり仕掛けるつもりなのかな。


「おはよう」

「「「「おはよう」」」」


「寝ている間に何かあったか?」

「モンスターが何匹が来たわね」


 ああ、隠蔽スキルを使っているからだな。

 強者の気配も隠蔽されているらしい。


 モンスターが来たなら、プリシラにとっては好機だったのでは。

 分からんな。


 俺に一目ぼれしてついて来たなどという、頭がピンク色のおめでたい発想はしない。


「とりあえずの目的地はウソツキー領だ」

「そこに何があるの?」


 プリシラは何気ないふりで聞いているが、目が真剣だ。


「金属も扱うが、俺の本業は魔道具商人。ウソツキー領で魔道具を作ってもらう予定だ」

「へぇ、そうなの」

「あと、街を三つ経由すれば、ウソツキー領の領都になる」

「気づいてる? この馬車つけられているわよ」

「たぶん、殺し屋だろう。誰の依頼かは分かっている。盗賊をやった関係で逆恨みされている」


 嘘をついた。

 万が一プリシラが無関係だと、ウェイの話は出来ない。

 生贄の話を知っている人間はウェイにとっては口封じしたい人間だ。


 ウソツキー侯爵の話も出来ない。

 こちらも巻き込むからだ。


「ふーん、始末してあげてもいいけど、金貨10枚ね」


 今回の殺し屋はプリシラの仲間ではないらしい。


「じゃあ、頼むよ」


 プリシラは街道から森へ入り、しばらくしてから、死体を引きずって戻ってきた。

 黒装束の男だ。

 たぶん殺し屋だろう。

 ウェイの放った殺し屋か、それともウソツキー侯爵か。

 魔王軍残党の線もあるな。

 さっき言った盗賊の線もある。

 嘘から出た真という奴だ。


 まあいい、殺し屋の雇い主が分かったところで、いずれ雇い主も殺し屋集団も殺すのだから関係ない。

 馬車に乗り込む。

 俺の隣はじゃんけんでプリシラと決まった。

 プリシラは俺にしなだれかかった。

 花のような匂いがする。


 香水は冒険者にとってタブーなのに。

 プリシラの今はオフだ。

 仕事中というわけではない。


 リリムが鼻をつまんで、手で仰ぐ仕草をする。

 その様子をプリシラは鼻で笑った。

 リリムとプリシラの間に火花が散ったような感じがする。

 プリシラにとってリリムは邪魔なのだろう。

 でもそれは悪手だ。

 仲良くなって油断を誘う方が良い。

 プリシラの考えは読めない。


「ねぇ、あなた。あなたは不思議な人ね。その不思議さはどこから来ているのかしら」


 プリシラがそんなことを言う。


「私も聞きたい」


 リリムまで同調した。


「別の世界から来た異世界人だからだよ」

「冗談でしょ」

「別の世界があるなんて聞いたことがないわ」

「伝説にもない」


「神様に頭を下げられたんだぜ。世界広しと言えどもそんな人間は俺一人に違いない」

「上手い作り話ね」


 リリムとシャランラが頷いている。

 だよな。

 おれも地球で異世界から来たなんて言われたら、頭を疑う。


 だが、事実だ。


「好きに考えろ」

「あなたが嘘つきだということが分かったわ」

「そうね」

「うんうん」


「そういうプリシラだって嘘を吐いているだろう」

「えっ、何の事かなぁ」

「誰だって秘密の一つや二つはある」


「それはね」

「私だってある」

「うんうん」


「だろう。みんな嘘ついて生きているのさ」

「私は言えない事は言えないと言うわ。嘘はつかない」

「私もよ」

「私も」


「そういうことにしておくさ」


 プリシラに正面切って怪しいと言っても惚けられるだろう。

 嘘をついて生きているは真理だと思うがな。

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