第83話 手打ち

「おう」

「おはよ」


 徹夜明けのショウが教室にいたので朝の挨拶をする。

 ショウは微妙な顔をして何か考えている。


「体の異変について前に訊いたよな」

「ああ」

「何かあったのか?」

「気のせいだと思うけど、夜食の味が一回、凄くおかしかった」

「それだけか?」

「いいや、針で刺された感触があったんだよ」

「ほう、今も続いているのか?」

「いいや3度チクっときただけだ」

「ふうん」

「それと論文を書き上げて仮眠を取ったんだが、喉がカラカラに乾いたなと思ったら、口の中に潤いがはじけたんだ。おかしいだろ」

「夢でも見てたんじゃないか」

「まあな。一回きりだから、自信はない。なあ、俺は病気なのか。はっきり言ってくれ」

「病気耐性を持っているだろ。しかし、なんだかな」


 引っ掛かるが、まあ大したことはないだろ。

 夜食は腐っていたのかも知れない。

 病気耐性と毒耐性があるからな。

 下したりしないはずだ。

 チクチク来たのはトゲでも服に刺さっていたんだろ。

 でしばらくしたら抜けたと。

 口の中の潤いは夢だな。


 蟲毒の副作用とはとても思えない。

 結論、別に異常なし。


 授業を終え帰り道、チンピラが待っていた。


「ボスが手打ちにしたいそうだ。ついてこい」

「面白そうだ」


 酒場に連れて来られた。

 ボスのボンボレスは優男だった。

 意外だな。

 筋肉隆々の大男を想像してたんだが。


「僕の手下を良くも消してくれたな。パパに言いつけたいところだが、今回は手打ちにしてやる」


 言動がお坊ちゃんなんだが。


「分かったよ水に流すということで」

「ところで、あの男は何だ。ドラゴンを殺す毒だったんだぞ」


 えっと、何のこと。

 ああ、変な味の夜食か。

 毒を盛られたのだな。


「毒耐性を持っている」

「くそっ、許さないと言いたいけど、あの方が許せというから許してやる」


 上が動いたのか。

 守備兵か。

 教授の伝手か。

 それとも俺の知らない誰かか。

 まあ良いか。

 掛かって来るなら容赦しない。


「話がそれだけなら帰る」


 ボンボレスはあっち行けと手でジェスチャーした。


 帰り道に考える。

 ショウに毒を盛った奴はどうやって学園に入ったのかな。

 学生にボンボレスの手下がいるのか。

 いるのだろうな。

 毒殺を狙ったところから考えるに小物だな。

 実力があれば、毒が効かないと判ったら、別の手を取っているに違いない。


 俺は一人で怪しい酒場に行った。


「ボンボレスについて知ってることを教えてくれ」

「噂で良ければ、いいわよ。貴族のドラ息子なんだって」

「でパパに言いつけるぞか。他にバックは?」

「あると思うけど、知らないわ。他の人の話に出ないから」


「ボンボレスの子飼いで毒使いの奴は?」

「スネーピオンね。ガリガリに痩せてて、目つきが冷たい奴。隠蔽スキルでどこにでも忍び込めるみたい。今まで狙った獲物は必ず毒殺したって自慢してたわ」


 そいつがショウを襲ったのか。

 ショウよ、毒耐性があって良かったな。


 ボンボレスの言ってたあの方が妙に気になる。


「ボンボレスの経歴は?」

「貴族の生まれで、魔法学園に入ったらしいけど、中退したみたいね。いま22歳よ」

「魔法の腕はそこそこあるのか」

「ええ、敵対組織とかも潰したってチンピラが自慢してたわ」


 あの方ってロイヤルガーデンのボスかな。

 そう言えばロイヤルガーデンのボスは見てない。

 知らずに潰したかも知れないけど。


 繋がっているのかな。

 証拠がないな。

 プリシラに占ってもらうか。

 困った時の指針剣。


 帰ってプリシラの部屋をノックした。

 どうぞの声が掛かる。


「いきなりだが、ロイヤルガーデンのボスのいる場所を指針剣で指し示してくれ」

「いいわよ。【指針剣、ロイヤルガーデンボス】。この方向だと学園ね」


 うん、寮か研究室に入っているのか。

 あの方の居場所を知りたいが、あの方の一言では無理だろう。


「金貨100枚やるから、仕事を請けるか?」

「やってもいいわよ」

「ボンボレスのいる場所を地図に記載して欲しい。一時間置きにな」

「できるけど。夜、眠れないのは大変ね」

「3日間限定でどうだ。3日ぐらいなら徹夜できるだろ。合間に1時間の仮眠も取れるんだから」

「ええ」

「じゃあ決まりだな」

「指名依頼出してね」


 指名依頼を出してプリシラがボンボレスの居場所を監視することになった。

 ボンボレスがあの方に会えば、その居場所が割り出せるはずだ。

 ヒントにはなるだろう。

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