第59話 噂

 学園の教室では俺の周りには誰も近づいてこない。

 ピエロの化粧した怪しい奴がいたら、俺もそうする。


「あんた面白いな」


 そう言ってきた奴がいる。

 二十代後半だな。

 どこから見ても冴えない奴だ。

 モブっていう奴かな。

 講師や教授でも良い年齢だが、赤のロープタイをしてるから、1回生だ。


「どこが面白い?」

「気を悪くしたか。ピエロの化粧して授業を受けるのは面白いとしか言えないだろう」

「俺もそう思う。だが、芸人だからな」

「職業意識って奴か。結構なことだ。俺はショウ・カッコウ。4年浪人して、5年留年した男だ」

「名字があるってことは貴族か。俺はプリュネオム。呼びづらければ好きに呼ぶと良い」

「じゃプリュネで。俺は貧乏男爵の3男坊なんだが、どこかの貴族令嬢に婿入りしない限り、子供は平民になる」

「ふんふん」

「どこかに良い女いないか」

「俺にそれを聞くのか」

「芸人は貴族との繋がりがあるだろう。生徒でない聴講生は金が掛かる。貴族のパトロンがいるに違いないと思ったわけだ。俺の理想はずばりヒモ。金持ちの貴族の愛人になりたいぜ」


 お前の方こそ面白い奴だ。

 リリムなら条件に合っているけど、紹介などしない。


「俺のパトロンは老人だ。笑いが好きな仙人みたいに奴だから女は紹介できない」

「そうか。残念だな。だが、お前とは仲良くなれそうだ。俺も年が年だろう。友人がいない」

「分かった。親友にはなれないが、友人ぐらいなら良い」

「頼むぜ相棒」


 肩を叩かれた。


「ちょうどいい。学園の噂なんか知ってたら教えてくれ」

「ただじゃ駄目だ。芸を見せてくれ」

「いいぞ。ここに瓶があって銅貨が入っている。よく見とけよ。はっ」

「凄い銅貨が割れた。どうやったんだ」

「タネをばらす芸人などいない」

「他には何かできないのか」


「仕方ないな。あの男を見てろ。はっ」


 次元斬で男のズボンのベルトを斬ってやった。

 スボンが落ち、男の周りが笑いに包まれる。


「うはは、イチゴ柄のトランクス穿いてるぜ。女だったらもっと良かったのにな」

「こういうのはサクラ使っているんだよ。女が下着姿になることを了承するわけないだろ」


 サクラは使ってないが、そういうことにしておく。


「だな。そんな女はいない」

「そういうことだ」

「笑いを取るためにイチゴ柄のトランクスを穿かせたのか」

「まあそうだな」

「対価として提供できる噂は、あれだな。行方不明になっている奴がいるらしい」

「人さらいか」

「学園の生徒に被害者はいないが、まあそうだろうな」

「他には?」


「あんただ。ピエロが授業受けているって噂になっている。なんでまた魔法学園に?」

「芸の幅を広げるためだな。魔法を使えば色々なことが可能だ」

「おう、芸人も大変だな。ちなみにさっきのベルトはどうやって合図を出したんだ?」


 めんどくさい奴だ。


「それが芸のタネだからな。話せるわけない」

「それもそうか」


「ショウも魔法戦に出るのか?」

「俺? 出るわけないだろ。俺なんかじゃ予選も通らない」

「予選はどういう戦いだ」

「大人数のサバイバル勝ち残り戦だな。たいがい徒党を組んでいるから。金とか権力のない奴は通らない」

「実力で通る奴はいないのか」

「そんな奴はいないな」


 俺が予選を勝ち抜くと、目立ってしまう。

 偶然を装うのが吉か。


「俺は話のネタに出るつもりだ」

「サクラを仕込むのか、仕込むんだな。笑わせてくれるんだろ。期待してる」

「芸人らしく喜劇にしてやるよ」


 女の講師が入ってきた。


「えー、今日は魔法言語の動詞について説明します」


 ショウは必死にノートを取っていると思ったら、講師の裸の絵なんか描いている。

 さすが、5年間、留年しただけのことはある。

 だが、絵はそこそこ上手い。

 画家にでもなればいいのに。


「先生、ショウがエッチな絵を描いて授業に集中できません」


 ショウの後ろの席の奴がチクった。


 女講師はショウの席まで来ると、ショウを小突いた。


「この絵は没収します。後でお仕置きです」


 そう言うと女講師は手をパンパンと叩き、集中して下さいと言った。

 お仕置きと言われたショウは何だが嬉しそうだ。

 こいつ変態か。

 プリシラ辺りがこいつの好みの女性かも知れん。


 あまり触ると馬鹿が移りそうだ。

 考えるならもっと重要なことがある。


 さて、予選はどうやろうか。

 あれを使うか。

 それでそういう展開に持ち込む。

 それが良い。

 笑いなら取れるはずだ。

 ショウや観客も満足してくれるはず。

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