第60話 予選

 第65回魔法戦闘大会、一般的には魔法戦と呼ばれている奴だ。

 100メートル四方はある石舞台の上で戦闘は行われる。


「Aグループ、舞台に上がりたまえ!」


 審判役の講師が拡声器の魔道具を使ってそう言った。

 俺に番はDだからまだ時間はある。

 どういう感じか見学させてもらおう。


 舞台に30人ほどの人間が上がる。

 そして審判が手を上げて、振り下ろした。


「始め!」


 同じ緑色の服を着た奴らが目立つ。

 あいつらが徒党を組んでいるという奴らか。

 緑服の奴らは方陣を組んだ。

 そして魔法を放ち始めた。


 ひとり、またひとりと戦闘不能ににって石舞台からはじき出される。


 緑服以外の人間も反撃するが、緑服の奴らは防御と攻撃役に別れている。

 そんなのが10人程の集団でいるものだから、すぐに勝負は着いた。

 舞台に立っているのは緑服だけだ。

 そして緑服は一人を残して舞台から降りた。

 これで決着か。


 つまらんな。

 だが貴族がいるような世界だ。

 権力と金がものを言う。

 世の中そんなものだ。


 小腹が減ったので、露店からホットドッグみたいな食べ物を買って食う。

 おっと、そろそろ俺の出番だ。


「Dグループ、舞台に上がりたまえ!」


 よし、俺は舞台の中央に陣取った。


「始め!」

「【氷魔法、アイスワールド】」


 俺は氷魔法を使って石舞台を凍らせた。

 氷は薄いので、少し光っているだけで、注意深く見ないと分からない。


「【氷魔法、ガントレット、ブーツ】」


 氷でそれらを作った。

 そして滑る石舞台の中を動き回った。

 他の選手は皆転げ回った。

 俺も転げまわるふりして、ひとりまたひとりと葬った。


「ありゃ滑っちまう。どいてどいて」


 そんなことを言いながら激突する。

 氷魔法部分で殴ったり蹴ったりするのを忘れない。

 転げまわる様子がおかしいのか、観客は大笑い。


 だが、人数がどんどん減っていき、残り選手が俺を含めて3人になった時におかしいぞ選手は思い始めたようだ。

 足に力を入れて踏ん張っている。

 最後の方まで残ったので体幹はさすがにしっかりしてる。

 関係ないがな。


「おっと、滑る滑る」


 俺は酔っぱらったような足取りで選手に近づいた。


「おっ、御免なさいよ」


 選手の足を氷のガントレットですくった。

 選手は転がる。

 氷のブーツで蹴りを入れて止めを刺すのを忘れない。


「おっと」

「お前の仕業だな」

「危ないって、どいてどいて」


 パンチを食らわせて葬った。

 最後のひとりは四つん這いになった。

 そして魔法を放つ。


「おっとっと」


 俺は転がりながら近づき。

 きつい一発を入れた。


「ありゃ誰もいなくなった」

「勝負あり」


 俺は石舞台から降りてカードを係員に渡した。

 カードに勝ったという記録がされたらしい。


「おい、お前。よくも俺達をこけにしやがったな」


 緑服の男に絡まれた。


「何の事です。転がり回っていたら勝っちまっただけですけど」

「あの滑る魔法はお前がやったのだな」

「違いますって」

「暗闇に気をつけろよ」


 そう言って男は去って行った。

 闇討ちに来るのかな。

 面白そうだ。


 俺は人通りの少ない路地をうろついた。

 案の定、男達に囲まれた。


「腕や足の一本は我慢してもらおう。悪く思うなよ」


 ぜんぜん、悪く思ったりしないって。

 男達は持って来た棒で俺をフクロにし始めた。

 そんなのじゃ効かないって。


「【賠償】」

「あれっ、急に力が」

「何だ、何をした」

「くそっ、呪いだろう」

「禁忌スキル持ちか」

「ずらかるぞ」


 男達が去って行った。

 賠償で貰ったスキルでめぼしいのは電撃魔法か。

 たしかにフクロにされた時にビリっときた。


 そして、家に帰ると兵士に囲まれた。


「プリュネオム、禁忌スキルを使った容疑で逮捕する。大人しくしろ」

「俺はただの芸人ですよ。嘘判別スキルに掛けてくれよ」


 そして、詰め所に連れて行かれて、嘘判別スキルに掛けられた。


「【嘘判別】準禁忌スキルか、禁忌スキルを使いましたか?」

「いいえ」

「使ってないようです」


 嘘スキルを使うまでもない。

 俺はあいつらに禁忌スキルなど使ってない。


「あいつら、嘘言って手間を掛けさせやがって」

「だから、芸人だっていったでしょ。あいつらの思い込みですよ」


 俺は放免された。

 実際にスキルとレベルは無くなっているから、あいつらはまた騒ぐに違いない。

 そしたら、また賠償スキルで奪ってやる。

 殺すまでもない奴らだ。

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