第12話 死への銅貨線

Side:シャランラ

 ビッグブラックにサンプルの糸と手紙を丁稚に渡すとすぐに会ってくれた。

 手紙には糸が馬車1台分あると書いた。

 だけどその糸の出所が怪しいのでお安くしますとも書いた。


 リリム姉は私につき従っている。

 私のコートの内側には蜘蛛がびっしりといるのは言うまでもない。


「夜遅く悪いわね。昼間運ぶような品じゃないので」

「分かってますよ」


「ここって壁が厚そうね」

「ええ、特別に作らせた応接室で、密談が外に漏れません。だから怪しい品の商談も出来ますよ」


「そう、好都合ね。蜘蛛ちゃんお願い」


 ビッグブラックの首に蜘蛛の糸が絡みつく。


「【重力軽減】天井に頭を打ち付けろ。何故だ。ぐぐぅ」


 スキルは奪われているから。

 レイコックに目をやると、剣を抜いたリリム姉と睨み合ってた。

 邪魔は入らなそう。


「次はクリーピングコインにでも生まれ変わるのね。そうしたら首を絞められても平気で、ブレスの炎で糸が焼けたかも知れない。糸を絡めて、運命の糸を切る」

「ぐぐぅ」


 ビッグブラックの声は小さくなっていく。

 やがて抵抗が止まった。

 近寄って、脈をとる。

 止まってる。


「ワズフールさん仇は討ったわ。安らかな眠りを」


Side:リリム


 始まった。

 シャランラの蜘蛛の糸が、ビッグブラックの首に絡みついた。


 レイコックと私が同時に剣を抜く。

 レイコックの剣はレイピアね。

 でもその突きはもう光速じゃない。


「貴様、レベルが高そうだな。俺のレベルになりに来たのか」

「どっちが経験値になるかしら。一騎打ち所望つかまつる」

「【鋭刃】【刺突】」


 レイコックの剣はゆっくりと放たれた。

 スキル無しのレベル1ならこんなものね。

 運のつきがなくなった突き、そんなのは怖くない。


「無実の人をレベルに変えるから、裏切られるのよ。【鋭刃】【斬撃】」

「ぐはぁ」

「ワズフールさん仇は討ったわ。娘さんも元気にやっているから安心して」


 シャランラを見ると首を絞めたビッグブラックの脈を取ってた。

 二人して無言で頷く。

 私達は闇に消えた。


Side:ウメオ


 銅貨を一枚ずつ落として誘導路を作って待ち受ける。

 月は再び雲から顔を出していた。

 ダウシャルが銅貨を拾いながら現れた。


「ふははっ、おお、ここにも銅貨が」


 月が雲に隠れる。


「その銅貨がお前を死へ送る銅貨線だ」

「誰だ? 物取りか? 誰か助けて!!」

「死んでもらう。所詮この世はうたかたの夢。せいやっ」


 鉄の櫂棒でダウシャルを強打した。

 一撃で死んだ


 人が来ると不味い。

 ずらかろう。


 キュートナはお葬式の準備に追われている。

 俺を見ると飛ぶように駆けてきた。


「父と話して下さい。お葬式の準備はほとんど終わりました。商会を畳む作業もなんとか」


 リリムとシャランラが手伝っているのは知っていた。


「お父さんの様子を見せてやるよ」

「本当? 見せて、見せて」


 経験値を代償にワズフールの状況を見せる。

 ワズフールは花を抜いて、地面に並べてた。


「そこの吸血鬼のお兄さん、彼女に花でも買って行きませんか」

「金なんか持ってないぞ」

「お代は何でも良いんですよ」

「じゃあ、石ころを」

「まいどありがとうございます」


「ふふふ、天国でも商人やってる。父さんらしい」


「おっと、そこのスケルトンさん、珍しい花を持ってますね。【値付】、うん花のタネ5個ですね」


 スケルトンが首を振る。


「商売上手ですね。では花のタネ7個では」


 スケルトンが迷いながら、首を縦に振った。


「商売成立です」


 ワズフールとスケルトンはがっちり握手した。


「ありがとう、父の元気な様子が見れてほっとしました」

「うん、色々とスキルを持って生まれ変わるから、来世もきっと幸せさ」


 いい気分で下宿に帰るとマリーが待ち構えていた。


「プフラ、金を持っているのなら、方々に物品を贈るのです」

「急になんだ」


「マリーの言う通りです。隣の下宿のウマクさんは、そうやって出世したのです。あなたもあの醤油という豆を腐らせる作業ではなく、お世辞の一言でも言って回りなさい」


 マリーの母親のゴルダが凄い剣幕でまくし立てる。


「さあさあ」


 マリーも同調してきた。


「ええと、リリムとは仲良くやっている」

「リリン様とおっしゃいなさい。名前で呼び捨てとは嘆かわしい。誰かが聞いていたらなんとするのです」


 ゴルダの剣幕は止まらない。


「そうですよ。日頃の行いが出るのです」


 マリーの剣幕もだ。


「へいへい」

「返事は、はい一回」

「もっと良い男がいないかしら」


 そうそう、俺なんかに構うなよ。


「マリー、占いでこの方は超大物だと出たのです。出世間違いありません」

「お母様、その占いは当たるのですか?」

「ええ、スキルですからね」

「そうなんですか」


 納得したマリー。

 スキルの占いか。

 当たるんだろうな。

 まあ、俺は神様で超大物だというのは当たってる。


「あらっ」


 マリーが俺が脱いだ上着を探って、財布を取り出した。

 そしてぽんぽん軽く投げて重さを確かめる。

 にたーっと笑った。


「お母様、金貨が2枚もあります」

「マリー、1枚はリリン家の方々の付け届けにして、残った1枚で化粧品を買いましょう」

「えっと、俺の金なんだけど」

「だまらっしゃい。倉庫の貸賃です。それに食費もただではありません。もちろん調理代もです」


 そんな。


「お母様、それに豆と樽の代金もです」

「【賠償】」


 俺は小声で唱えた。

 なぬっ、賠償が貰えないだと。

 釣り合っているらしい。

 くそっ。


「何か言いましたか?」

「何も」


 マリーの問いに俺は惚けた。


「化粧をするのもプフラのためです。私達が見栄えを気にして好印象をもってもらうのです。お金は使ってこそ」


 そんな理由で賠償スキルが無効化されるのか。

 でも彼女らはそれを信じているらしい。

 賠償の判断を誰がしているのか知らないが、まったくとほほだ。

 へいへい、そうですか。

 金は天下の回り物ですね。

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