第75話 酒場

 フラウがさらわれて閉じ込められた倉庫を、念入りに調べた。

 助けてから誰も近寄ってない。

 猛毒ネズミを置いておいたから間違いない。


 俺達が救出したのを察知したのだと思う。

 事件は振り出しだ。

 フラウの下宿から、倉庫までの下水道を探す。


 真新しい足跡がいくつか見つかった。

 足跡は小柄だ。

 男だと子供。

 女だとぴったり当てはまる。

 おそらく女だろう。


 今までのヒントを総合すると、魔法を使う女。

 これに合致する人間はたくさんいる。

 学園の生徒の半数が容疑者だ。

 街に住んでいる人で魔法を使える人はたくさんいるだろう。


 猛毒ネズミの鼻では足跡がどこに続いているかは追えなかった。

 おそらく消臭のスキルか魔法を使っている。

 用心深いな。


「なぁ、お金があるなら、女の子のいる酒場に行こうぜ」


 ショウがそう誘ってきた。

 吸血鬼探しをやりたいのだが、気分転換もいいか。


 怪しい酒場は繁華街の隅の方にそっそりと建っていた。


「いらっしゃい。あら、ピエロのお客様は初めて」

「そうだろ。でもこいつは良い奴だ。俺が保証する」


 ショウの良い奴は、利用できる良い奴に違いない。

 事実、今日もたかる気がみえみえだ。


「プリュネオムという芸人だ。よろしく」

「ねぇ何か笑わせてよ」

「賑やかになれるのがいいわ」

「そうそう、この酒場が盛り上がるようなのがね」


 女の子が寄って来てそう言われた。

 さてと、俺は本職のピエロじゃない。

 何をやるかな。


「えー、ツルツルになあれ」


 俺達以外の男の客の頭がつるっばげになった。

 暗黒魔法で髪の毛の精気を吸い取ったのだ。


 幻影魔法で出した子ザルがその頭の上で滑った。

 笑い声が起こる。


 怒った男性の客。


「おや、お気に召さない。ふさふさ」


 治癒魔法で髪の毛を生やす。

 その髪型はアフロ。

 みんなふさふさになった。


 笑い声がこだまする。

 男の客たちはそばにいた女の子になだめられ、怒りを鎮めた。

 半数の男は喜んでた。

 はげ掛かっていたからな。


「面白いけど、素敵な髪型ね」


 アフロは女の子に気に入られたようだ。

 そりゃあ、中世みたいな世界でアフロは最先端に映るのだろう。

 アフロで笑いとはいかなかったが、まあいいか。


「俺達は吸血鬼を探している。何か話がないか」

「何で吸血鬼を探しているの?」

「吸血鬼と話をして一座に加えたいと思ったんだよ。吸血鬼なら色々な芸が出来るだろう」

「えー、罪人なんでしょ。突き出さないと」

「償いは生きてこそと思うんだよ。一座に入って稼いだお金で賠償させようとね」

「それもそうね。殺したら一時的に恨みは晴れるけど、永遠にお金を貰える方がいいわ」

「いや、死刑なら殺すのもありだと思いますがね」

「えっ、殺してから一座で働かせるの」

「まあ、笑いの力で蘇らせて、ちょちょいのちょいと」

「そんなこともできるんだぁ。うっそだぁ。冗談でしょ」


「うん、冗談。で、吸血鬼の話は?」

「吸血鬼からは香水の匂いがしたって。見ていた物乞いがそう言っていたって噂よ」

「じゃあ女かな」

「男だって香水は付けるわよ。とくに貴族の男はね」

「それもそうか」


 香水は手掛かりにはならないな。

 だが、猛毒ネズミにその匂いを覚えさせたら跡を追える。


「プリュネ、俺は、リリーちゃんをお持ち帰りしちゃう」


 ショウがだいぶ酔っている。


「構わないが、俺が持つのは今日の飲み代だけだぞ」

「わあってるって。貴族は宵越しの金は持たねぇ」


 江戸っ子じゃないんだから。

 それは放蕩貴族だぞ。


「お前の金だから好きに使え」

「おう」


 ショウがリリーといちゃいちゃしながら、酒場を出て行く。

 俺は酒代の金貨を出した。


「あっ」


 受け取る女の子が顔をしかめる。

 俺も少しビリっときた。

 静電気だ。


 明日の第4回戦のネタはこれでいくか。

 電撃魔法だな。


 外に出るとすでにショウはいなかった。

 リリーとよろしくやっているに違いない。

 まあ、情報収集の手伝いで女一人囲うぐらいの金は出してる。

 破産したりはしないだろう。

 ただ、俺との関係が切れた時が縁の切れ目だな。


 魔法戦が終わったら、ここは去る予定だから。

 もっともショウは先のことなど何とでもなると思っているのだろう。

 良く言えば今日を生きている、悪く言えば後先考えない。


 そんな奴が末永く幸せに生きていたりするんだよな。

 意外と侮れない。

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