第64話 1回戦

 本戦、第1回戦。

 名前を呼ばれたので石舞台に上がる。


「始め!」


「【光魔法、蝶々】」


 俺は光魔法で蝶を飛ばした。


「【火魔法、火球よ加速して貫け】」


 相手は高速で火球を飛ばす。

 火球は蝶を貫きそうになったが、蝶はヒラヒラと飛んで躱す。

 そして火球は俺に迫った。

 一石二鳥を狙った攻撃か悪くない。


「蝶々さん待って!」


 俺はフラフラと動き火球を躱して、蝶を追い始める。

 なかなか蝶は捕まらない。

 観衆から笑いがこぼれた。


「【火魔法、火球よ加速して貫け】。なぜ、当たらない」


 レベルが違うんだよ。

 地力が違う。


「あっ」


 俺は蝶を捕まえようとして転がった。

 蝶が俺の鼻に停まる。


「【火魔法、炎雨】。これなら避けられないだろう」

「えへへっ、今度こそ」


 俺は自分の鼻を叩いた。


「へっぷし」


 俺はくしゃみの演技をして、虚無魔法を発動。

 相手の魔法は消えた。


「何だと」

「蝶さん許さないぞ」


 俺は蝶を両手で挟み込む形で叩いた。

 蝶が閃光を発する。


「目が目がぁ」


 のたうち回る。

 そして、ブレイクダンスに移行。


 相手も視力を失ったらしい。

 悪態をついている。


 ブレイクダンスの摩擦で火が発生する。

 もちろん俺の火魔法だ。

 それを手で掴むと食いまくる。

 そして。


「【火魔法、ブレス】」


 炎のブレスを吐いた。

 相手は黒焦げになり、石舞台からはじき出された。

 体は何ともないが、服は燃えてしまって、全裸だ。


「あははっ」

「真っ裸だ」

「女の子だったら良かったのに」

「情けない負け方だ」

「いいぞ、ピエロ。今回も笑わせてもらった」


 俺は片腕を前に折り曲げて、仰々しくお辞儀した。

 拍手が起こる。


 こんなもので良いかな。

 ショウが寄ってきた。


「ピエロって実は強い。でもサクラって言ってたな」

「何するか分からないって怖いよな」

「お前がそれを言うのか。しかし、本戦で勝ったというのにこの女っ気のなさは何だ。きゃあ恰好良いとかないのか。おこぼれがあったら欲しかったのに」

「そんなのはない」

「俺はピエロは嫌だな。人を笑わせるという所は尊敬できるけど、女の子にもてないんじゃな」

「手品で花とか出すと感動されるぞ」


 磁石を使ったのでそういうのがある。

 棒というかパイプに鳥の羽で作った花を入れる。

 花の根元には磁石があって、鉄にハイプをくっ付けて、そして引くと花がハイプから出るわけだ。

 何の事のない手品。


 ショウに売りつけてやった。

 ショウがさっそく女の子に芸を披露する。


「棒があるよね。これを鉢に入れて引くとあら不思議。花が咲きました」

「何よ。パイプになっているんじゃない。花の根元の金属が不思議ね。鉄にくっ付く物質なのね。あなたが考えたの?」

「いや友達の芸人」

「なんーだ。2番煎じじゃないの。じゃあね」


 女の子が去って行く。


「くそう。何でだ」


 悔しそうなショウ。

 魔法学園の女生徒は理系が多いのか。

 考えたら理系に女子は少ない。

 だからちやほやされる。

 魔法学園も女子の比率は少ない。


「なあ、女の子を紹介してくれよ」

「逆玉を狙わないで無難に平民の女の子を狙えよ」

「貴族だからって狙ってくる平民の女の子は怖い」

「そこはそれ、気立ての良い優しい子を狙うんだ」

「そういう子は顔が残念だ」

「そんなことを言っているうちは駄目だな」


「なっ、お試しで紹介しろよ。大商会の跡取り娘で美人なのがいたりするだろ」

「そんな女の子は知らん。知ってても無理だな。ショウを紹介するとその商会が傾く」

「酷いな。これでも魔法学園に入れたんだ。エリート様だぜ」

「はいはい、4年も浪人してたんだったな」

「それを言われるとちょっとな」

「いいか。男は腕っぷしだ。この腕っぷしというのは財力や武力だ」

「そんなのあるわけないだろ」


 愛だの何だかんだ言うが、結局は金の部分も多い。

 そう考えると貧乏貴族は厳しいな。

 文官か武官にでもなって出世すれば別だが。

 5年も留年してる奴にそれは厳しいか。


 頑張れよ。

 きっと何とかなるさ。

 スキル貸与はしてやらない。

 分を超えた力は身を滅ぼす要因だからな。


 生暖かく見守ってやろう。

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