第65話 お客様

「ピンポンパンポン。プリュネオムさん、お客様が正面玄関にお見えです」

「お客様だってよ」


 ショウに脇腹を突かれた。


「知ってるよ。俺にも耳はある」


 俺は席を立って、正面玄関に向かって歩いた。

 なぜかショウもついて来る。

 こいつのことだから、授業をさぼる口実が欲しかったのだろう。


 カードを入れて玄関のロックを解除する。

 そこには、リリム達が勢ぞろいしてた。


 ピューとショウが口笛を鳴らす。

 好み的にストライクだったらしい。

 リリムの顔立ちは確かに整っている。

 だが、リリムに悪い虫は付けさせん。


「ショウ駄目だ。リリムは伯爵の跡取り娘だ。お前とじゃ釣り合わん」

「この中の誰でもいいけど」


「だそうだ。メッサ、シャランラ、アルチにプリシラ」

「いかにもダメ男。こんな人はお呼びじゃないわ」

「あなたの魔法スキルは何?」

「火魔法です」

「私の十八番の植物魔法の天敵ね。ごめんなさい、タイプじゃないわ」


「魔石を持ってなさそうだからパス」

「背中を預けることができる人でないと」


「だそうだ」

「くっ、だがプリュネは何でこの人達と知り合いなんだ」


 ちょっと不味いな。

 本当のことを言うわけにはいかない。


「一緒に旅をした仲間だ」

「いいなあ、俺も魔法学園を休学して旅に出ようかな。旅先でのロマンス。うん、いけるぜ」


「ところで、リリム、何の用だ?」

「ボッタクリー商会が方位磁針の追加だって。今度は1個、銀貨3枚出すと言ってる」

「いくら、極小細工スキルがあるからといって、もう作るのは嫌」


「アルチがそう言っているが何個の追加だ」

「2万個」


「えっと、2万個で銀貨3枚。き、金貨600枚じゃないか。今度奢れ。そして可愛い子のいる店に行こうぜ」

「ショウ、お断りだ。アルチ、設計図を書いて鍛冶屋に発注しろ」

「そんなことを言うならお前とは絶交だ。なんでお前が財力から女の子まで持っている」


 ショウの絶交は別に痛くない。

 でもこいつなりに役に立つかも知れない。


「よし、進級試験があるよな。それで進級を確定したら。女の子を紹介してやろう」

「ほんとだな。最愛の友よ」

「気持ち悪い。くっ付くな」


「魔法学園を案内してくれない」


 プリシラがそう言ってきた。


「その役目俺がやるぜ」


 ショウが案内を買って出た。


「じゃあ任せた。言っとくがお触りとか禁止だぞ。お前のことを思って言ってる。彼女らはAランクの実力者だ」

「分かっているぜ」


 何となく不安だが、まあ良いだろう。

 セクハラして、片手を切り落とされるほど馬鹿じゃないはず。


 しかし、方位磁針が何でそんなに売れる。

 これは調べてみる必要があるな。

 ピエロの化粧を落として、ボッタクリーの前に行くと人だかりが。

 見ると方位磁針と地図がセットで売られている。


 あの会頭は転んでもただでは起きない奴だな。

 方位磁針に付加価値を付けたか。

 地図を見ると地図に方角が描いてある。

 今までの地図はこれが描いてなかったらしい。


 これを発展させるなら。

 三角法で測量が出来る。

 鷹目スキルで遠くまで見えるからな。


 方位磁針で角度が分かれば、測量が出来る。

 足で歩いて測量してる今よりずっと楽に違いない。

 三角関数の表が要るな。

 そんなの暗記してない。


 生贄スキルでゲットできないか。

 やってみるか。


 俺は街から出ると、モンスターを捕まえて縛り上げた。


「【生贄】」


『何を望む』

「三角関数の表」

『よかろう』


 三角関数の表をゲットした。

 これはかなり大金になるな。

 三角関数の使い方と合わせて本にすればベストセラー間違いなし。


 学園に戻り、授業を聞くふりして執筆した。

 ショウが案内から戻ってきた。


「トラブルはなかったか」

「ああ、プリシラさんが行方不明になったこと以外には。彼女はきっと方向音痴に違いないぜ」


 どこかに忍び込んだな。


「プリシラは戻ってきたのか?」

「ああ、しばらくしてひよっこり。ところで何難しそうな論文を書いているんだ」

「三角関数だよ。面積とかの計算に用いる」

「なぜそんなこと知ってる。お前、どこかの貴族の生まれか?」

「いや平民だが。投げた時に一番遠くに届く角度って知ってるか」

「知らないよ」

「そういうのが分かるようになる学問だ。ジャグリングに役立つ」

「へぇ、一流の芸人は凄いな。論文も書けるのか」

「まあな」


 三角関数の本なんか書いちまったが、これで俺がますます謎の人物になるに違いない。

 トリックスターの面目躍如だ。

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