第63話 売り込み
「うちのリリムが世話になった。新製品を持ってきたんだが、会頭に取り次いでくれ」
「ピエロ風情がなんのようだ」
「これでも商業ギルド員なんだがな」
俺は商業ギルドのカードを見せた。
「お前みたいな奴がどうやって、俺なんか子供の頃から働いて貯めているのに、最低ランクになれないんだぞ」
「いいか教えてやる。一芸に秀でていれば、努力なんか関係ないんだ。ここに瓶があって銅貨が入ってる。お前は瓶から銅貨を取り出さずに銅貨を切れるか」
「そんなことできるわけないだろ」
「見てろよ。はっ」
次元斬で銅貨が両断された。
「何か種があるんだ」
「まあそうだな。アイデアっていうのは時に大金を生む。お前がギルド会員になれないのはアイデアがないからだ」
「屈辱だ。ピエロごときに商売を教わるなんて」
「ついて来なさい」
眼光鋭い老人が現れ言った。
こいつが会頭らしい。
応接室に通された。
高級そうなお茶が出される。
俺はお茶を口に含み飲み込んでから、話を始めた。
「方角を示す魔道具か。画期的だな。いくらで卸してくれる」
「値段なんかさっぱりだ。俺はピエロだからな」
「よかろう。限の良い所で銀貨1枚でどうだ」
「うははは」
「何がおかしい」
「前に売った遠隔操作の魔道具は、念話スキルがあれば作れる。だが、これはどうやって作った言ってみろ」
「指針剣、辺りだろう。珍しいスキルだが、持っている奴はいる」
「指針剣だとすると加工代と魔石代で銀貨1枚は安いよな」
「ふん、なら他所に持って行けば良いだろう」
「くそっ、足元を見やがって。銀貨1枚で良いのか」
「ああ、構わない」
俺は悔しそうなふりして、契約書にサインした。
「ふはは」
「何が可笑しい」
「この方位磁針はな、鉄にあるスキルで刺激を与えるとできる。魔道具じゃないんだよ」
「騙したのか」
「いや契約書には方位磁針となっている。他所の商会に半値で卸そうかな。お前の所は10000個買ってくれる契約書だ。不良在庫になるな」
「くっ、こいつを殺してしまえ」
隠れていた護衛が出て来た。
俺は攻撃をわざと受けた。
そして叩きのめす。
「金を用意しとけよ」
「わしの負けだ。銀貨2枚で方位磁針を買うから、他所の商会には卸さないでくれ」
「前の取引も見直してもらおう」
「分かった」
「これで契約の件は水に流そう。じゃまたな」
俺は契約を書き換えて、外に出た。
「【賠償】」
護衛からスキルを商会からは賠償金を取る。
襲われた分はきっちり返してもらった。
新たに加わったスキルは身体強化×4、斬撃、毒魔法、拘束魔法。
毒魔法は二つ目だが、使い勝手の良いスキルなので幾つあっても構わない。
ちなみに毒魔法は禁忌スキルではない。
虫を殺したりに使うからだ。
便利なので、教会も禁止できない。
アルチがやる気なさげにゴザを広げて手品のタネを売っている。
「どうだ売れたか?」
「ぼちぼちね」
「アルチも手品のタネをどこかに売り込んでみるか。そうすれば露店しなくても大金持ちだぞ」
「ケツの毛をむしられるのが目に見えているからね。遠慮しとく」
「おお、手品のタネか。ひとつ見せてくれ」
客が来た。
「これなんかどう」
「カードか」
「これ、裏の模様をよく見て、違うのが分かる?」
極小細工スキルの賜物のカードだ。
「本当だ。これでカードが分かってしまうのか。いくらだ」
「金貨2枚」
「高いな」
「手作りだから。忠告しておくけど、賭博には使わない事ね」
「見破られるとあの世行きか」
「だから大道芸」
「うーん、大道芸じゃ金貨2枚は稼げそうにないな」
そう言って客は去った。
「俺も金貨2枚は高いと思う」
「じゃあ、裏の柄を書く私の苦労が安くなっても良いの」
「極小細工スキルがあるんだから、判子を作れよ」
「そうすれば大量に安く作れる。じゅるり」
「大金持ちにはなれないけどな。すぐにタネのことが、出回って誰も騙されなくなる」
「これだから商売は」
手品のタネは商売の旨味がない。
判子を作るなら活字だな。
これなら大儲けできる。
それぐらい本は高い。
もっとも手書きだから仕方ない。
この世界に印刷革命を起こしたいわけでもないから、どうでも良いか。
そうだ。
「アルチ、斬撃スキルがある。箱に書類を入れると細かく刻まれるって魔道具は作れるか」
「うん、作れる」
シュレッダーは商業ギルドに卸そう。
大儲けは出来ないが、そこそこ儲かるはずだ。
「斬撃の箱、題してシュレッダーを作るぞ」
「ええー、そんな魔道具流行らないって。だって燃やせばいいじゃん」
それもそうか。
暖炉とかある家が多いもんな。
そうなるか。
俺も商売は向いてないかも知れない。
賠償スキルが無ければ値段交渉もままならない。
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