第6章 涙味のポーション
第16話 血に塗れた秘伝
Side:ナレーション
滅ぼし殺して、復讐遂げます、滅殺復讐ギルド。
銅貨6枚の依頼で地獄が開く。
金貨6枚が地獄への渡し賃。
さて今日はどいつを地獄に渡そうか。
Side:ウメオ
「プフラ、あなた仮にも錬金術師の端くれでしょう。ポーションの品評会があります。これに応募しなさい」
ゴルダがチラシを突き出した。
「えっ、俺って錬金術師だったの」
いや、ええと。
豆を腐らせて魅惑の調味料を作る。
うん、錬金術師かも。
でもポーションは作ったことがないな。
調剤とか調合とか抽出とか、それに相応しいスキルがあるだろう。
俺のは賠償だよ。
どうやってこれでポーション作るのさ。
「ほら、ぼやぼやしない。品評会で名を上げて出世を掴むのです」
「行ってらっしゃいませ」
マリーに送られて、下宿を出る。
ポーションなんて作れるかぁと怒鳴って拒否したら良いのは分かっている。
でもね。
心の穴がこういうことをしていると少し埋まるような気がするんだ。
勇者への復讐はそれだけパワーが要って、終わったら虚無感を作り出した。
その心の穴に隙間風が吹く。
滅殺復讐ギルドでもそれが埋まるが、こういうことでも埋まる。
さあて、暇つぶしといこうか。
どうせ神なんだから寿命などない。
神特有の虚無感とは今は無縁だが、そのうちそういうものに支配されたりするんだろうな。
薬師ギルドは表通りの一等地に建っていた、冒険者ギルドと商業ギルドより劣るが、他の零細ギルドとは一線を画す。
三大ギルドなら確実に入るだろう。
フラスコと試験管と薬草の紋章の看板。
中に入ると、冒険者ギルドと造りは変わらない。
カウンターがあって、掲示板がある、それと買取場。
冒険者ギルドにある酒場はないな。
それと中にいる人間の9割がエプロンをしてる。
薬師やポーション職人なんだろうな。
「品評会に出たい。ポーションは初めて作るので教本なんかあったら売ってくれ」
「はい、銀貨3枚になります」
ペラペラと教本をめくる各種ポーションの作り方が載っている。
ええと茹でて漉すというのが多いな。
問題は茹でる温度と時間、それに分量だ。
料理の作り方とさほど変わらない。
だが、機材が要る。
秤、時計、温度計、漉すための機械。
遠心分離機。
初期投資が半端ないぞ。
いくら金をつぎ込んだら揃うのか分からない。
「何やら困りごとですか」
俺に話し掛けてきた奴がいる。
エプロンを身に着けて、青臭い匂いをさせているからきっとポーション職人だな。
「ああ、少しアイデアはあるが、機材と腕がない。どうしたものかなと」
「機材お貸ししましょうか。僕はポーション職人のヤクシン」
「俺は醤油屋のプフラだ。まあ、錬金術師だと思って貰ったらいい。なんでそんなに親切なんだ」
「困った人をみると放って置けないんですよ。ポーション職人も目指したのも病気や怪我で困っている人を助けたい一心からです」
「立派だな」
「そんなでもありません。ぶっちゃけると動機はそうなんですが、金とアイデアがなくて。工房の機材を貸してアルバイトですよ」
「じゃあ、俺のアイデアをお前が形にしてみるか」
「へぇ、共同制作はしたことがありません。信用して頂けるのならやりましょう」
「信用してるさ。お前、良い奴だからな」
ヤクシンの工房は裏通りのひっそりとした場所にあった。
匂いが独特だからな。
家が密集するような地域には工房を作れない。
「ええと、俺のアイデアは。薬草の煮汁に紙の端を付けて吸わせる」
「とどうなるんですか」
「紙が液体を吸い上げるわけだが、場所によって成分の違いが出る。あとはハサミで切って、また煮るとかすれば良い」
「独特な抽出方法ですね。聞いたことがありません」
現代知識舐めるなよとばかりにネタを使ってみた。
アイデアだけ提供してヤクシンに後を任せた。
品評会の日になった。
ヤクシン、プフラ作のポーションは賞を貰えてないばかりか、入選もしてない。
「おかしいですよ」
「ヤクシン、何が?」
俺はこんなものかと思ったが。
だって素人のアイデアだぜ。
「薬効だって、一級品。いいえ、特級品です。入選すらしてないなんておかしい。きっと不正があったんだ」
俺はマリー達に、やってますよアピールだけで良かった。
「まあ気にするな。次があるさ。俺はもうやらないけど、紙を使った抽出はお前の秘伝にでもしろよ」
「ありがとう。頑張るよ」
「じゃあ、またな」
そう気軽に挨拶をしてヤクシンと別れた。
数日後。
醤油蔵のテーブルの上にロウソクが立てられた。
依頼票のひとつに知った名前を見つけた。
ヤクシンだ。
ポーション品評会は不正の温床です、悪人たちを成敗して下さいとある。
証拠もないし、殺す相手も不明だ。
「気になるの?」
女領主が俺が手に取った依頼票を覗き見る。
「いやいい」
俺は依頼票を束に戻した。
Side:ヤクシン
品評会は絶対におかしい。
僕は品評会から返されたポーションを舐めてみた。
えっ、普通のポーションだ。
いや、三流品だ。
こんなポーションを僕が作ったとは思えない。
すり替えられた。
どこで?
懐を改めると、注文書が無くなっているのに気づいた。
今朝持って出たのに、そしていまこの薬師ギルドで出そうと思った。
掏られた。
そうに違いない。
でも財布は無事だ。
おかしい。
注文書を掏ってなんの意味が。
僕の頭の中に仮説が出来た。
品評会に出すはずだったポーションは提出の途中で掏られて、入れ替わった。
その相手はたぶん品評会で賞を取ったのだろう。
だが、作れなきゃ意味がない。
それで今度はレシピを狙った。
賞を取った人の中に怪しい奴を見つけた。
兄弟子のフセイードだ。
フセイードの腕は良く知っている。
最優秀賞を取れるなんて絶対にない。
そう言えば、師匠の家で新しいポーションを作っていると言った。
フセイードも聞いていたはず。
僕は頭にきて、フセイードの工房に押し掛けた。
「フセイード、僕のポーションを盗ったな」
その場にはフセイードの他に2人いる。
1人は知った顔だ。
薬師ギルドの幹部職員のオーショクさん。
「なんのことかな」
「惚けるのか」
「ふふふ、カモネギとはこういうことを言うんだろうな」
意味の分からないことを言うフセイード。
「はははっ、新ポーションを使って荒稼ぎしないとな」
オーショクさんまで、どうしたんだ。
「オーショクさん、新ポーションはフセイードには作れない」
「知ってるよ。その相談をしてたんだ」
「お前らグルか」
「気づくのが遅い」
僕は3人に捕まり縄で縛られた。
「さて、レシピを喋ってもらうぞ」
フセイードがそう言って釘やら針を出して来た。
そして爪の間に針が刺し込まれた。
「ぐおぉぉぉ、ぐふぅぅぅ」
レシピは渡さん。
レシピは書いてない。
僕の頭の中だけにある。
僕は舌を噛んだ。
魂が抜けて漂う。
「こいつ死にやがった」
「まあ最優秀賞の賞金だけでよしとしますか」
「あっしは掏りの仕事のお代は頂いたので文句はありませんぜ」
くそう、やっぱりこいつらが。
誰か恨みを晴らしてくれ。
空に暖かい物を感じる。
あそこに行くんだろうな。
だがまだ行けない。
プフラ、レシピは君に託す。
だから復讐を。
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