第15話 幸せって何?

Side:ウメオ


 3人道に横に並んで、夜の街を行く。

 イイヤッツの家に辿り着いた。

 3人で頷く。

 扉を蹴破った。


 異変を察したゴッツが廊下に飛び出てきた。

 リリムが剣を抜きゴッツに斬り掛かる。

 ゴッツはメリケンサックでそれを弾いた。

 そして、リリムの蹴りがゴッツを部屋の中に押し戻した。


「騒がしいな」


 パワハラスがローブを纏った姿で出てきた。

 俺は鉄の櫂棒を振りかぶった。


「【身体強化】。くそっ、なんで発動しない」

「お前がくそだからだよ。死んでもらう。所詮この世はうたかたの夢。せいやっ」

「ぐがっ」


 パワハラスは額をかち割られて死んだ。


Side:リリム


 ゴッツはスキルが無くてもなかなかやる。

 メリケンサックで私の剣をパリィするなんてね。

 スキルを使っての攻撃は不味い。

 パリィされたら隙が出来る。


「どこの手の者だ? 誰の恨みだ?」

「イイヤッツの恨みよ。一騎打ち所望つかまつる」

「そうか。あいつと同じ目に遭わせてやる」


 くっ、迂闊に動けない。

 レベル1なのにこの威圧感はなに。

 たぶんこの男はレベルとかスキルとかに頼らないでやってきたのね。


「【鋭刃】」


 鋭刃なら切れ味が上がるだけだから、攻撃しても隙にはならない。

 仕方ない。

 待つのはいや。


 私は連撃を繰り出した。

 ゴッツがパリィする。

 パリィするたびに火花が散った。


 強い。

 私でなければ連撃が途切れたでしょうね。

 私は連撃の回転数を上げた。

 レベルが35もあれば100連撃ぐらい可能よ。


 火花で視界が悪くなった。

 チャンスかも。

 私は渾身の力で突き入れた。


「ぐはっ」


 ゴッツの体に剣が突き刺さった。


「格闘の才能を人を守るために使ったらまた違ったのかもね。無実の人を殺すから、メリケンサックの火花に裏切られるのよ。とどめよ。【斬撃】」


「ぐはぁ」


 強敵だった。

 2人は上手くやったかしら。

 廊下に出るとウメオが鉄の櫂棒に寄りかかってた。

 そして、シャランラが部屋から出てきた。


Side:シャランラ


「あなた誰?」


 ウワキローナは寝台から物憂げに体を起こして尋ねた。


「死の織り手」

「イイヤッツの知り合い?」

「まあね」

「あんな男のことなんかどうでも良いでしょ。ねっ、お金なら払うから」


「悪いわね。蜘蛛ちゃんお願い」


 蜘蛛から糸が出てウワキローナの首に絡みついた。


「ぐぐぅ」

「次は宿り木にでも生まれ変わるのね。そうしたら首を絞められても平気かも知れない。糸を絡めて、運命の糸を切る」

「ぐぐぅ」


 ウワキローナの声は小さくなっていく。

 やがて抵抗が止まった。

 近寄って、脈をとる。

 止まってる。


「イイヤッツさん仇は討ったわ。安らかな眠りを」


 さあ、帰りましょ。


Side:ウメオ


 イイヤッツとは短い付き合いだったが、初めて教室に入って戸惑っている俺を手招きしてくれた。

 これだけで良い奴だと分かる。

 俺ぐらいはあいつのことを覚えておいても良いだろう。

 さて、復讐者の園でどうしているかな。


 経験値を代償に覗く。


「しにが、はち、しざん、じゅうに、しむ、にじゅうし。わはは、不吉な掛け算だなあ。まあここではみんな死んでるけどね」


 あまり楽しそうではないな。


「ああ、一日中眠っていても怒られない幸せ」


 そう言ってイイヤッツは花畑に寝転んで眠り始めた。

 まあ、それなりに幸せそうだからいいか。

 仕事から解放されただけでも幸せなんだろう。

 分かるよ。

 俺も日本ではブラック企業だったから。

 もう連休なんかあると一日中寝てたもんな。

 寝すぎると頭が痛くなるんだぞ。

 初めてなったときはショックだった。

 眠ってたのにダメージ受けるんだとな。


 さあ帰るか。


「プフラ、あなた役人塾はどうしたの」


 マリーが問い詰めてきた。


「卒業したよ」

「嘘おっしゃい。そんなはずはありません。エキスパートクラスですよ」

「お母様、ここは話を聞いてみましょう」

「これ免許皆伝」


「確かに卒業証書。偽物ではないでしょうね」

「たしかに怪しい」

「いやだな。そんなことしませんよ」

「むっ、そのポケットのふくらみは何です? 出しなさい」

「怪しい」


「財布ですよ。臨時収入があったので」

「ほら、見なさい。授業料を返還してもらったのでしょう」

「金貨が2枚も入ってますよ。お母様、ここはこの金貨に免じて許してあげましょう」

「ええ、服でも仕立てましょうか」

「俺にもか?」


「可哀想ですから一着作って差し上げます」

「きっと男前が上がりますよ」

「小ざっぱりした綺麗な洋服を着て、出世して下さいませ」

「そうですね。期待してますわ」


 うん、醤油はいつになったらできるんだ。

 麹カビに行き当たらないんだよな。

 どこに行ったら出会えるんだ。


 納豆でも作ろうか。

 あれは簡単だ。

 茹でた大豆を麦藁に入れときゃできる。

 たぶんこの二人は狂人を見る目で見るんだろうな。


 現実逃避しても仕方ない。

 服を1着作って貰えるだけで感謝しないとな。


 やばい洗脳されている。

 元は俺の金だ。

 俺の金をどう使おうが俺の勝手だ。

 言えたらどんなに良いだろう。

 まあ良いか。


Side:ナレーション


 滅殺復讐ギルドは、公式にはギルドとして認められていない。

 だが、王国史を紐解くとその名前がちらほらと出てくるのは、歴史に携わる者なら誰で知っている真実。

 すぐに消えて行く非合法ギルドとしては長い歴史を誇るのは、それだけ復讐への声が大きいということを表しているのだろう。

 噂では復讐神が元締めをしているというが、真実は闇の中。

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