第17話 コオロギの哀歌
ヤクシンが死んだ。
ヤクシンは相続人に俺を指定してたらしい。
こういう予感があったのかな。
遺体を運んできた守備兵は自殺と言っていた。
兄弟子の工房で舌を噛んだらしい。
品評会の結果が悔しかったんだろうと。
そんなわけあるか。
爪の間の刺した痕はなんだ。
拷問したんだな。
醤油蔵のテーブルにロウソクが立てられた。
「依頼人は、ヤクシン。相手は兄弟子のフセイード一味」
俺は金貨6枚をテーブルの上に置いた。
これはヤクシンの工房の機材を売って作った金だ。
「どういう構図か分かったら受けるわ」
「私も殺す相手が分かった時に」
「調べて来るよ」
そう言って俺は金貨2枚を手に取って、ロウソクを吹き消した。
分かっている相手はフセイード。
ヤクシンは不正の構図を書いていた。
掏りがいて、ポーションをすり替えられたと。
掏りの特定だな。
フセイードの工房を見張る。
キョロキョロと辺りを見てから工房に入る男。
怪しいな。
俺はその男の人相書きを描いた。
守備兵の詰め所は門の近くにあって、中に守備兵がたむろしてた。
ヤクシンの遺体を運んできた守備兵を見つけた。
「この間はどうも」
「おお、痛ましいことだな。何か?」
「いえね。爪の間に刺し傷があって」
「大きな声では言えないが、薬師ギルドのオーショクさんが、自殺だと言い張ってね。医者の免許ももっているし、守備兵の上の方とも面識があって圧力が掛かった。まあ、命が惜しければ黙っていることだ」
「ええ、仕方ないですね。この男を探しているんですが」
人相書きを出した。
「そいつは掏りのヌキトリーだな。現場を押さえて逮捕してないが、掏りだともっぱらの噂だ。腕が良いんだろうな。悔しいことだ」
これで殺しの相手が分かった。
「そうですか」
「掏られたのか?」
「ええまあ」
命を掏られた。
だが、奪い返す。
「諦めるんだな。現場を押さえればまあ違うが」
「ヌキトリーの良くいる場所を教えてくれますか?」
「いいぞ。この通りによく出没する」
地図を指差された。
フセイードは大抵、工房にいる。
張り込みの時にそれを知った。
問題はオーショクだな。
こいつは夜は家だ。
当然家族もいる。
家族まで殺すのは何か違う。
おびき出す手筈がいるな。
まあ何か考えよう。
ヤクシンの棺桶に手を置いた。
「賠償スキルを使わせてやる」
『ありがとう。【賠償】』
――――――――――――――――――――――――
名前:ヤクシン
レベル:15
魔力:1971/1971
スキル:
抽出
身体強化
弁舌
複写
奪取
――――――――――――――――――――――――
ヤクシンのステータスが頭に浮かぶ。
どれが誰のスキルかは分からないが、しけてるな。
これだと賠償前と後で戦闘力はほとんど変わりない。
まあいいか。
金貨の小山が出来た。
やつら金儲けは大したものだったな。
この金はヤクシンの名前を広めるために使ってやる。
「レベルと経験値貰うぞ」
『復讐して下さい』
「まあ天国で見てな。必ず殺してやるよ。ステータスオープン」
――――――――――――――――――――――――
名前:ウメオ・カネダ
レベル:15
魔力:0/0
スキル:
賠償
――――――――――――――――――――――――
棺の中のヤクシンの遺体は塵になっていった。
醤油蔵のテーブルの上にロウソクが立てられた。
「揃ったな」
「ターゲットはフセイード、オーショク、ヌキトリー」
プリシラがそう告げた。
「構図は分かったの?」
「品評会に出すポーションをヤクシンが運ぶ最中にヌキトリーがすり替えた。そしてフセイードが、そのポーションを品評会に出した。オーショクは不正の声が上がった時に黙らせる役目だ。殺しの現場にはこの3人がいたと思われる」
「オーショクは許せないわね。汚職するお偉いさんは死ねば良い」
女領主が金貨2枚を手に取った。
「女領主はオーショクか」
「私はヌキトリーを」
そう言って機織りが金貨2枚を手に取った。
「これで決まりだな」
頷きあってからロウソクの炎を吹き消した。
醤油蔵から出るとコオロギがコロコロコロと物悲しい鳴き声を奏でていた。
俺達が近寄ると鳴き声が一斉に止まって、辺りは俺達の足音だけになった。
風が頬を撫でた。
一雨くるかもな。
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