第18話 天国の薬

Side:リリム


 晩餐にオーショクを招待した。


「私の領地はまだ未開拓。珍しい薬草もあるでしょうし。ポーションの数も足りてない」

「なるほど」

「これはお近づきの印」


 クッキーの箱を押して前に出した。

 給仕のメイドがその箱をオーショクの所に運ぶ。

 オーショクは蓋に手をやって中を覗き見た。

 クッキーの下にある金貨が見えたのね。

 ニンマリと笑った。


「これは結構な物を」

「帰り道が心配でしょう。私が送って差し上げます」

「領主様がですか」

「これでも前の戦いで名を馳せたのですけどね」

「それは存じてますよ」


 晩餐は終り。

 オーショクと館を出た。


 人気のない通りに出る。

 私は剣を抜いた。

 シャリンと音がしてオーショクが振り返る。


「ヤクシンの恨みよ。一騎打ち所望つかまつる」

「くそっ、誰か!」

「【鋭刃】【斬撃】」

「ぐはぁ」


 オーショクが手に持ったクッキーの箱を落とす。

 金貨が当たりに散らばり、血が金貨を飾り付けた。


「金貨は盾になってくれなかったわね。汚い金だから、金に裏切られるのよ」


 物音を聞いて人がくる。


「物取りが出ました」

「それは大変だ」

「どんな人相の奴です」


 当目としてヌキトリーの人相を告げる。

 守備兵が来たので、架空の襲撃を話す。


「なるほど、オーショクさんがあなたの金貨を運んでいたと」

「ええ、薬師ギルドに入金する予定のね」

「何も夜に運ばなくても」

「ちょっと不用心だったのは認めるわ」

「領主様に怪我がなくて何よりです」


 さあ、シャランラ、ウメオ、後の2人も地獄に送ってあげて。


Side:シャランラ


 ヌキトリーはすぐに見つかった。

 通りでカモを探している。


 私は路地で待ち構えた。

 今よ。


「蜘蛛ちゃんお願い」


 ヌキトリーの体に蜘蛛糸が何本も絡みついた。

 だが、細い蜘蛛糸は見えない。

 私は蜘蛛糸を引いた。


 ヌキトリーが引きずられ、路地に入った。


「お前?」

「死の織り手。蜘蛛ちゃんお願い」


 ヌキトリーの首に糸が巻き付く。

 私はそれを引っ張った。


「ぐぐぅ」

「次は蛇にでも生まれ変わるのね。そうしたら首がどこだか分からない。助かったかもね。糸を絡めて、運命の糸を切る」

「ぐぐぅ」


「あら、あなた。こんなところで酔って。風邪ひくわよ」


 そう言ってヌキトリーの脈を取る。

 脈がないのを確認。

 寝かせてあげた。


 酒瓶を傍らに置くのも忘れない。

 へぼな守備兵だと病死扱いになるでしょうね。

 首を絞めたと分かっても支障はないけど。

 さあ帰りましょう。


Side:ウメオ


 フセイードの工房の扉をゆっくり開ける。

 工房でフセイードがポーションを前に首を捻ってた。


「なんで、ヤクシンのポーションが再現できない。どんな作り方で作ったんだ。くそっ、もっと慎重に拷問すべきだった」

「お前には作れないよ」

「誰だ?」

「滅殺復讐ギルド」


「くそっ【身体強化】。なぜだ。なぜ発動しない」

「賠償で取られたんだよ。奪えば奪い返される」

「くそっ」

「死んでもらう。所詮この世はうたかたの夢。せいやっ」

「ぐわっ」


 フセイードが倒れ、瓶やフラスコを倒し、ガラスの壊れる音が工房に響いた


 さて帰るか。

 雨が降り出した。

 まあいい。

 濡れるのも一興だ。


 復讐者の園でヤクシンはどうしているかな。

 経験値を代償に様子を覗く。


「ここの植物は凄い。これでポーションを作って地上に持って帰れたらな。【抽出】。ポーション瓶をくれ」


 スケルトンが頭蓋骨の一部を差し出す。

 作ったポーションは頭蓋骨に受け止められた。


「そこのゾンビ君。飲んでみなよ」

「うー」


 ゾンビがポーションを飲むとゾンビの肌つやが良くなった。


「うん、美肌に効果ありだね。地上で作れたら大儲けなのに」


 うん、幸せみたいだな。


「プフラ、ポーションの品評会は残念だったですわね」

「出したんだけどね」

「一緒に出された方は秘伝を残したのでしょう」

「ヤクシンの奴ね」


 ヤクシンが取った賠償金は紙を使った抽出方法と共に基金の物とした。


「やはり亡くならないと名を残せないのでしょうか」

「マリー、生きていればこそです。役人で有名になった方はみんな生きている間ですよ」

「ですよね、お母様。プフラ、錬金術などおやめなさい」


「あれは生き甲斐なんだから。そうそう、納豆作ったんだ」


「何ですこの臭いは」

「お母様、嗅いだことのない腐臭がします。雑巾のような臭いとも言えばいいかも」

「納豆だよ。美味いんだぞ」


「プフラ、騙そうたってそうはいきません」


 俺は納豆をかき混ぜた。

 醤油がないので魚醤と練りからしを入れる。

 そして食べた。


「お母様、悪食ですわ」

「豆を腐らせて食べるなんて、冒涜です。禁忌です。その忌まわしい物を二度と食卓に出さないで下さい」

「ええっ、美味しいのに。醤油と生卵があればな」

「生卵ですって、腹を壊しますよ」


 知ってる。

 日本以外の国では生卵をほとんど食べてない。

 でも美味い物は美味いんだよ。

 だが、異世界で納豆は売れなそうだ。


Side:ナレーション


 滅殺復讐ギルドは、公式にはギルドとして認められていない。

 だが、王国史を紐解くとその名前がちらほらと出てくるのは、歴史に携わる者なら誰で知っている真実。

 すぐに消えて行く非合法ギルドとしては長い歴史を誇るのは、それだけ復讐への声が大きいということを表しているのだろう。

 噂では復讐神が元締めをしているというが、真実は闇の中。

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