第71話 恋人

「俺っ、彼女ができた」


 ショウのやつ青春してるな。

 年齢はもう二十代中盤なのに。


「おめでとうと言わせたいんだな」

「ああ、祝ってくれ」

「じゃあご祝儀に銀貨1枚だ」

「おう、ありがたく貰っておくデートにも金が要るんでな」

「ところでどこで知り合ったんだ?」

「俺がお前に集めた情報を売っているよな」

「ああ、今朝も清算した」

「それで情報を持って来たひとりが彼女だったんだ」

「ふーん」


 何となくきな臭いものを感じるな。

 貧乏男爵の3男の駄目男に寄って来る女なんかいるか。

 いやいないと言ってもいい。

 断言できる。

 その女は吸血鬼事件の犯人サイドのスパイなのか。

 怪しいな。


「疑っているのか」


 彼女が出来たことじゃなくて、スパイかと疑ってる。


「会ってみたいな」

「プリュネなら構わないか。取られる心配はないものな。じゃあ放課後な。眠くて眠くて」


 夜通し街を駆けずり回っていたんじゃ眠いよな。

 お休み。

 彼女がスパイだと分かって破局して眠れなくなるんだろうから、今のうちに幸せな夢を見るといい。


 放課後になり、ショウと街を行く。


「あそこの花屋だ。フラウって言うんだ。花みたいに可愛いんだぜ」

「はいはい」


「あれっ、フラウがいない。おっちゃん、フラウは?」

「無断欠勤してるぜ。休む時はいつも連絡を寄越すのに」


「どうしよう。きっとさらわれたんだ」


 まさかな。

 下水道の入口を全部調べないと。

 ちょっと骨だな。

 暗黒召喚を使うか。

 猛毒ネズミなんかが良いだろう。


 俺は花屋のおっちゃんと話しているショウから離れて、路地に入った。


「【暗黒召喚、猛毒ネズミ】、下水道の蓋の粉が拭き取られてないかチェックしろ」


 猛毒ネズミ達が走り始めた。

 ネズミなら下水道の匂いは分かっている、出入り口の場所を教えなくても問題ない。


「ショウ、きっと大丈夫さ」

「下宿に行こう」

「それがいいな家にいるかも知れないからな」


 フラウの下宿に行って部屋の前に立った。

 声を掛けるが返答がない。

 扉には鍵が掛かってた。


 どうやら、留守のようだ。

 朝の出勤を狙われたのか。

 吸血鬼事件の犯人も見境ないな。


 どうしようかと思ってたら、猛毒ネズミがやってきた。

 ここから少し離れた場所の出入り口に痕跡があるようだ。


「ショウ、こっちだ」

「何で分かるんだ」

「俺は動物に芸をさせるために仕込んでる。色々と便利なんだよ」

「芸達者だな。とにかく助かった」

「まだ彼女の無事が確認されてない。礼はそれからでも良い」


 下水道の入口に到着。

 さてここから入ったとして、どこから出たか。


「どうしたんだ?」

「ここから下水道に入ったらしいが、どこから出たのか分からない」


 プリシラがいればな。

 指針剣でフラウを見つけて貰えるのに。

 プリシラは朝、出掛けたのを確認してる。


「くそう」

「待つしかないな」


 猛毒ネズミを待つ。

 そして猛毒ネズミが帰ってきた。

 よくやった。

 使った出口は倉庫が立ち並ぶ一角だった。


「ショウ、フラウの身の回りの物を何か持ってないか」

「それなら」


 ショウがハンカチを出して来た。


「何でハンカチ?」

「貴婦人に愛の証にハンカチを貰うんだ。恋愛小説に書いてあった」

「そうか。さあこれを嗅いで辿れ」


 猛毒ネズミの先導である倉庫に到着した。

 倉庫の屋根が落ちているところから、今は使われてない物だと思われる。

 入口の扉を蹴り破る。


 女の子が縛られていた。

 犯人はいないようだ。


「フラウ、大丈夫か」

「ショウ、助けに来てくれたの」


 フラウのスパイの線が消えたのか。

 いいや被害者を装うってのもよくある手だ。


「ショウ、重要な情報をありがとな。金貨1枚やるから、彼女と美味い物でも食いにいけよ」

「ああ、フラウ行こう。お腹減っただろう」

「ちょっと、情報料ってこのピエロから出てるわけ」

「何怒っているんだよ。まあそうだけど」

「じゃあ、何人もの人にお金をばら撒いていた元のお金は全部ピエロから」

「それが何?」

「話が違う。あなた裕福な伯爵家の跡取りで、吸血鬼事件の被害者に知り合いがいて、仇を討つとか言ってたでしょ。なんでピエロがお金を出しているのよ」


「ショウ、嘘はいけないな。お前、貧乏男爵の3男だろう」

「ちょっと待って。フラウ、違うんだ」

「何が違うの。見損なった。あなたとは恋人でも何でもないわ。これは手切れ金として貰っておくから」


 フラウはショウから金貨をひったくると、大股に倉庫を出て行った。

 フラウのスパイ説は消えたな。

 ショウ、ドンマイ。

 彼女ならまた出来るさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る