第70話 蓋の細工

 ゴーストのいくつかが消された。

 くそっ、そこまで間抜けじゃなかったようだ。


 相手が魔法か特殊なスキルを使うのはこれではっきりした。

 ゴーストに単純な物理攻撃は効かないからな。


 吸血鬼が浄化や光魔法を使うというのは考えられない。

 火魔法辺りだとあり得るが。

 とにかくほんの少し犯人像が絞れた。


 暗黒召喚で使い魔を放てるが、結果はゴーストと変わりないだろう。

 蓋に細工するのが吉だな。


「アルチ、下水道の蓋を開けたら分かるような魔道具を作れるか。仕掛けがばれないのが良い」

「そんなの魔道具を使う必要もないわ。粉を使うのよ。開ける時触ると粉が拭き取られる。それを調べればいいのよ」


 その粉を塗る作業がめんどくさい。

 よし、アンデッドにやらそう。

 闇に紛れるなら、レッサーヴァンパイアだな。

 敵が吸血鬼なら犯人と鉢合わせしても、人間かは判別がつく。

 邪復活魔法があるから、滅ぼされてもなんらかの情報を持って帰るに違いない。


 面白くもない授業の合間の休み時間、ショウが寄って来てまたとんでもないことを言いだした。


「吸血鬼を捕まえたら、英雄だよな」

「捕まえられたらな。反対に捕まったらどうする?」

「その時は吸血鬼にしてもらう。吸血鬼はもてるって言うし。どっちに転んでも大丈夫」


 大丈夫じゃないがな。

 吸血鬼になれたら俺が使役してやろう。

 だから、俺の邪魔をしない程度に暴れてくれ。

 もしかしたら、何かのきっかけになるかも知れないからな。


「よし、頑張れ」

「おう、それで、戦力が心許ない。リリムさん達の誰かを借りれないかな」

「彼女達は冒険者だから指名依頼でも出せよ」

「それがあったか。じゃあ金を貸してくれ。吸血鬼を逮捕して賞金を貰って10倍にして返す」

「そんなの貸せるか」

「駄目か」


 こいつを上手いこと使う方法を考えよう。


「何もお前がやる必要はないんじゃないか。仲の良い生徒に吸血鬼の情報を持って来たら、金を払うと言ってやれ」

「よし、それなら出来るかも。でも情報が入っても金はない」

「俺が情報を買ってやる。吸血鬼のアジトが分かったら一緒に退治に行こう。リリム達も連れてな」

「おう、それはいいな。約束だぞ」


「よし、行け」


 暗くなったので、レッサーヴァンパイア達に闇魔法を掛ける。

 これで暗闇に紛れるはずだ。

 すべり粉を渡した。

 これは、滑車の軸や馬車の軸が良く滑るようにすり込む粉だ。

 とても肌理が細かい。


 それにしても粉を塗るとはな。

 原始的方法だが効果はある。


 寝静まった夜中、どんどんと家の扉が叩かれた。

 誰だよ。


 開けるとショウがカンテラを持って立ってた。


「ええとプリュネさんはご在宅ですか?」

「俺だよ。あっ、ピエロの化粧してないからか」

「なんだ分からなかったよ」

「で、なんの用だ」

「大発見。動く闇を発見した。きっと吸血鬼の手下だぜ。レッサーヴァンパイアかな」


 何で俺が放ったレッサーヴァンパイアを見つけてしまうかな。

 使えない奴だ。


「ほれ、情報料の銀貨1枚」

「これっぽっち」

「動く闇だなんて言っているけど、風で飛ぶ黒い布とか見間違えたんだろ」

「何となくそんな気がしてきた。ガセネタにも払うのか」

「もちろん」

「そんなことを言ったらみんなガセネタを持って来るぞ」

「良いんだよ」


 俺には賠償スキルがある騙されたら取り返すだけだ。


「じゃあ、パトロールに戻る」

「明日、遅刻するなよ」

「遅刻はしない。授業中に寝るけど起こさないでくれ」

「そんなことしてるとまた留年するぞ」

「退学になっても、魔法学園退学の肩書だけで家庭教師とか出来る。問題ない」


 こいつ、いまを生きているな。

 きっと、未来のことなんかこれっぽっちも不安じゃないんだろうな。


 ショウが帰ってから、レッサーヴァンパイア達が帰ってきた。

 首尾は上々らしい。


 起こされたので、俺は下水道の出入り口のチェックリストを作った。

 あれっ、蓋に塗れなかった箇所がいくつかある。

 警備が厳重で近寄れなかったらしい。


 よし、そこは俺が塗ってやろう。

 ひとつは、魔法学園そば。

 もうひとつは領主の屋敷そば。

 そして守備兵の詰め所そば。


 魔法学園そばは門番の手の届くところだった。


「あれっ」


 俺は本を落とした。

 そして拾うふりして出入り口にすべり粉を振りかける。


 そして、門番に近寄って声を掛けた。


「本を返すのを忘れてしまって」

「中には入れられんな。司書に怒られるんだな」

「そんな」


 しょげたふりして去った。


 領主屋敷のそばも門番の手の届く場所だ。

 酔っぱらったふりして、出入り口にすべり粉を塗る。

 うんこれでいい。

 千鳥足もなかなか面白い。

 ピエロの演技に使えるな。


 守備兵の詰め所もすぐそばに兵士が立っている。

 俺は出入り口のそばで、酔っぱらったふりをした。

 そしてすべり粉を塗る。


 親切な兵士が俺を揺さぶる。


「おい、こんな所で寝たら風邪ひくぞ。それと有り金盗られるぞ。俺達の仕事を増やすなよ。ただでさえ吸血鬼騒ぎで大変なんだ」

「ひっく、すみませんね。だいじょうぶれす。ひとりで帰れます」

「おう、気をつけろよ」

「ご苦労様れす」


 上手くいった。

 酔っ払いの演技も面白い。

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