第47話 ヴァンパイア

 森の様子が変わった。

 薄暗くなって、血の匂いがする。


 空を見上げると、真っ赤な月が。

 とうぜん月は動かない。


 レッサーヴァンパイアが喜びそうな領域だ。

 聖騎士の死骸が多数運び込まれてくる。

 アンデッド達がレベルアップしたのかな。

 グールに様子を聞く。


「ジュルリ、聖騎士はモンスターとの戦闘でやられたみたいです」


 聖騎士の大軍を倒すモンスターか。

 推定BかAランクだろう。


 アンデッドの怪我人も多数運び込まれるようになった。


「何があった?」

「うー、ヴァンパイアです」


 レッサーなしの敵のヴァンパイアか。

 強敵なんだろうな。


「死霊魔法使いが使役してないアンデッドは野良になるのか?」


 プリシラに聞いてみた。


「ええ、野良になるわ。そうするとダンジョンに召喚されたりする」

「多数のアンデッドを従えた死霊魔法使いが死ぬと大惨事だな」

「ええ、死霊魔法使いが嫌われる一因だわ」


 さて、ヴァンパイアはどうだろうな。

 リリム達が死んでなければいいが。


 ヴァンパイアに会いに行く途中リリム達と出会った。


「あれは無理。たぶんSランク。エルダーヴァンパイアだと思う」

「逃げてきたのか。敵わない敵から逃げるのは正常な判断だ」

「戦ってすらいないわ。あれを見た瞬間から震えが止まらない」


 聖騎士の死骸が放置されている場所にきた。

 敵が近いな。


「カーカス、リギッド、先陣を任せる」

「うー」

「うが」


 そして、ヴァンパイアと接敵した。


「つまらん、実に下らない。歯ごたえのある輩はいないのか」


 ヴァンパイアがそう言い放つ。


「やれ」


 リギッドが詰め寄り、渾身の力でパンチ。

 ヴァンパイアをそれをやすやすと受け止めた。

 カーカスが生命力吸収の斬撃を飛ばす。

 それ、効かないだろう。

 案の定ヴァンパイアは攻撃を無視して、リギッドの下腹にパンチを叩き込んだ。

 くの字になってすっ飛ぶリギッド。


 欲しいな。

 そう思ってしまった。


「カーカス、リギッド、下がれ」

「うー」

「うが」


 さてお手並み拝見。


「【次元斬】」

「それは魔王様のスキル」


 ヴァンパイアは次元斬を避けた。


「ほう、魔王と面識があるのか」

「私は魔王様に使役されていた者。魔王様が死んだ日、城から離れるように命令された」


「じゃあ俺は仇だな」

「お前が魔王様を」


「そうだ。御託はいい掛かって来い」

「最後の戦いに出られなかったその悔しさをお前で晴らすとしよう」


 高速戦闘が始まった。

 俺は地力では勝ったが、戦闘経験が足りない。

 戦いはこう着状態になった。


「悪く思うなよ【聖域】【聖刃】」


 聖のスキルてんこ盛り。

 聖域で弱体化されたヴァンパイアは聖刃の一撃を避けられなかった。

 ヴァンパイアの片腕が飛ばされる。


「【聖刃】【聖刃】【聖刃】」


 ヴァンパイアの残った腕と、両足が斬り飛ばされた。


「おのれ、なぜ止めを刺さない」

「悪いな。【死霊魔法、従え】」

「くっ、負けてたまるか」

「しぶといな。【治癒魔法】。治癒の力はダメージだろう」


「くそがぁ」


 どうやら、従えたようだ。


「【邪回復】。名前は?」


 ヴァンパイアを回復させて名前を尋ねた。


「昔の名前は捨てました」

「じゃあリベンジャーを名乗れ」

「はい」


「リベンジャーだけでも一国を落とせそうね」


 呆れた様子のプリシラ。


「まあな。俺のやることを考えたらそれぐらいの戦力が要る」

「一体何と戦うの?」


 リリムから問われた。


「腐った世界とだ。王女と結婚する勇者をただ倒したのでは暗殺者と変わらない。名誉も功績も全て地に落として俺の復讐は終わる。それには国そのもの、いいや勇者を讃えてる世界を変えないと」

「大それた試みね。それを考えると私のお家再興は大したことがないのかも」

「大それた仕事じゃないな。必然だ。たぶん神は俺が魔王を倒してこうなることを知っていたのだろう。勇者をやる前に神が俺を用済みとして捨てるかも知れないが、俺はそんな罠は食い破ってやる」

「自信満々ね。その自信が羨ましい」

「運命を信じているわけじゃないが、そうなるような気がする」


 なぜなら、神は一枚岩じゃない気がするんだ。

 多神教だと大抵神は仲の良いのと悪いのとがいる。

 その関係は人間社会と変わりない。


 俺を助けてくれる神もいるはずだ。

 そんな気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る