第46話 トレント

 草原が森に変わった。

 地図作成スキルではここに敵がいるのだが。

 その時、樹が動いて、蔦の鞭を飛ばして来た。。

 リギッドが腕でからめとり手繰り寄せる。


「トレントよ」


 これがトレントか。

 リギッドは手繰り寄せた樹に抱きつくと、樹を豪快に鯖折りにした。

 樹が真ん中からへし折れる。

 こういう敵にはオーガの巨体は役に立つ。

 先行している他のアンデッド達とリリム達はさぞ苦労しているだろうな。


 リリム達が帰ってきた。


「苦戦したろう」

「へへん、鋭刃4重は伊達ではないわ。トレントぐらい真っ二つよ。それに森はシャランラの領域だし」


 リリム達はしばらく休むとまた戦いに出て行った。

 トレントもアンデッドにしたが、こいつら鈍足だから、役に立ちそうにない。

 盾として並べるのはありだろうけど、回り込まれたら突破される。

 蔦の鞭も微妙。


 そう思ったら、聖騎士の死骸をぶら下げているトレントがいる。

 おー、死霊魔法使いのトレントね。

 ゾンビの手下が増えても結果はさほど変わらない。


「トレント弱いとか思ってない」


 プリシラが俺の心を読んだかのようなことを言う。


「微妙だなと思って」

「怖いのは花を咲かしているトレントよ。香りで幻惑したり魅了するわ」

「搦め手が強いのは分かる。リリム達は大丈夫かな」

「トレントだと分かっていれば問題ないわ。これを鼻に詰めるの」


 差し出された薬品の染み込んだ綿を鼻に詰める。

 ツーンとした清涼感が鼻を突き抜ける。


「これ気持ちいいな」

「鼻の病気の薬にも使える薬品だから」


 アンデッド達は惑わされないよな。

 状態異常無効がアンデッドの特徴だからな。

 何かあればプリシラが一言いうはず。


 花の咲いたトレントの死骸が運ばれてきた。

 これが花が咲いているトレントか。

 ピンクの大輪で奇麗な花だな。


 確かにクラクラするような匂いがする。

 花に詰めた薬品が効果を発揮しているのだろう。

 錯乱したり幻が見えたりもしない。


 アンデッドの怪我人が続々と運ばれて来た。


「何があった?」

「うー、トレントの下僕になった聖騎士が強くて」

「これが厄介なの。あの香りを嗅いだ人は通常の何倍もの力を出すわ」

「バーサク付きの香りね。それは厄介だな。リギッド、カーカス、倒しに行くぞ」

「うが」

「うー」


 現場に行くと、花の咲いたトレントの周りに聖騎士がいて守っていた。

 聖騎士の目が真っ赤になっているのが見て取れた。


「リギッド、カーカス、やれ」


 リギッドが突進していく。

 トレンとから蔦が何本も絡みついた。

 リギッドは力任せに蔦を引きちぎる。

 聖騎士が物凄いスピードで駆け抜け、リギッドに一撃を与えていく。

 リギッドの足が斬れ、腐汁が飛び散った。


 足の止まった聖騎士にカーカスが攻撃を加えていく。

 おー、リギッドとカーカスでも苦戦するのか。


「うー、【精神汚染、正気に戻れ】」


 カーカスが精神汚染を発動。

 聖騎士達の動きが止まった。


 その聖騎士をリギッドが叩きのめす。

 立っている聖騎士はいなくなった。


 リギッドが止めとばかりにトレントと組み合って、鯖折り。

 戦いが終わった。

 俺なら次元斬で一発だ。

 花の咲いたトレントは場合によっては使えるかもな。


 でも所詮、初見殺しの感が強い。

 リリム達が帰ってきた。


「花の咲いたトレントとはやらなかったのか」

「やったわよ。対策ならばっちり」

「リリム姉は危なかった」


 シャランラが暴露。


「ちょっとフラフラしただけじゃない」

「でどうしたんだ」

「薬の瓶を投げた」


「そう言えばちょっと匂うな。でも鼻にその薬品を詰めているから、よく分からない」

「乙女に匂うは禁句よ」


「アルチ、状態異常に掛からなくなる魔道具を作れないか」

「治癒魔法があるから、状態異常解除も作れるけど、パッシブではないの」

「そういう時は、ゴーレムを使え。ゴーレムに状態異常を感知させて魔道具を使うんだ。出来るか?」

「それなら出来る」


 できた魔道具は、コガネムシのペンダントトップ。

 『覚醒の蟲』という名前らしい。


「リリム、よかったな。これで心置きなく突撃できるぞ」

「私は突撃馬鹿じゃない!」

「私でもあれはないなと思った」

「メッサもそんなことを言うの。酷い」


「こうやって弱点をひとつずつ潰していくことが大事なんだ。長所を活かすのも大事だが、同じくらい重要だ。ひとつ戦闘経験が積めたと思って喜ぶんだな」

「みんなに馬鹿だと思われているなんて喜べない」

「大将は少しぐらい抜けてる方が良い。そうすると周りが支えてあげないといけないという気持ちになる」

「そんなものなのかなぁ」


 俺みたいな参謀役が抜けてなけりゃいいだけだ。

 そうして組織は回っていく。

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