第25話 情報交換

 リリムを支援してくれるであろう人達がいる村へ寄る。


「これはリリム様ではありませんか。ここにはどのような用件で」


 初老の男がお辞儀する。


「リリン家を再興しようと思うの。盗まれた宝剣も取り返したわ」

「それはまた……おめでとうございます」


 歓迎されている雰囲気ではない。


「リリム、この人達にも生活がある」

「悲しいわね。人との関係がこんなに脆いなんて」

「すみません」

「いいのよ。無理を言っているのはこっちだから。邪魔したわね」


 リリムが立ち去る。

 あー、こりゃ一筋縄ではいかないな。

 そうだよな。

 何年もほっとかれて、また協力してほしいと言っても、そう簡単に協力はできない。

 しかも、勝算があまりない賭けだ。

 再興ではなく、新しく家を作るぐらいの気持ちでいた方がいいのかな。


 馬車に入ると、リリムの表情が冴えないのが見て取れた。

 さっきのことを気にしているのだろう。


「家臣は新たに集めた方が良いかもな」

「そんなのはリリン家じゃない!」

「人には人の事情がある。説得は容易ではない」

「でも」


「リリン家を再興してから人を集めたらどう」


 プリシラがそんなことを言った。


「この人数でできることなんて高が知れている」

「唯一の仲間を信じないでどうするのよ。そんなのだから人が付いて来ないのよ」


 プリシラは容赦ないな。

 いまの俺なら爵位のひとつやふたつ容易い。

 だが、それを言っても仕方ない。

 リリム自身が成し遂げなければいけない問題なのだ。

 俺に頼ることは良い。

 ただ頼り過ぎて再興した家など、俺がいなくなったらすぐに潰れる。

 リリムもそれが分かっているのだろう。

 自分の力のなさも何もかも分かっている。


 このまま俺が追加でスキルを貸与すれば、Sランク冒険者になれるだろう。

 だが、薄っぺらい物しかでき上がらない。


「分かってるわよ。この前までお家再興は無理だって半ば諦めてた。今だってできるかどうか分からない」

「そんなことならすっぱりと諦めたら」

「諦めたいわよ。諦められるのならね。家が没落してから今まで、家族に再興するのと言われて育ったの。体に再興の言葉が染みついている。それに色々な人々の無念を思うと」


「覚悟が足りないのよ」

「分かってる。プラムマン、私を愛人にして」

「どういう結論だ」

「女がお家再興のパトロンに男を選ぶとしたらそういうことよ。身を投げ出す覚悟が必要なのよ」

「ビジネスの関係は貫く。情を絡めた付き合いは長続きしない。結末はたいがい破綻だ」


「もらってやりなさいよ」

「プリシラも言うのか」

「男のパトロンが女に支援する。それは男と女の関係ってこと、それが世間一般の常識ってものよ」

「一般常識がなんだ。そんなものは破壊してやる。リリム、もう一度この話を持ち出したら、その時がさよならだ」


「分かったわ。もう言わない」

「プリシラも言うなよ」

「ええ」


 打算ありの男女関係など願い下げだ。

 そんなのは娼婦を買うのと変わりない。

 女を金で買うような下劣な男にはならない。


「良く分かったわ。私の方向性としては仲間を信頼することね。相談に乗ってくれる? どうしたら良い?」

「冒険者でSランクを目指すんだ。スキル貸与は追加してやるから、容易いことだろ。貴族になればスキルなんかなくなってもやっていけるだろう。万が一俺がいなくなってもそんなに害はないはずだ」

「悪くない案ね。あと3つぐらいスキルがあったらSランクに届くかな」

「何が良い。防御系? さらに攻撃? 意表をついて魔法とか?」

「鋭刃をお願い。そうすれば斬れない物など無くなる」

「攻撃特化か。いいだろう。【貸与、鋭刃×3】」


「鋭刃4重掛けでも敵わない敵がいたら、プラムマンにお願いするわ」

「分かった。それまでは手を出さない」


「プラムマン、あなた何者?」


 プリシラの疑い深そうな目。

 鋭刃3つは不味かったか。


「プリシラの雇い主を吐いてくれれば、こっちの秘密を少し話そう」

「いいわよ。ギルドグランドマスターの依頼で、あることを調べている」


 何を調べているかが分からないと。

 駆け引きだな。


「俺はスキル強奪ができるスキルを持っている。死体からも奪える」

「それでそんなにスキルがあるのね」

「次は何を調べているか喋って貰おう」

「ある討伐依頼の報酬を巡っての調査よ」


 うん、依頼の報酬とは何だろ?

 何の依頼だ。

 俺にそれが何の関係が。

 さて俺の秘密の何を明かそう。

 魔王討伐はやばそうだ。

 勇者パーティへの復讐も駄目だ。


 異世界人であることはどうだ。

 これは別に関係ないか。

 現代知識を狙われても何とかなるだろう。


「俺はこことは別の世界の人間だ」

「それで、納得がいった。全てのピースが嵌ったわ。記憶喪失は嘘なのね」

「そうだ、嘘だ。情報交換はここまでにしたい」

「ええ、こちらもそれでいいわ」


 討伐依頼の報酬ってのが気に掛かる。

 隠れて、賠償スキルを使って硬貨一枚も取れなかったから、嘘は付いてない。

 ええとどういうことだろう。

 たまたま、調査依頼の方向と俺達の進路が一緒。

 そんな偶然があるものか。

 全財産を賭けても良い。

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