第32話 ゾンビ強化

「ところで、私に何を作らせたいのかな」


 宿には無事に帰ってこれた。

 部屋に着いたアルチが当然の疑問を口にする。


「禁忌魔道具を作ってもらう」

「やっぱりね、そんなことだと思ったわ」

「断るのか」

「1個作るのも100個作るのも同じ。教会に捕まれば、拷問されて死ぬ運命よ」

「『強者の渇望と亡者への道』がほしい。出来るか?」

「魔石と生命力吸収と生贄スキルがあればね」

「それなら持っている」


「じゃあ、やるわよ。手を出して」


 俺が手を出すとそれをアルチは握り、もう片方の手で魔石を握った。


「【魔道具化】。はい、完成」


 開いたアルチの手には黒いオーラが立ち昇る水晶玉があった。

 俺はアイテム鞄からゾンビを出した。


「死霊魔法使いだったのね」

「契約しているから秘密は喋れない。他の人がいる前では気をつけろよ。俺は構わないがお前が死ぬ」

「騙したのね」

「俺の契約魔法が特別なだけだ」


 ゾンビの数だけ『強者の渇望と亡者への道』を作らせた。

 さて、この街にはもう用がないな。


「アルチ、どうしたい? これからは自由だ」

「一緒に行くに決まっているでしょ」

「そうかよろしくな」


 馬車の定員が一杯だ。

 御者台にメッサとアルチ、馬車の中にリリムとプリシラとシャランラと俺。

 馬車をもうひとつ連結するか。

 今度は荷馬車じゃなくてちゃんとしたのにしよう。

 街を出る前に俺は馬車を買って、連結した。

 俺専用の空間がもてる。

 もっと早くこうしておけばよかった。


 俺はひとり馬車の中で手足を伸ばした。

 ウソツキー領の領都を出て少し経ったところで、ゾンビ達を解き放った。


「カーカス、指揮を頼むぞ。敵わないモンスターからは逃げても良い」

「うー、了解しました」


 ゾンビ達が出てきた鹿に抱きつく。

 胸に着けた『強者の渇望と亡者への道』が鹿の生命力を吸い取った。

 そして、ゾンビに経験値を与える。

 これを繰り返して、カーカスは生命力吸収スキルを得たのだな。


 本来なら『強者の渇望と亡者への道』を作動すると持っている者も生命力を吸い取られるのにな。

 そこはゾンビだからってことか。


 街から離れた野営地で、ゾンビ達が育つまで、キャンプだな。

 アルチの才能は勿体ない。

 俺のスキルで何か作れないかな。


「アルチ、邪回復魔法で魔道具を作りたい」

「簡単よ。手を出して【魔道具化】」


 出来た魔道具は黒いオーラが立ち昇る逆さ十字だった。


「なんて名前の魔道具だ」

「『亡者の聖具』、魔力が足りないと生命力を奪われるわ」

「ゾンビが着けるのだから構わない」


 アルチ、こいつ使えるな。

 リリムより有能だと思うのは俺だけだろうか。


 パーティメンバー用に念話の魔道具を作ってもらうか。


「念話の魔道具は作れるか?」

「簡単よ」


 出来た魔道具はコインだった。


「生命力を吸い取られるとかいうオチはないよな」

「これは禁忌魔道具じゃないから。でも念話スキルの10分の1ぐらいの性能だわ。強化スキルとかあればまた違うのだけれど」

「使う機会があるか知らないが、念のために作っただけだ。魔道具であみの目の結界って作れるか?」

「そういうスキルがあればね」


 スキルを持ってないと駄目みたいだ。

 結界スキルを持っている奴から賠償を取らないと。


 次の目標は国境だな。


「プリシラ」


 俺はちょいちょいと手招きした。


「なに?」

「国境を超えるのに必要な物は?」

「越境許可証が要るわね。不法入国するなら別だけど」

「それは上手くないな。何か良い方法は?」

「教国に行くのよね。なら巡礼になるのが手っ取り早いわ。教会で、巡礼の聖符というのを金を積めば貰えるの。これを街の役人に見せると、許可証が貰える」

「全く世の中金だな」

「まあね。ところで巡礼の目的は何?」


「ああ、亡くなった人の供養とかそういうのか」

「幸せを願ってという人もいるけど」


 うーん、巡礼の目的ね。

 死んだ親の供養とかいうと、どういう死に方をしたかなど聞かれる危険性もある。

 それにリリム達には関係ない。

 ここは無難に商売繁盛だな。


「独立して店を持てることになったが、その商売の成功を祈ってという理由ではどうだ」

「30点ね」

「100点満点の評価だよな」

「もちろん、こんなに女の子が多いんだから、幸せな結婚を祈ってという回答なんか素敵じゃない」

「ぜんぜん、素敵じゃない」

「そう」


 賠償スキルも商売の一種には違いない。

 上手く聖女ウザリから賠償が取れるといいな。

 それを神に祈ろう。

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