第38話 蒸留
腕や足を溶かされたアンデッドが続々と運ばれてくる。
「どういうモンスターにやられた?」
「うー、スライムです」
スライムか。
火魔法が良いんだけど。
俺は火炎魔法と火魔法のふたつしか持ってない。
「やってやりましたよ。溶かされましたが、生命力を根こそぎ吸収してやりました」
得意げなレッサーヴァンパイアの顔。
そういえばグールは運ばれてこないな。
「グールを見たか?」
「あいつらスライムを食ってました」
ああ、そういう対処法ね。
「スライムはグールに任せろ。適材適所だ」
そう俺は命令した。
「スライムって強敵なんだな」
「ピンキリよ。弱いのは木の棒で叩くと膜が破れて死ぬけど、強いのはメイスで殴っても溶かしてしまうらしいわね」
「それは強いな」
おっと、スライムが天井に張り付いている。
「【次元斬】」
スライムが両断された。
こうやって遠距離から斬るのが望ましいか。
アンデッドに任せておけば一掃するだろうけど、任せておくのも癪だな。
火炎瓶でも作るか。
酒を蒸留しないとな。
「【火魔法】【結界魔法】」
「何やっているの?」
リリムが俺のやっていることに興味を示した。
「アルコールは100度行く前に気体になる。それを結界で冷やしてやれば、純度の高いアルコールができるってわけだ」
「物知りね。シャランラ知ってた?」
「錬金術は修めてない」
「蒸留酒の作り方ね。酒造ギルドの秘法だわ」
プリシラも話に乗ってきた。
「蒸留器作れるの? あれを作れれば一攫千金狙える」
アルチの目が金貨になった。
「火酒、あの酒はこんな作り方だったのか。喉が焼けるが美味い」
メッサは酒飲みらしい。
出来たアルコールをメッサが試し飲みして顔をしかめた。
「味も香りもない」
「あれは樽で何年も寝かせるんだ」
「よく知ってるわね。酒造ギルドは秘法を知ってる人間を外には出さないはずだけど」
「俺は異世界人だからな」
「そうだったわね」
「ねぇ蒸留器作りましょうよ」
「お勧めしないわ。酒造ギルドが刺客を放つと思うから」
「アルチ、辞めておけ」
空き瓶にアルコールと布を詰める。
スライムが見えたので火を点けて投げてみた。
効果は抜群だ。
スライムの表皮は火に弱いらしい。
火であぶられると、どろりと溶けた。
「正攻法だと燃える松明を押し付けるとかかな」
「知らなかったの。知っててアンデッドにやらせていると思った」
呆れた様子のリリム。
「異世界にスライムはいない」
「平和な世界なのね」
「今はどうなのかな。滅びて人はいないらしいけど」
アンデッドが来たので火炎瓶を渡す。
しばらくして外傷のない聖騎士の死骸が運ばれて来た。
「こいつはどうやってやっつけた」
「うー、勝手に倒れました」
ええと。
「狭いところで火を使うとそうなるのよね」
「ああ、酸欠か。おお、アンデッドと火の組み合わせ最強じゃないか」
「アンデッドは火に弱いわ。忘れたの」
「弱いと言ってもスライムほどじゃないだろ」
「まあね。人間も火傷が酷くなると死ぬわね。アンデッドの方が長く耐えられるかも」
「だろうね。それよりもドライアイスの方が良いか」
「ドライアイスって何? 儲かるの?」
アルチがドライアイスに興味を持った。
「物が燃えると二酸化炭素ができる。それを凍らせたのがドライアイスだ。常温で気体に戻るから、アンデッドに持たせれば、密閉された空間なら無敵だ。密閉した空間は結界魔法で作れるな。ドライアイスアタック、一考の価値があるかもな」
「どうやって作るの?」
「二酸化炭素に圧力をかけて液体にする。そして放出して凍らせる。結界魔法と氷魔法で出来るはずだ」
「簡単なのね」
試しに作ってみた。
粉状のドライアイスが出来上がる。
それに水を少し混ぜて固まらせた。
アイテム鞄に入れておこう。
何気に現代知識は役に立つな。
それにしても結界魔法の便利なこと。
二酸化炭素を集めるのも、圧力を掛けるのも思いのままだ。
俺のレベルと魔力量ありきというのもあるが、本当に便利だ。
結界魔法、たくさん欲しいな。
どんな悪党なら持っているだろうか。
生贄スキルでもらえたら良いが、邪結界魔法とかは精神的に効果を及ぼしたりする結界なんだろうな。
暗黒魔法に含まれていそうだ。
「【邪結界魔法】。やっぱり含まれてたな」
効果は思った通りだ。
精神に影響を及ぼす。
邪神のスキルは微妙に使えないな。
結界魔法はやっぱり悪党からはぎ取るに限る。
あとでプリシラにどんな悪党が結界魔法を使っているか聞いてみよう。
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