第2話 滅殺復讐ギルドを知ってるか

Side:ウメオ


「お前さん、滅殺復讐ギルドって知ってるか」


 俺は酒場で、一緒のテーブルに座っている男に話し掛けた。

 俺の飲み物は水だ。

 悲しくなんてない。


「知らんが」

「冒険者ギルドに銅貨6枚の依頼を出す」

「ふんふん、それで」

「そうすると依頼票を書くように言われるだろ。その裏にこっそり殺したい奴の事柄を果汁で書く。そうすると復讐が叶うってわけだ。ただし本当の殺しの代金は金貨6枚」

「ほんとか」

「まあ願掛けみたいなもんだ。復讐神が新しく生まれただろ。その神への祈りみたいなもんだ」

「へぇ」


 同じ話を方々でした。


「ご苦労さん」


 門番に声を掛けて、屋敷の門を潜る。

 貴族の屋敷としてはここは小さい。

 二階建てだが、部屋数は10部屋ほどだ。


 門番が詐欺師でも見るような目で見ているような気がした。

 まあ、間違ってはいない。

 醤油職人なんて肩書は、醤油に馴染みのない異世界人には詐欺師以外の何物でもない。

 実際に門番に聞いても詐欺師だと思っていると言うだろう。


 廊下でメイドとすれ違うが、会釈すらしない。

 目も合わせない。

 うん、冷遇されているな。

 まあ仕方ないけど。

 ここへ来る時は小銭をせびる時だ。

 メイドもその現場を何回も目にしてる。


 まあ、別にいいけど。

 リリムの執務室の扉をノックする。


「プフラだ」

「どうぞ」


 中にいるリリムから声が掛かる。


「邪魔をする」


 そう言って扉を開けた。


 リリムは茶髪のボブカットで鋭い目つきをしている。

 旅を始めたころは没落貴族だったが、見事お家再興を成し遂げた。

 ほとんど俺の力だというのは言わないで良いだろう。

 だが、俺と出会ったのも運が良かったからだ。

 運も実力のうち。


 執務室は良く片付いている。

 リリムの机と応接セットがあり。

 リリムの背後には本棚がある。


 リリムの机には書類が積まれていた。

 リリムは剣を背後本棚の棚ひとつを開けてそこに置いている。

 手を伸ばせばすぐに届く距離だ。


 用心は怠らないようで安心した。


「望んで貴族になったけど、書類仕事ばかりでうんざり。代わってほしいけど、言ったらバチがあたるわね」

「まあな。復讐の神の仕事じゃないことは確かだ」

「でまた小銭? 金貨を渡してもいいわよ」

「リリム、貸与してたスキルはどうなった?」


「ステータスオープン。なくなってるわね。でもレベルは残っている」


 ちょっとがっかりした様子のリリム。

 リリムは今まで俺に付き従ってくれた仲間。


 リリムがステータスを書きだす。


――――――――――――――――――――――――

名前:リリム・ラ・リリン

レベル:35

魔力:2856/2856

スキル:

  鋭刃

  斬撃

――――――――――――――――――――――――


 この世界、レベル9までが駆け出しで、レベル10から19までが一人前、レベル20から29までが熟練、レベル30から39までが一流、レベル40から49までが英雄、レベル50から上は伝説だ。

 リリムは一流ということだ。


「前に言ったかと思うが、滅殺復讐ギルドをやりたい」

「あれね。いいんじゃない。悪党ってのはそこらから生えてくるのよ。それに更生なんて望めない」


 まあ異世界の価値観ではそういうよな。

 盗賊は裁判なしに死罪の世界だから。


「会合では俺の名前は、醤油屋のプフラ。リリムは女領主のリリン」

「まんまね」

「斬撃のリリンとか、そういうのが良い?」

「いえ、二つ名なんてどうでも良いわよ」

「生活費として銀貨5枚くれ」

「いきなり現実に戻されたわね」


 銀貨5枚を貰って、それを空中に投げてキャッチする。

 レベルは下がったが、体の感覚は鈍ってないな。


 硬貨は銅貨が最低で、大銅貨は銅貨10枚。

 10枚ごとに硬貨が変わっていく。


 大体の物価は。

 銅貨1枚が10円で。

 大銅貨が100円。

 銀貨が1000円。

 大銀貨が1万円。

 金貨が10万円。

 こんな感じか。


 銀貨5枚は5000円ぐらいの価値だ。

 銀貨を投げキャッチしながら歩く。


 メイドとすれ違うと、軽蔑した目つきで見られた。


「文句あるのか」

「芸人に転職なされたらどうです」

「芸人はさんざんやった」

「道理で口が上手い。その口でリリム様をたぶらかしたのですね」

「まあな。それが何か?」

「いいえ」


 この芸人崩れの詐欺師がと小さい声が聞こえた。

 別にいいか。


「ふん♪ふ♪ふーん♪」


 鼻歌を歌いながら、銀貨を投げてはキャッチしながら去った。

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