第21話 金貸しを嵌める

 次の街に着いた。

 やはり、最初に冒険者ギルドに行く。


「私、魔法通信してくるから」


 そう言ってプリシラが離れる。

 魔法通信のこと隠してはないんだな。

 どこと通信してるか聞いてみようかな。


 リリム達は近隣のモンスター情報を頭に入れている。

 街道に出てくる物騒な奴はすぐに討伐されるから、心配は要らないが、念の為なのだろう。


 商人らしく、商業ギルドに行った方が良いのだろうか。

 アイアンゴーレムの鉄材を売ってしまおうか。

 盗賊が寄って来てもプリシラがいるので洗脳魔法が使えない。

 死霊魔法は隠れて使えるが、アジトのお宝が取れないんじゃ旨味が少ない。


 鉄材を売ろう。

 馬車を商業ギルドの裏手に付けた。


「鉄材を売りたい。急いでいるんだ」

「それはそれは。ええとこの金額になります」


 職員は算盤の駒を動かした。


「それは相場なのか」

「ええ、もちろん」

「ならいい」


 叩いて買えるカモが現れたと思っているのだろう。

 鉄材と連結している荷馬車を売った。


「【賠償】。くくくっ、儲かった」


 詐欺みたいな商売するからこういうことになる。

 今頃、財布の金が軽くなって青い顔しているに違いない。

 それと足りない分は商業ギルドの金庫から出たのかな。

 金額が合わなくて担当者が首にならないといいけど。


 馬車を商業ギルドの駐車スペースに入れ、建物の中に入ると何やら騒がしい


「誰か助けて下さい!」


 少年が跪いて叫んでいる。


「迷惑です。お帰り下さい」


 受付嬢が少年を立つように促す。


「嫌だ。もうこれしか方法が」

「警備!」


 受付嬢が警備を呼んだ。

 いかつい男が二人現れて少年を両脇から持ち上げた。

 そして出入り口まで運ぶと投げ捨てる。


「もう来るんじゃないぞ。しつこいと守備兵に渡すからな」


 少年は悔しいのか震えている。

 俺は少年に近寄った。

 商業ギルドから金を巻き上げて気分が良かったので、ちょっと散財してもいいかなという気になった。


「助けてやる。いくら必要なんだ」

「ほんと。助けてくれるの」

「今日は少し気分がよくて、ただの気まぐれだから気にしなくていい」

「ええとお母さんが病気で、借金取りが、もうお金がなくて」

「落ち着け。お母さんが病気なんだな。病状はどうだ?」

「治癒魔法を掛ければ治るんだけど、教会に行ったら払えない金額を言われて。今までは薬でなんとかしてた」


「じゃあそれから片付けよう。案内しろ」


 少年に案内されて、家に入る。

 死者の匂いというのか、そういうものがした。


「母さん帰ったよ」

「まあ。そちらはどなた?」

「名前なんか知らなくていい。【治癒魔法】」


 魔法の光が母親を包む。


「体が軽いわ。良くなったみたい。あなたの事情は分かります。教会に所属してないはぐれ治癒師なのでしょう」

「そんなところだ。教会に知られるとややこしい」


「ありがとうございました。この恩は忘れません」

「ありがとう」


 俺は少年をちょいちょいと突いた。

 部屋から出て、人助けの続きだ。


「借金取りの話をしろ」

「それが変なんだ。最初の話では年1割の利息のはずが、年元金の2倍になっていて。もう借金が金貨100枚を超えている。あいつら家を寄越せと言うんだ」


 詐欺の匂いがするな。

 上手くやれば儲けられる。


「よし、金貸しの所に案内しろ」

「分かった。ついて来て」


 金貸しの店は表通りの一等地に建っていた。

 こりゃむしりがいがあるな。


「邪魔をする」


 でっぷり太った男が帳場の椅子に腰かけていた。


「なんだカーモじゃないか。家を手放す気になったか」

「このおじさんがなんとかするって」


「お前はなんだ?」

「プラムマン、旅の商人だ。この少年の肩代わりをしようと思っている」

「ふん、良いだろうこっちは金さえ払って貰えれば文句はない」

「肩代わりしようと思うが手持ちがなくてな。肩代わりの金を貸してほしい。それと商売の資金も貸してほしい。大商いする予定なんだ」

「ほう、どれぐらい入り用なのか」

「金貨1000枚だな」

「そうか。担保は?」

「この名剣を担保にしたい」


 俺はそう言うと聖剣を鞘ごと抜いて突き出した。


「おい、鑑定士」

「へい」


 男が現れて、聖剣を受け取ると鑑定した。


「金貨1万枚以上の価値がありやす」

「ほう」


 そう言うと男は証文を書いた。


「おい」


 証文を書き終わって奥へ声を掛けると、男が現れて俺の証文とカーモの証文を俺の所に運んできた。

 俺の証文には見た目は年1割の証文に見えるが、実際の紙には年20割と書いてある。

 幻影スキルだろう。

 証文を運んだ男が術士だと思われる。


「利息は年1割で良いんだな」

「ああ、そう書いてある」


 俺は借用書にサインして聖剣を渡して、預かり証を貰った。

 店から出て、アイテム鞄から空き樽を出して手を入れた。


「【賠償】。うほっ樽が一杯だ」

「おい、借用書が燃えたぞ! 剣もない!」


 俺は手に戻ってきた聖剣と樽をアイテム鞄に入れた。

 そして再び金貸しの下に戻る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る