第2章 教国編

第35話 国境越え

 国境の関所は街道の通りを邪魔するかのように建っていた。

 関所って初めて見るな。

 国境には柵があるのか。

 この柵はどこまで続いているんだろうな。


「お上りさんね」


 プリシラが少し馬鹿にするような口調で言った。


「初めてみるからな」

「知ってる? 関所破りは死罪よ」

「へぇ、罪が重いんだな」


「金貨10枚以上の窃盗は死罪だから、そんなものでしょ」

「罪がずいぶん重いな」

「私は軽いと思う。金貨10枚っていうと半年は暮らせるよ」


 半年か。

 10万円×6。

 やっばり重いな。


「殺人はどうなんだ?」

「正当防衛なら無罪ね。でも街の中で殺すと色々とうるさいわ」


「スリとかはどうだ?」

「片手切断ね」


 犯罪に対する罪が重い。

 もっとも、俺には関係ない。

 異世界人を裁けると思うなら裁いてみると良い。


 俺は一人治外法権だ。

 俺が法律とも言う。

 でないとやっていけない。

 異世界の不条理が多過ぎるんだ。

 俺がわざわざ付き合う必要はない。


「次」


 俺達は聖符と越境許可証を出した。


「巡礼の目的は?」

「店を出すので、成功を祈って先祖の霊を慰めたいと思いまして」

「店がはやると良いな」

「ええ、警備兵様にもご加護がありますように」

「よし行っていいぞ」


 楽勝だな。

 ウソツキー侯爵の殺し屋も教国までは追って来ないだろう。


 油断はしないがな。

 それにここはウザリのホームグラウンドだ。

 敵地に入ったと言える。

 ウザリが俺に気づいたら、何としてでも殺しに掛かるだろう。


 魔王を討伐してないのに討伐したと嘘を吐いたのだからな。

 嘘は教義に反する。

 聖職者としてあるまじき行為だ。


「教国のことを教えてくれ」


 俺はプリシラを俺専用の馬車に呼び込んだ。


「どんなことを知りたいの?」

「そうだなまずは教義からだな」

「教国で信じられているのはサルサン教。創造主サルサンを崇めているわ。どんな教義かと言えば、清く正しく生きましょう。なのだけど、上層部は腐っているわね。出世は金と血筋で決まるの」


 そして俺はサルサン教の仕草を教わった。


「次にあれだ。聖騎士について知りたい」

「聖騎士は狂信者が多いわね。異教徒とモンスターとアンデッドを殺すのを喜びとしてる。特に死霊術師とアンデッドの殲滅はかなり力を入れているわ」


「俺が聖女に借りを返してもらいにきたと言ったらどうする」

「聖女に貸しているのよね。取引も教義で認められているわ。聖女と言えども借りているものは返さないと」


 馬車が停まった。

 窓から顔を出してみると盗賊がいる。


 普通の盗賊だ。

 小汚くて不潔で、髪がぼさぼさ、髭は生えっぱなし、手入れのされてない武器を持っている


 教国にも盗賊がいるんだな。

 聖騎士に根こそぎやられたかと思ったよ。


 俺は馬車から降りた。


「喜捨を貰いたい」

「サルサン教徒なのか?」

「もちろんだぜ」

「この行為は教義で認められているのか?」

「富める者は、貧しい者に分け与えよ。聖句の一節だぜ」


「ふーん、俺って貧乏なんだ」

「なら女を置いていけ。御者台に一人いるんだからな。俺達は女がいない。お前は富める者だろう」

「なんとなく楽しくなってきたよ。【賠償】」


 俺の手に金が現れた。


「何をした?」

「神はどう思っているのか聞いてみた」

「狂っているのか?」

「いいや。【次元斬】。賠償教への命の喜捨ありがとう。ゾンビになって働いてくれ」


「盗賊の御託を聞いてあげたのね」

「興味を引かれたからさ」

「教国でも盗賊は殺していいことになっているわ」

「そうだろな。でもサルサン教徒なのにどう折り合いをつけたのか気になってな」

「気は済んだ?」

「人間の数だけ理屈があるんだなと思ったよ」


 手に入れたスキルは、やっぱり身体強化が多い。

 今回手に入れたので変わった物と言えば、毒刃、火種、殴打、洗脳魔法、嫌厭。

 どれもろくなもんじゃない。


 毒刃は、刃に毒を塗ったのと同じだ。


 火種は、小さい火を出せる。

 あって邪魔ではないので、この中では当たりだな。


 殴打は殴る時に力が加算される。

 身体強化の方が使い勝手が良い。


 洗脳魔法は、暗黒魔法に含まれている。

 要らないな。


 嫌厭なんか嫌悪感を持つだけだ。

 人払いに使うのに良いのかも知れないが、使えないスキルであることは変わりない。


 もっと良いスキル来いよ。

 もっとも便利なスキルだったら、盗賊にはなってないか。

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