第36話 聖女の居場所
街で行きかう人はどこの国でも同じだな。
裕福そうな人もいれば、貧乏人もいる。
街を汚す奴もいれば、せっせと自分の店の前だけ掃除する人もいる。
善人だけ住んでいるってわけじゃないんだな。
まあそんなわけないか。
善人だけの街はさぞ暮らしにくいだろうな。
特に復讐を考えている俺なんかにとって。
宿の2階に部屋をとり、1階の食堂に降りる。
さてと。
「今日はこの街に着いた記念だ。俺が1杯おごるから楽しんでくれ」
客から歓声が上がる。
撒き餌はこれぐらいでいいな。
食事を終えた俺は、隣のテーブルの席に着いた。
「さっきも言った通り、この街に今日ついたばかりだ」
「それはそれは、サルサンのお導きに感謝を」
「感謝を。噂とかないか。そういうのが旅の生死を分けることがあるんだ」
「まあな。街にいるとモンスターや盗賊は別の世界の話だが、旅人ともなるとそうだろうな」
「何かないか」
「凶悪な奴はモンスターも盗賊もいないな。聖騎士は頭が固いが、仕事は的確だ。信用できる」
「噂では聖女様が呪いに罹ったってな」
「おう、痛ましいことだ。ただ呪いがレベルとスキルだけでよかった。もうスキルは取り戻したらしいぜ。あとはレベルだけらしい」
「くくっ」
「あんた嬉しそうだな」
「ああ、聖女様に貸しているんだ。呪いが無くなったら気分の良いところで返してもらうつもりだ」
「聖女様にお金を融通したのか」
「まあそんな感じだな」
「俺だったら、聖女様にならなんだってさし上げるのにな」
「価値が大きい物なんだよ。これをただでやるってわけにはいかない」
「聖女様ならそうだろうな。はした金なんか求めない」
「聖女様はどこにいる?」
「ダンジョン、悪夢の洞窟で、聖騎士とレベル上げさ」
「呪いが解けるといいな」
「そうだな」
レベルが元に戻ったところで、再び奪ってやる。
それぐらいの賠償を取れることをしてるよな。
俺の魔王討伐の功績を横取りしたんだから。
必要なことは聞けたし。
さて、散財した分を取り戻すか。
俺は酔ったふりをして路地にふらふらと足を踏み入れた。
「おい」
はい、馬鹿が釣れた。
5人の男達に囲まれた。
食堂で大振舞すると、こういう奴が寄ってくるのはどこの街でも同じだな。
「何か用か?」
「喜捨してもらうぜ」
「強制なのか? 喜捨なのに?」
「うるさいな。ごちゃごちゃ言うんじゃねぇ」
「脅迫なのか」
「殴らなきゃ分からないみたいだな」
「【賠償】。しけんてな。散財した額に届かない」
「あれっ、財布が軽くなったぞ」
「俺もだ」
「こいつのスキルか」
「掏りスキルなんて初めて聞くぜ」
「聖騎士に突き出しゃ。準禁忌スキルでお縄だぜ。報奨金も貰えるって寸法さ」
「儲けたな」
「何だ殴らないのか」
「よし、死なない程度にタコ殴りだ」
「おう」
殴って来たが、レベルが違うのでダメージにはならない。
「おかしいぞ。いくら殴ってもぴんぴんしてる」
「自己回復系のスキル持ちに違いねぇぜ」
それも持ってるけどな。
レベルが違うんだよ。
「【賠償】。ステータスオープン。ごろつきはほんと身体強化が好きだな」
「なにしやがった」
「さて何だろな」
「くそっこうなったら聖騎士にチクってやる」
「どうぞどうぞ」
一回、嘘判別に掛かって、嘘スキルの有用性を確かめたかった。
俺は悠々と宿に引き上げた。
しばらくして、部屋に聖騎士がなだれ込んで来た。
「ご苦労様です。なんのお調べですか?」
「準禁忌スキルか、禁忌スキルを所持していると通報があった」
「そんな。私は真っ当な商人です。身に覚えがありません」
「おいあれを」
「【嘘判別】準禁忌スキルか、禁忌スキルを所持してますか?」
「いいえ」
「所持してないようです」
「俺を通報したのはチンピラじゃなかったですか。あいつら物取りなんですよ。私は腕に覚えがあるので少し懲らしめたんです。それをきっと逆恨みしたのに違いありません」
「世話を掛けた。あいつらは捕まえて罪状にあった処分を下す。聖騎士の名に掛けてな」
「お願いします」
くくっ、嘘スキルはほんと使えるな。
ものの見事に騙されてくれたぜ。
嘘判別スキルが役に立たなければ問題ない。
証拠を残すようなへまはしないからな。
あの掏り行為だって俺がやったとは限らない。
そう聖騎士は考えるはずだ。
あいつらゴロツキだからな。
聖騎士は奴らの言うことを信じないだろう。
何かの勘違いだと思うに違いない。
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