第100話 商売

「お前が軍から逃がしてくれるプリュネか」

「おう」


 今の俺は逃がし屋プリュネ。

 元ピエロで、学園長殺しのお尋ね者。


 そんな設定を作る必要もないのだが、仲良くなる時の過程で身の上話は必要だ。


「こっちだ」


 士官の目を欺き逃がす。

 相棒は猛毒ネズミ。


 野原にネズミがいても誰も気にしない。

 士官も気にしないから見張り役にぴったりだ。


 元の村に帰れない奴はリリムの作られるであろう領地の住人になってもらう。

 待つ間の当座の金として金貨1枚渡す。

 働くだろうから、贅沢しなければ1年間ぐらいは楽に暮らせるはずだ。

 怠け者や、贅沢に溺れている奴はお呼びじゃない。

 野垂れ死にでもなんでもしてくれ。


 そんなこんなで1000人ぐらい逃がした。


「脱走兵が多いってな」


 ミタイナーがそう愚痴った。

 愚痴じゃなくて憧憬かもな。


「なんだ逃げたいのか。逃がし屋の伝手ならあるよ」

「逃げたら、故郷の女房が困る。乳飲み子を抱えての夜逃げはつらい」

「俺も婚約者に愛想を尽かれてしまう」

「胸を張って告白できないのは困る」


 3人は逃げないらしい。

 こういうところが死亡フラグの所以なのかな。

 逃げ時を失ってしまう。


「かと言ってお前ら手柄に走るなよ。そんなことをしたら死ぬぜ」


 俺は忠告した。


「おう、目標は五体満足で帰ることだ」

「俺も」

「俺はちょっと手柄に興味があるけど、死んだらどうにもならないからね」


 今、軍に残っている奴は帰りたくても帰れない奴だ。

 ある意味一番可哀想とも言える。

 さて、俺は商売でもするかな。

 軍は物資もだいぶ浪費しただろうし。


「ええと、プフラという兵士なんですが、ここに来る前は商売をやってまして」


 士官を捕まえてそう言ってみた。


「商人が何だ」

「ご入用の物があったら安くしときますが」

「ツケで売ってくれるのか?」

「それはもう。ただしその分少し値段はあがりますがね」

「それは構わない。よろしく頼む」


 俺は紹介状を一筆書いてもらった。

 調達係の士官と会う。


「ふむ、ツケで売ってくれるとは愛国心の在る奴だ。商人がな戦の旗色が悪いとみてツケで売ってくれんのだ」

「それはお困りでしょう」

「お前の名前は上の方にも伝えておく」

「へい」


 どうせ金を払うつもりなどないのだろう。

 そういう考えが透けて見える。

 だが関係ない。

 俺は賠償スキルがあるからな。

 踏み倒したら、国庫から賠償してもらうだけだ。

 この軍は国がやっているのだからな。

 責任は問えるはずだ。


 アイテム鞄があるので、近隣の街から物資を集めた。

 俺が駆け回れば3日もあれば集まる。


 多額のツケの証文が手に入った。

 物資の値段は市価の値段より3割は高い。

 払うつもりがないからこその大盤振る舞いなんだろうな。


 俺はホクホク顔で3人の所に戻った。


「しばらく見なかったが、どこ行ってた?」


 ミタイナーが疑問を口にした。


「商売だよ。士官に商品を売り込んだんだ」

「かなり儲かったのか」

「おう、たんまりとな。ツケだけど」

「平気なのか。貴族はいざとなると平気で踏み倒すような輩ばかりだぞ」

「この軍は国主導だから国に払ってもらうつもり」

「伝手があるのだな」

「まあね。商人の真似事をやってたから、伝手はある」

「じゃあ、お前のおごりで飲ませろよ。儲かった時ぐらい、おごるものだ」


 俺は安酒を出してやった。

 酒盛りが始まる。

 ちょっと前までは考えられなかった雰囲気だ。

 タガが緩んでいたがここまでじゃなかった。

 もう軍は崩壊寸前だな。

 酒盛りしてて注意する兵士は一人もいない。


「コンヤック、芸やります。肉詰めがブラーン、ブラーン」

「ぎゃはは。極太フランクフルトってか」

「笑えないよ。ツタエート、告白の予行練習します」


 ツタエートが前転、跪いて、花を差し出す。


「好きです、付き合って下さい」

「そんなんじゃ駄目だ。花束を用意しろ」

「違う違う、押し倒しゃいいんだよ。嫌っていうかもだけど、本当に嫌なら跳ね除けない。そのまましっぽりすっぽり行け」


 こいつらは能天気だな。

 軍が崩壊した時に生き残れるかな。

 俺は兵士を殺したいわけじゃないから、運が良ければ大丈夫だろう。

 だが死亡フラグが立っているからな。

 ことさら守ることもないが、気が向いたら守ってやろう。

 感謝しろよ。

 こんな幸運は滅多にないぞ。


 酒盛りは深夜まで続いた。

 見ると他の兵士で飲んでる奴がいる。

 酒はかなり納入したからな。

 ただ、士官用だとは聞いたので、たぶんくすねたのだろう。

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